キズナアイちゃんの配信や特設ティザーサイトに関連して調べたりしたこと

概要

2024年6月30日、スリープ中のキズナアイちゃんの8歳の誕生日であるこの日に、突如として「Me in the dream」と題する動画が投稿されました。

その後、ティザーサイトと 「s h e e e e p」と題する配信が始まり、7月1日現在配信継続中です。

この記事では、これらについて個人的に調べたことをまとめました。だいたい wikipedia からの引用ですが、コンテンツを楽しむ一助になればと思います。

ティザーサイトについて調べたこと

当該サイトでは、デフラグを思わせる画面上に時折、
cognition
Hello
please, could you stop the noise?
I'm trying to sleep
のように読めるメッセージなどが表示されています。
また、セルオートマトンと呼ばれる計算アルゴリズムの内、特徴的な3種類のアルゴリズムが実行されているようです。

セルオートマトンとは

セルオートマトンとは、格子状のセルに2つ(あるいはもっと多く)の状態を持たせ、あるルール沿って、セルの次のステップにおける状態を、そのセルと近傍のセルの現在の状態によって決定する計算モデルです[1]。サイトでは、2つの状態は白と黒で表されています。
ルールの決め方によってさまざまな様々なモデルを作ることができ、サイトでは、2次元セルオートマトンの一つである「ライフゲーム」と1次元セルオートマトンである「ルール30」、「ルール110」が実行されているようです

ライフゲーム

ティザーサイトを眺めていると、時折部分的に高速で不規則(のように見える)に白と黒が入れ替わることがあります。これはライフゲームを実行しているようです。

ライフゲームは2次元オートマトン、つまり、方眼紙やティザーサイト自体のように、2次元に広がる格子上で計算されるモデルです。このモデルにおいて、格子の2つの状態は「生」と「死」として表現されます。2次元なので、ある1つの格子には合計8つの格子が接しており、それらの状態によってその格子の次のステップの状態が決まります。ルールは以下の通りです。

誕生
死んでいるセルに隣接する生きたセルがちょうど3つあれば、次の世代が誕生する。
生存
生きているセルに隣接する生きたセルが2つか3つならば、次の世代でも生存する。
過疎
生きているセルに隣接する生きたセルが1つ以下ならば、過疎により死滅する。
過密
生きているセルに隣接する生きたセルが4つ以上ならば、過密により死滅する。

wikipedia ライフゲームhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0

これらのルールは、生命は過疎でも過密でも生存に適さないという背景を持っています。
単純なルールから複雑なパターンが生まれることが知られており、また、チューリング完全(後述)であることが知られています[2]。

ルール30

サイトを見ていると、上から順に二等辺三角形のような形が表示されることがあります。これは、ルール30と呼ばれるアルゴリズムで計算されているようです。
ルール30と後述のルール110は1次元セルオートマトンのアルゴリズムです。
1次元なので、まっすぐ横一列に並んだ格子上で計算されるアルゴリズムであり、ある格子の近傍は両隣の2つの格子です。
ある格子の次のステップの状態は、現在のステップの自分自身及び近傍の格子、合計3つの格子から決められ、3つの格子の取り得るパターンは2^3=8通りです。
1次元セルオートマトンのルールはこの8通りに対して、それぞれ次のステップで2種類のどちらの状態をとるかを決められるので2^8=256通りのルールが定義できます。それらに対して、ルール0~256の名前が付いており、ルール30はその一つです。
サイトに現れる二等辺三角形はルール30に従った計算結果を上から順に時系列で並べたものです。
ルール0~256の中でも、特にルール30はわずかな初期状態の変化から大きな変化が生じるカオスであることが知られており、また、自然界の中にも似た模様が現れることが知られています[3]。

ルール110

サイト上で上から順に直角三角形のような形が表示されるのは、ルール110の計算結果のようです。
ルール110も1次元セルオートマトンのアルゴリズムの一つです。
ルール110は1次元セルオートマトンの中で(実質的に同等なルールを除いて)唯一チューリング完全であることが証明されており、もっとも単純なチューリング完全システムとして知られています[4]。

チューリング完全と万能チューリングマシン

(調べたけどよくわからなかったので間違ってたらすみません)
チューリングマシンとは AI 研究の第一人者であるアラン・チューリングが、計算可能性について議論するために提唱した仮想のマシンであり、マシンに値を入力するテープ、テープの値を読み取るヘッド、マシン内部の状態からなります。現在のステップのマシン内部の状態とヘッドで読み取った値から、あるアルゴリズムに従って次のステップにおけるヘッドの動きと内部の状態が決定します。計算機で解けるあらゆる問題は、チューリングマシンの動作に還元できることが知られています(万能性)。
チューリングマシンの動作は、それぞれのマシンに決められたアルゴリズムによって異なりますが、そのアルゴリズムをうまく決定することで、すべてのチューリングマシンの動作をまねることができるチューリングマシンを作ることができ、それを万能チューリングマシンと呼びます。
チューリング完全とは、あるアルゴリズムが、万能チューリングマシンと同じ計算をすることができることをいいます[5]。
余談ですが、アラン・チューリングは AI が人間をまねることができるかを確かめるテストとして、チューリングテストを考案したことで知られています。

s h e e e e p の配信について考えたこと

※ここからは、調べたことではなく私の考えです。
上記のように、サイトや配信で動いているアルゴリズムはどれも、生物の誕生、進化、淘汰、そして人工知能に関連する非常に単純なモデルです。これらは、スリープ中であるアイちゃんの、スリープ中であっても動いている根源的な性質を示しているのかもしれません。
また、配信タイトルの s h e e e e p はフィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に掛けたものかもしれません。この小説は、人間とアンドロイドの違いを主題とした SF 小説です。主人公で賞金稼ぎのデッカードが脱走したアンドロイドを破壊する命令を受け、それを遂行するうちに、「人間」と「機械」の違いについて考えさせられることとなり、最後には人間と機械の違いはその身体的な構造などには関係なく、共感性をもって人に親切にできるか、であり、人間もアンドロイドも、「人間的」であることもあれば、「機械的」であることもある。そして、『電気動物にも生命はある。たとえわずかな生命でも。』と締めくくられます(完全に個人の解釈です。言うまでもなく面白いので読んでください。)。また、この小説では、アンドロイドと人間を見分ける方法として、フォークト・カンプフ法と呼ばれる共感性を調べるテストが出てくるところも印象的です。
さて、s h e e e e p の配信では、ここまで述べたような画面が表示されているだけでなく、コメント欄にてキズナアイの一部楽曲名を入力することで、それらの楽曲がアスキーアートで表現された MV とともに流れる仕掛けがあるようです。この仕掛けがどういった意味を持つのかはまだわかりませんが、歌は上記で述べたようなテストを AI が合格するために必ずしも必要なものではありません。もしかすると、それが、一般的な人工知能の概念とアイちゃん自身を区別するもの、そして、彼女と私たち人間とのつながりを象徴するものとして表現されているのかもしれない…などと考えます。

以上、お読みくださりありがとうございました。

参考にしたサイト

(いずれも2024年7月1日閲覧)

[1]wikipedia セル・オートマトン

[2]wikipedia ライフゲーム

[3]wikipedia ルール30

[4]wikipedia Rule 110
https://en.wikipedia.org/wiki/Rule_110

[5]チューリングマシンの万能性と万能チューリングマシンについて

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