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最近兄がへなちょこすぎて困ってます。

【ぜんぶ母のせい編】


なんだか寝苦しくて、思わず目が覚める。
耳をすませば、雨の音。

ジメジメしてて、髪型も上手く決まらない…

それでも、私は梅雨の時期が好き。

なぜなら…




○○:「あ、暑いよ…」

彩:「もぉ。照れてるだけでしょ」


お兄ちゃんと、相合い傘ができるから…!!

こんなに近くにくっつける…
それだけでしあわせなのです。


○○:「なあ、彩」

彩:「なーにー?」


○○:「これ、何歳まで続けるんだよ」


私の兄こと○○は、顔だけ言えば悪くない。

でも、なんというか…
すごくへなちょこなんです。


今日の朝もお弁当を忘れそうになったし、
兄から話しかけることは殆どないし、

彼女ができたのも見たことないし…


彩:「あやがお嫁に行くまで」

○○:「何年かかるんだよ…」

彩:「お兄ちゃんよりは早いもん!」


○○:「はいはい、僕には一生無理ですよ…」


あと、とにかく暗い。

ザ・陰キャ。


そんなお兄ちゃんのことが、
いつも心配でならないのです。




○○:「じゃ、今日も塾あるから」

彩:「えー。こんなかわいい妹を一人で帰らせるの〜?」

○○:「彩には友達たくさんいるから、大丈夫だろ」


そういうことじゃないのになぁ…

彩はお兄ちゃんと一緒に帰りたいのに。


仕方なく昇降口で兄と別れ、
私は自分の教室へ向かう。


この数分の道のりが、最近は長く感じる。



HRまで時間があり、人はまだまばら。

彩:「おはよー…」


誰からも返事がない。


各々自習してるし、そんなもんか。

そう言い聞かせていた。


胸の鼓動は早くなっていた。





昼休み。

教室が騒がしくなる。


みんながグループを作って昼食をとるなか、
私は一人。


…そう。

私多分、みんなから無視されてるんだ…





入学したての頃、私はすぐに友達ができた。

最初は誰もが平等で、
みんなのことが優しく見えた。


キラキラした高校生活が始まると思っていた。



でも、一ヶ月くらい経った頃かな。

日々の生活に慣れてくると、
教室の風紀が少しずつ乱れていった。

スカートを切ったり、化粧をしだす子も現れた。


そんなある日…


女1:「小川さんってさ、ガキっぽいよね」


私へのいじめが、始まってしまった。



小学生みたいとか、田舎っぽいとか…

派手な化粧をした彼女たちにとって、
私なんか芋同然だったのだろう。


はじめは仲が良かった子たちも、
いつしか傍観者となり…

話すことはなくなった。


正直、今は学校なんか行きたくない。



…って!

お兄ちゃんが根暗なのに、
私まで暗くなってどうするの!

お兄ちゃんに心配はかけられないよ…!


というわけで、今日は秘策があるの..

その時まで、私は静かにお弁当を食べます。


もちろんトマトも一緒に。



___



ふーっ、お腹すいたー。


…あれ。
やべっ、箸忘れた…


ちょっとしたピンチがあると、
僕はいつも彩のもとへ向かう。


妹に頼るなんて情けないが、
僕はいつもその優しさにつけ込んでいる。

正直、彩のいない生活は考えられない。

いつも言葉にしないけど、たまには
「ありがとう」って伝えようかな。


たまに機嫌が悪いところもかわいいんだけどね。



ここだな…1-A。


○○:「えっ…?」


鈍感な僕でさえ、この景色が異常だと気づいた。

彩が、一人で食べている…


○○:「…」


彩と対比するかのように、底抜けに明るい教室。



胸の鼓動が、早くなる。

助けなきゃ、って咄嗟に感じた。


でも、僕の足は硬直し、
話しかけることは、できなかった。


…うっ。

最低だ…僕って。


あの光景が脳裏に焼き付き、
午後の授業なんかどうでもよくなった。

夕方塾についた後も、
なんにも頭に入らなかった。


その間、雨が一度も止むことはなく…



___



さぁ…着替えの時間がやってきました!

ではここで、本日の彩の秘策を発表します。


じゃがじゃがじゃが…じゃーん!


