ウマ娘、スティルインラブのことを一か月間考えた記録

5thライブ大阪Day1以降、私はずっとスティルインラブのことばかり考えている。
私の競馬歴において最高のレースはスティルインラブが勝ったオークスであり、それからずっと彼女は私にとって最も大切な馬であり続けていた。
だからこそ3周年でウマ娘化が発表されたときは思わず声をあげたが、ただ純粋に嬉しいだけとはいかなかった。

私はウマ娘のスティルインラブと、その名を背負ってステージに上がる声優のことを好きになれるのだろうか?

ウマ娘というコンテンツに触れてきて初めて味わう不安だった。
誰かがRTした担当声優のアカウントをフォローしてはみたが、過去の出演作や配信を調べることさえしなかった。
しかし大阪城ホールでステージに立つ宮下早紀さんの姿を見て、不安の半分は吹き飛んだ。
逆に歓喜や後悔など、20年のあいだ自分の中にこもっていた感情が溢れ出してきた。
ああ、自分はもう一度スティルインラブのことを応援できるのだ!

だがそれでも私の不安の残り半分は未だ消えていない。
スティルインラブがどんなウマ娘なのか、トレーナーとどんな関係を築くのか。
そういったことを一か月ずっと考え続けて、彼女にどんなテーマを持ったウマ娘になってほしいのかある程度考えもまとまってきた。
ぱかライブで多少なりとも一面が見えることになると思われるので、その前に一区切りとして自分の考えを吐き出しておく。

1.Cygames公式の出してきた「ウマ娘、スティルインラブ」像

「一見、おしとやかで良識的、特徴といえばお菓子好きなところくらいの、影が薄いウマ娘。 だが、ひとたびレースとなると強者と競い合い、喰らうことに愉悦を感じる獰猛な顔を見せる。 普段は、そんな本能を理性で抑え込んでいるが、衝動に耐える姿は悩ましげで、謎の色気がある。」(公式HP)
「ふふ……ずっとおりましたよ? トレーナーさんのすぐ傍に……」(公式HP)
「さぁ、全てをむき出しにっ!」(公式HPサンプルボイス)
「春の大感謝祭……。ずっと一人であった私が、他の皆さまとチームを組むだなんて。」(ハチャウマ公式HP)

これらの説明文と「赤き魔物を抱いて」というキャッチコピーの付けられた公式応援タオル、加えてDay1の彩Phantasiaで見せたヴィルシーナとのやり取り。ウマ娘公式の出してきた人物像は一貫している。
内に獰猛さを秘めた、一見おしとやかな影の薄いウマ娘。
赤くハイライトの薄い目と、白いヴェール、薬指にのみ塗られたネイルの赤が特徴的だ。
背はやや小柄な部類に留まるが、特筆すべきはその3サイズ。100人あまりいるウマ娘の中でも一番と言っていい線の細さだ。
キャラデザの傾向的には「薄幸」「自己肯定感の低さ」が反映されていそうな感じがする。

ただはっきり言って、パーティーゲームの主役ポジに置かれるようなタイプではない。
実馬のネームバリューだって高いとは言えない。
三冠牝馬の中では最も地味だし、最弱のGⅠ3勝馬論争をするなら初めの方に名前が挙がる。
同世代のライバルとの絡みが多くなるタイプでもなさそうだ。ネオユニヴァースとは未対戦のまま終わったし、ウマ娘になっている馬の中で強かった頃のスティルインラブと走ったことのある者は現時点でいない。
トリプルティアラで三度破った「強者」もウマ娘の世界観的にかなり実装が難しく、1人が基本となるタイプのキャラだろう。
それでもスティルをロゴにしようと思った何かがサイゲにはあったのだろうか?
同室と推定されるネオユニのシナリオは高い評価を得た。そのくらいの手ごたえがあるのか?
新人でもなくステージでのライブ経験もなかった宮下さんをキャスティングしたということは、演じるのが難しいキャラではないかとの推測は出来る。
あまり積極的に他人と関わろうとしないタイプの性格だろうし、ストーリー4話分でどうトレーナー契約にこぎつけるのかはライターの腕の見せ所だ。

2.史実から考える育成シナリオ

メイクデビュー→チューリップ賞→桜花賞→オークス→秋華賞→エリ女→金鯱賞→宝塚→府中牝馬→エリ女

目標レースは多分こんな感じ。
チューリップ賞がファン数に変わるか、ローズSが追加されるかどうか程度の差しか無いだろう。
ゲーム内でティアラ路線を選ぶことになる理由はなんとなく想像がつく。
同期の大物がティアラ路線へ進み3代オークス制覇目指すことを早々と公言し、その大物と戦おうと自分も同じ路線を選択するといったところだろう。

