老犬

老犬

私がしているのは、死にかけの年取った犬の世話です。おじいちゃんの介護をしているとき、死ぬことをわかっていて、病の苦しみに耐えるのは本当につらそうだと思いました。でも、犬には死が理解できません。私とお別れすることもわかりません。体が苦しくても、痛いともいえません。無邪気で、苦しくても、私が話しかけると喜んで、かすかに耳をひくひくさせます。そんな姿を見るとつらくて、涙が出そうになりましたが、泣くと、犬を心配させてしまうので、泣かないように我慢して、撫でてやることにしていました。

と、今日犬を病院に連れて行きました。そうしたら、検査の結果、死にかけの犬が、生き返ったことがわかりました。とてもうれしいです。でも、犬が元気になったら元気になったらで、散歩を一日四回しないといけないので、私のほうが死にそうです。私が今度は倒れるかもしれません。

今日も犬の散歩をしました。途中で、犬がこっちに行きたいと、紐を引っ張ります。そこには、うちの犬と昔仲良しだった犬が住んでいた家があります。その家では、大型犬を二頭飼っていたのですが、すでにもう数年前に二頭とも死んでいます。

犬は、尻尾をぶりぶり振って、時折振り返りながら、私を引っ張っていきます。早く行こうよというような顔をしています。確信を持って、犬は、以前二頭が暮らしていた庭のほうまでぐいぐい進んでいきます。当たり前ですが、二頭ともいません。

犬は、尻尾の動きをいったん止めて、あれ？　といった顔をします。なんでいないんだろう、と不思議がっているのです。あたりのにおいをかぎまわって、首を傾げます。いるはずなのになあ、と探し回ります。いくら探してももういないんだよ、会えないんだよ、と私は思います。犬は、私を見て、尻尾を振って、もしかしたら、みんなで散歩に出かけてるかもしれないね、ともかくいないみたいだから、さあ、散歩の続きをしよう、と催促します。黒くてまん丸の目がぴかぴか光ってとってもかわいく見えます。

私は何度も何度も同じことを繰り返し考えます。

犬があの小さな頭の中で一生懸命考えていることを、ちょっとでもいいから、知りたいな、と。