黒の……下着…っ!


…え?どういうことかって?


実は、今日の5限が体育なんだけど…
体育の前って、必ず着替えるでしょ?

そこで、彩のこの姿をみんなに見せつければ…?


女1:「え?!小川さんセクシー!」

女2:「似合うじゃん。バカにしててごめんね…?」


彩の子供っぽいイメージを、
払拭できるに違いない!

お母さんと一緒に、二時間悩んで買ったんだもん…

きっとうまくいく。


つらい日々も、今日で終わり…

よし。


いざ、脱ぐ…っ!



彩:「…あれ?」


更衣室の空気が、瞬時に重くなった気がした。


女1:「ねね、小川さんの格好見てみ?ヤバくね?」

女2:「何あれ、ダッサ…。小学生が調子のんなよ」

女3:「はいみんな注目!小川のガキが大人ぶってま〜す」

ダメ、だった…


みんなの視線が私に集まる。

誰も手を差し伸べてはくれない。


この格好のまま、
更衣室から飛び出したいくらい。

もう、なんだかどうでもよくなった。


その後家まで帰れたことが、
今思えば不思議でならない。




次の日、私は学校を休んだ。

傘をささずに帰ってきたから、
軽く風邪を引いたようだ。


当然、家族に心配された。

でも、心配はかけたくなかった。


自分の部屋に入ってから、静かに泣いた。

誰にも聞こえないように。

よく眠れないまま、今に至る。




寝てるだけでも、汗をかいた。


外から、小さい子達の元気な声。
もう、15時を回ったのかな。


母:「彩ー。洗濯物ここに置いとくからー」

彩:「はーい。ありがとー」


扉越しの会話。

そろそろ起きよう…


きれいにたたまれたブラウス。

あたたかい。太陽のぬくもりかな。


彩:「お母さん。いつもありがと…」


最後に靴下。これで終わり…


…?


彩:「下着は…?」


彩の、黒い下着がない…

途端に、昨日のあの記憶が…


彩:「あの子たちが、とったの…?」


頭がぐわんぐわんする。

涙はもう、枯れきっていた。


今となれば、あの子たちがとった訳がない。

だって、その晩お風呂に入るまで、
ずっとつけてたんだから。


でも、その時の私は恐怖のあまり…


彩:「もう…なんであやばかり…?!」


怒りと悲しみに、押しつぶされていた。



○○:「彩?大丈夫か…?」


突然、扉の奥からお兄ちゃんの声がした。

気づかないうちに帰ってきたみたい。


彩:「う、うん。あや元気だよ」


しばらくして、扉が閉まる音。

自分の部屋に戻ったんだろう。


途端に、お兄ちゃんに甘えたくなる。

何も言わずに、彩のことを撫でてほしい…


ううん、でも私がお兄ちゃんを支えないと…!


気持ちの整理がつかないまま、
私は兄の部屋へ向かう。

いつもの、元気な自分を装って。



___



彩のやつ、絶対元気じゃないだろ…
でもなんて声かけたらいいんだ…?

うーん…


いい案が思い浮かばないまま、
僕は洗濯物をしまう。


ん…?


この黒いブラ、まーたお母さんのが…

いや…?


新品っぽいし、なんか小さいな…

まさか…


彩のっ…?!


彩:「お兄ちゃんー?開けるねー」

○○:「えっ??ちょ…」


嘘だろ..

バレたら殺される…


僕は咄嗟に、尻の下へ隠した。




彩:「お兄ちゃん、あの、さ..」


いつもとは違う笑顔に、僕には見えた。

やっぱり学校で..


○○:「どうした?」

彩:「あやのね..下..着が、見当たらないの」


自然と心がきゅっとする。

そっちか..気づいてたか..


○○:「あらら」

彩:「まさかお兄ちゃん..」

○○:「盗るわけないだろ。ただの兄なんだし」


最低の兄だ。
もう、後には戻れない..


彩:「そう言うと思ってね..」

○○:「?」

彩:「第一回!お兄ちゃんの部屋抜き打ちチェック〜!」


..
今日の妹は、特に冴えてるようだ..


