無題

きっと、どうせその本を開くことなく終わると経験的に分かっていても、出張先や、本命でない授業の教室に、読みさしの難しい勉強の本を持っていくのが人間の性であり、結局『重り』にしかなりませんよね、と僕が言うより早く、先輩は「もう、『お守り』だと思うことにしている」と言ってみせた。

つい最近まで、先輩のお守りはとても分厚く、階段の上り下りを一層苦労させる代物だったが、ようやく薄手のお守りに変わったそうだ。

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箱いっぱいの苺を安く買える町で、苺を買い、しかしそのひとつに「黴が生えている!」と気付くや否や、「それは俺が食うよ」と隣にいた彼女の先輩がパクッといってしまった。そんな話を年下の女性から聞いた。その子の代わりに、僕がその胃の強い男に惚れた。

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