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『体育教師を志す若者たちへ』

 部活動指導がしたくて体育教師を目指す学生さんがたくさんいるのではないでしょうか。しかし、部活動の地域移行で部活動は学校教育ではなくなります。体育教師は授業研究にこそのめり込んで欲しい。そんな思いで『体育教師を志す若者たちへ』という本を出そうと原稿を書き上げました。しかし今の出版業界は厳しい状況です。
 そこで原稿をネットでたくさんの人に読んでいただけたらと思いました。
 最初からちょっとずつ添付していきます。今日は「はじめに」です。

はじめに
 2022年3月、39年間にわたる中学校の体育科教員生活を終了した。これまでの実践の到達点は自著『体育で学校を変えたい』(創文企画2016年)にまとめることができた。しかし退職間際まで、私一人では解決できない大きな問題に直面したまま、教職を退くことになった。それは中学校における「部活動指導重視の教育思想」という壁だった。そして部活動の地域移行が始まった。
 現在まで行われてきている部活動指導の殆どは教員の勤務時間外に行われており、私は部活動指導は教員の仕事ではないと考えてきた。従って地域移行は必然であり歓迎したい。このことによって、体育教師でもなく、運動指導経験もなくて顧問をさせられてきた多くの先生方が救われることになる。地域移行していく部活動は学校教育ではないことも文科省は明確にしている。
 しかしながら地域の受け皿が不十分なため、文科省は本来認めてこなかった、教員が兼業として地域スポーツの指導にあたること、そこで収入を得ることを認める通達を出してきた。部活指導をやりたい教員はこれまでのように指導ができる。地域指導者に手当を出すこと自体は当然のことだろう。
 こうした状況の中で私が懸念していることは、これまでの「部活動指導重視の教育思想」実現のために、今度は体育科教員としての勤務がサラリーマン化し、地域での部活指導に熱をあげていくのではないかという心配だ。本書中に何度が登場する文言だが、私は「体育教師は授業で勝負し、そのことで給料をいただいている。その仕事は部活動指導に熱を注ぎながら片手間でやっていられるような仕事ではない」ということを伝えたい。教員は教育研究者という側面をもっており、だからこそ勤務時間が守られ、自由に使える時間に勤務時間を越えてでも自由な内容の研究ができるよう保証されなければならないと考える。
 勤務時間外の部活動指導はあくまで趣味の世界だ。部活動が学校教育でなくなればなおのことだろう。部活動の地域移行で、これまで部活動重視だった体育科教員は本務としての体育授業研究にのめり込んでいくことができるのだろうか。本書を『体育教師を志す若者たちへ』とした意図は、これからの体育科教員は、「部活動指導がしたいから」ではなく、本気で「体育授業がしたいから」という覚悟で教師を目指ざさなければならない。そして体育授業研究はこんなにも面白くて、そして難しいということを伝えたいと考えて本書をまとめた。
 学校教育として機能していた部活動指導は地域へ移行することで消滅する。放課後を含めて、学校に、学校教育として、新たにどんなスポーツ文化を築いていくのか、体育科教員は新しい道を開拓していかなければならない。
 

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