○○:「は?おい勝手に..」


ここを動いたら..死。


彩:「まずは机の引き出しからっ」




良かった..まだ気づいてない。
今日のところはもう戻ってくれ..


てか全然元気そうだな..


彩:「何もなさすぎじゃない..?楽しくない」

○○:「まだ誰のものでもないんで」

彩:「..はぁ。お母さんに我儘言ってあれ買ってもらったのに」


やっぱりか。

彩ももうそんな年頃に..


大人になったなぁ..


○○:「ふぅん。確かに黒..」

彩:「え?」

○○:「あ。」


彩:「..」

○○:「..」



時計の音だけが、嫌でも耳に入ってくる。

…なんだかもう、笑っちゃいそうだった。


彩:「そういえばお兄ちゃん、さっきからずっとそこにいるよね?正座なんかして」


かわいく小首をかしげる彩。

声のトーンは低くて不気味。


○○:「き、緊張してるだけ」

彩:「あやわかるよ。そこに何かあるんでしょー?」


ゆっくりと、ニコニコ近づいてくる。

尻に敷いた以上、もう逃げ場はない..


○○:「そ、それh」

彩:「いけない子には、コチョコチョの刑だ!」

○○:「あ、ちょっ、やめうううっ」



彩:「ふふっ、脇腹が弱いのかな〜?」


弱点への集中攻撃が、決定打となり..


○○:「あっ、だめ..」



僕の重さで潰れたそいつは、静かに姿を現した。



○○:「あ..」

彩:「え....?」

○○:「違っ、これは..」

彩:「そんな....」


彩の気持ちは二の次に、言い訳だけを考える。


○○:「洗濯物..そう母さんが間違えて僕のとこに入れちゃって」



見苦しい兄..でも事実なんだ。


彩:「ううっ..」


何もいい言葉が思いつかない..

こういうとき、母ならどう慰めるんだろう。


○○:「僕も悪かった。だから泣かないで..」

彩:「お兄ちゃんで、良かったぁ..」


..?
よくわからないけど..

助かった、のか..?


○○:「え?..あぁ、よしよし..」




ひと通り、彩の話を聞いて..


彩:「ううっ..お兄ちゃん、これってあやがいけないの..?」


どんな理由があれ、
加害者が守られるのはおかしい。


○○:「彩は何にも悪くない。..学校辛かったろ?」

彩:「お兄ちゃんたちに、心配かけたくなくて」

○○:「彩は昔から、一人で抱え込むタイプなんだから」


とは言ったものの、僕にも非はある。


彩に頼りすぎていた。

彩なら大丈夫だろうと、最近面倒を見てやれず..

結果、彩に辛い思いを..


彩:「ごめんなさい..」

○○:「妹を助けられなかった、僕こそ兄失格だよ」

彩:「ふふっ..優しいね」


リラックスした、彩の自然な笑顔。


○○:「..?」

彩:「ねぇ..」


彩との距離が近くなる。

柔軟剤のかすかな香り。


○○:「うん..?」

彩:「今だけあやのこと、ギュッてしてほしいな..」


身内とはいえ、いつもの僕ならうろたえてた。

でも、今日は..


○○:「うん…いいよ、おいで?」


彩のすべてを、受け入れたかった。




彩:「ひさびさのハグ..なんかいいね」

○○:「..うん」


妹の、華奢な体。

わずかな汗の匂いさえ、今は心地良い。


彩:「またあやがいじめられてたら..今度は助けに来てくれる?」


もう、逃げたりするもんか。


○○:「もちろん。いつでも彩の教室乗り込むから」

彩:「そういうタイプじゃないじゃん」


それでも、なんだってするよ。

彩のためなら。


○○:「そうだけど..こんな可愛い妹なんだもん」

彩:「ふふっ..お兄ちゃん大好き..」


心からの、彩の思い。

全ての僕に沁みわたる。


○○:「僕も..」

彩:「もう少し、ぎゅーしてていい..?」

○○:「うん..」


この時間が、ずっと続けばいいのに。

陽が落ちるまで、
僕らは抱きしめあったのだった。




彩:「でもお兄ちゃん、あやの下着知らないふりしてた」

○○:「そ、それは..」




続く…かも?