見出し画像

非日常は、つづく


先:「じゃ、順番にバスから降りてー」


都市部の喧騒から離れ、妙に風が気持ちいい。


校外学習。

…非日常ってやつだ。


先:「こっからは班行動。
16時にはここに戻るんだぞ」


高校は授業ばっかだったし、

こんなに自由なのは久々だ…


?:「○○くんっ」

○:「あやめさん…」


同級生の、筒井あやめさん。


あ:「じゃーん。おやつ買いすぎちゃった」


小学生じゃん…

無邪気で可愛いけども。


○:「300円まででしょ?」

あ:「いいじゃん。少しあげるからさ」


…うん、別にいいとは思う。

班長っぽいことを言ってみただけ。


?:「班長…!よろしく…ね」

○:「井上さん…!班長呼びは慣れないや…」


こちらは井上和さん。


和:「えっ、なに照れてるの?
…可愛いとこあるじゃん」

○:「ちょっ、やめてよぉ」


彼女、隠れたクラスの人気者です。

男子たちの目線が怖いよ…


あ:「ねぇ班長?早く行こうよー」


ぎゅー。

ちょっとあやめさん。井上さんの前で…


和:「さ、最初はカヌーだからさ…こっち…」


ぴとっ。


そうだった…井上さんもこんな感じだったわ…


髪を通して、両腕から漂う華やかな香り…


当然、胸の鼓動は速くなり、

僕は必死に、悟られまいと黙り込んだ。





最初はカヌー体験。

2人乗りしかないみたい。


○:「じゃあまずは女子同士で乗りなよ」


あ:「あ…?」
和:「は…?」


和:「(○○くんって鈍感なとこあるよね…)」


あ:「(必死になってる
私たちが馬鹿みたいじゃん)」


あれ…

同性同士の方が気楽に乗れると思ったんだけど…


○:「なら僕と…」


あ:「はい!」
和:「はい。」


プレッシャー…


お前が決めなさい、

と言わんばかりに睨みつけられる。


こういう時の定番は…


○:「じゃんけんで決めよう。1回勝負ね」


神様、うまくいきますように…


ジャンケン…





いっちに。

いっちに。


気まずい。

非常に気まずい。


和:「…」


あの井上さんのことである。

どんなテクを使ってくるのかと身構えてたけど、

全然何もしてこない。


和:「…」


そしてほおが赤い気がする。


僕が何もしなさすぎて、呆れちゃったのかな…

それともカヌーが下手すぎて引いてるのかな…


…でも、2人カヌーって協力戦だからさ、

井上さんにも非があると思うんだよね(?)