3歳のスティルインラブは、好位~中団からしっかり末脚を伸ばして差し切るお手本のような競馬をしていた。
ローズSやエリザベス女王杯の負けはあったとはいえ、順風満帆と言っていい。
ゲームのシナリオ内でも、その内に秘めた獰猛さがいい方向に働いてトリプルティアラを達成できるのだろう。

しかし、古馬になった彼女は明らかにそれまでの走りができなくなっていた。
私でも金鯱賞以降は彼女の馬券を全然買わなかったほどだ。詳しくは覚えていないが、関係者や予想家のトーンが好感触だったことは引退までなかったと思う。
怪我や足元の不安に苦しんだわけでも転厩や主戦騎手の引退があったわけでもない。衰えるにはまだ早すぎる。
今になって当時のことを調べようとしてみたが、古馬になった彼女について書かれた資料はほとんど見つけることが出来なかった。
ただ結局のところ、彼女はレースで走ることやトレセンで調教を付けられることを好きではなくなってしまったのだろう。

この辺りはウマ娘の育成シナリオ内においても反映されると考える。
獰猛さが次第に失われていくのか、逆に獰猛さが悪い方向に向かってしまうのか、あるいはレースに対する熱意を失う何かが起こるのか。
いずれにせよスティルの育成シナリオの後半では、そのあたりをしっかりと丁寧に描いてほしいのだ。
金鯱賞か宝塚記念では、ただ真っすぐに仲間・金・夢のために走るタップが登場して余計に走る理由がわからなくなったりするかもしれない。
その後夏合宿を経て徐々に立ち直り、府中牝馬Sを経てエリザベス女王杯を勝つまでがシナリオの目標だろう。

では、彼女はどうやって立ち直るのだろうか?
牝馬三冠で戦うあのライバルが実名で登場しないかぎり、スイープに叱咤激励されたカワカミのような展開は考えにくい。
ユキノは幼馴染によって原点に立ち返ることが出来たが、出自的にそういう存在は出てこないだろう。
となるとあとはもう一人しかいない。プレイヤー自分自身である担当トレーナーその人だ。

3.ウマ娘のシナリオに込められる願い

ウマ娘の育成シナリオには、プレイヤーの介入によって「IF」の部分で願いを叶えているもあるのだなと感じるものがある。
アストンマーチャンやネオユニヴァースのように勝つこと以上の願いを持たせているものもあれば、人々がモデルとなった馬に込めていた願いを反映させたものもある。
あの馬にはこうなってほしかった、○○と対戦してほしかった、もしこうしていればなど、そのまま育成シナリオのテーマにもなったりする。
では、スティルインラブが背負った願いは何だ?

牝馬三冠という偉業は成し遂げたが、彼女の後半生は幸せとは言い難い。
それでも関係者の方々は彼女の復活を誰よりも願って調教を付け、レースに臨んでいたはずだ。
競走馬として復活できなくても、その血を残して欲しかった。
血が残せなかったとしても、余生を穏やかに過ごして欲しかった。
しかしその願いはいずれも叶わなかったのだ。
そもそも彼女にしてみたら、もう人間の願いなど大きなお世話だったのかもしれない。
そう、人間は競走馬にエゴを押し付けている。競馬という競技はどうやったってそうなってしまう。
人間にできることは、馬券を買ったり馬の世話をすることくらいだ。
だがゲームの中では、ウマ娘の彼女は人間の言葉もわかるし人並みの意思もある。
そこでくらい、人間の願いが、愛が伝わってもいいのではないか?

4.愛のテーマ

「愛」をテーマにしたウマ娘は既に存在する。先代の三冠牝馬であるメジロラモーヌだ。
ラモーヌがレースを愛する理由として、人間の都合で早期に引退させられたからというのは理由の一つに入っていると思う。
育成シナリオ内でも早期引退を持ち掛けられる場面が存在するが、ラモーヌはこれをバッサリ切ってIFの世界線に突入してレースへの愛を貫いた。

スティルの場合これとは全く逆の、対照的なものになるのではないだろうか。
レースへの熱意を失った自分を、どうしても諦めてくれないトレーナー。
何故そうするのかという問いに対して、ウマ娘が、レースを愛しているからだと答える。
そう人間の馬に、競馬に対する愛だ。ラモーヌとは対照的な愛を描くことで競馬の一つの側面を描こうと試みる、そんなシナリオ。
最後には「キミのことが好きだから、俺のために走ってくれ」くらいは言っていいと思う。何より私が思っている。
史実を乗り越え、赤き魔物に支配されず従えた姿を見せて欲しい。

迎えたエンディングでは、かつてのライバルがドゥラメンテの面倒を見ている場面が出てくることだろう。
その光景をトレーナーと二人で見て、何か言葉を交わすのだ。
せめてウマ娘の世界では、彼女がトレーナーと「幸せ」を掴んでくれますように。

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