…こういうとこが嫌われるんだよ、僕…


和:「あ…あのさ…!」

○:「ん…って井上さん?!」

和:「この校外学習が終わったらね…いや」



この不安定なボートの上で立とうとする彼女。


ちょっとちょっと…嘘でしょ。


和:「今…○○くんに伝えたいことがあるの」

○:「待って待って」



やばい…このままじゃ、


和:「君って…私のこと…キャッ」



耳、鼻、目、口。


それはあまりにも一瞬で…


○:「がぶぼぼぶぉ...…」



僕たちは、5月の湖に放り出された。





○:「ねぇ…まだ怒ってる…よね」


あ:「…」


僕と井上さんはビショビショになった結果、

シャワーや着替えをする羽目になり、

あやめさんとのカヌーは、

叶わぬ夢となったのだ。



そのほか色々と予定が狂い、最後に残ったのは…


○:「プラネタリウム、か…」


暗闇の中、満天の星空が広がり、2人はそのまま…

なんて思い描くのが鉄板だが、


○:「えと…僕が真ん中ね…」


あ:「…」
和:「…」


両手に花…だったのは過去の話。


…地獄である。ぶっちゃけ。



あやめさんは特に不貞腐れてる。


このまま寝てやり過ごそうか…



…ごめんね。

2人とも幸せにはできないよ…





…急速に発展したこの現代。

星空を見上げることは少ないからか。


意外にも、僕はこの空間を満喫していた。


あ:「けほけほっ…」


ただ、さっきからあやめさんの様子がおかしい。


…流石に見放す男ではない。



○:「…大丈夫?」

あ:「…ちょっと無理かもしれない」

○:「…外出る?」


こくりと頷く彼女。


○:「井上さんごめん。先出てるね」


和:「え…」



1人置いてくなんて、悪いと思ってる。


でもごめん、


…あやめさんが心配だったんだ。




________________________________________




あ:「けほっ…」

○:「もう…大丈夫?」


ずっとチャンスをうかがってたけど…

ようやく、2人きりになれた。


あ:「うう…あそこの椅子座ろ…?」


体調が優れないというのは、

100%嘘ではない。


ただ…


○:「ちょっと…重いよ…」


もぉ…。



星空の下、彼との距離は近すぎて。


落ち着いてなんかいられなかった…



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



○:「井上さんの勝ちっ」


和:「やったぁ!○○くんと2人きり…」

あ:「…」



まずいな…


いや待てよ、後攻の方が彼の印象に残りやすいか…

ありだな。


○:「じゃあ救命具取ってくるね」

和:「ありがと〜」



和:「あやめ…ちゃん?」

あ:「ん?」


和:「私はね、2人がすっごい羨ましい」

あ:「そ、そうかな」


和:「ベタベタしすぎないのに、
お互いを信頼している感じ」


私はもっと…ベタベタしたいんだけどな。



和:「でもね…私は今日にかけてきたの」



彼女から笑顔が消える。


和:「私がクラスの男子から
好かれてるのも知っていた。」


何かを覚悟している、そんな眼に見えた刹那…



和:「でも…私は彼しか見てないの」




和:「今日...…想いを伝えるから」



わかっていた。

そんな気はしていた。



私が、考えるのをやめていた。



○:「井上さん、こっちこっち〜」

和:「ごめーん、今行く」


2人きりの空間。

これ以上ないチャンスじゃないか。



私もカヌーの上で…


そう思っていたのだが。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




あ:「はぁ…。ちょっと楽になった」


それは叶わず、今に至る。


○:「よかった…。ゆっくり休もう」


…ふぅ。

今しかない。

あ:「ゆっくり…。うん、先戻っていいよ」


和ちゃんと何かあったのか、揺さぶってみる。


○:「いやいや、まだいるよ。心配だし」

あ:「良いの?
あっちには和ちゃんがいるんだよ?」


○:「そうだけど…それが?」




あ:「…愛を育んできなよ」



○:「…おっとどうした。」


あ:「さっきのカヌー、なんかあったでしょ」

○:「へ?…何もないけど」


あ:「とぼけないで。自首した方が罪軽いよ?」

○:「だからないって」


あ:「…はぁ。私から言うしかないのね」

○:「なんか勘違いしてない?
井上さんとは何も…」




あ:「告られたんでしょ」


○:「…え」



あ:「私より、彼女を選んだんでしょ?」






あ:「…つまり」

○:「告られてないってこと。」


あ:「…全て」

○:「あなたの思い込みです」


あ:「......…」



やってしまった…



恥ずかしすぎる。


あれだけ彼を疑っておいて、違うなんて…


○:「で、でもね」

あ:「うぅっ…」


○:「確かに最近
井上さんに気に入られてる気がするし…」


○:「ちょうど相談したかったんだよ、



あやめさんに」



…ん?

私に…相談?


それってわかってんの?



どういうことか…


○:「彼女から好かれるのは嬉しいけどさ」


○:「…1番ではないかな…って」


ほんとモブくんは…




あ:「…ばか。」



○:「えっ」


あ:「1番じゃないなら、きっぱり断りなよ」


あ:「それが
和ちゃんに対する礼儀ってもんじゃないの?」



○:「…そうだよね。
過度に期待させるのも失礼だし」


○:「わかった。ありがとう…」



ぎゅっ。


あ:「…ちょっと待ってよ」

○:「ん?」



あ:「1番の子には、何も伝えないの?」


○:「ふぇっ…それは…」


あ:「そ、その子だってさ、
いつ誰に取られるかわからないんだし」


あ:「わ、
私が相談に乗ってあげてもいいんだよ…?」


○:「えぇっ…その…」

あ:「教えてよ、○○く〜ん」


○:「はわ…」

あ:「いいでしょ…?」



○:「近いっ…
わかった、わかったから一旦離れて」



え、どうしよう…



本当に言うの…?


はぐらかすと思ってたのに…


○:「ふぅ…」


○:「真剣に聞いてね」


あ:「う、うん」

○:「僕が好きなのは…」



や、やだ…



聞きたくないっ…!



○:「...…つ」



○:「......…つっ!」





和:「あやめちゃん!大丈夫?」


...…え


あ:「うん…もう落ち着いた」



タイミング悪く、

プラネタリウムが終わったようだ。


彼にとっては救世主か…?


和:「よかった…。
でも○○くん?急に置いてかないでよねっ」

○:「あ、うん…ごめんね」


和:「じゃあ最後にお土産でも…って」


和:「もうすぐ16時じゃん!早く戻らないと」


○:「え、やば…って足はや。」


和:「先行ってるからねー」



あ:「ふふ…和ちゃんって真面目なとこあるよね」



彼女のせいで、彼の告白は聞けなかったけど。


焦ることないよね。



どうせ彼から言ってくれないだろうし。




私がいつか伝えるんだろうな…








ぎゅ…



○:「…あやめさん。」


あ:「え…??」





○:「僕の1番は…あなたです」




また、逃げると思っていた。



あんなに地味で、人見知りで、愛おしくて…


そんな不器用だった君から。




あ:「え…え……」


○:「えと…先帰る…」



ようやく、告白されました_____





あ:「もぅ。遅いよ」




続く