OMC219 writer記

こんばんは。今回はwriterを務めましたOMC219について、writer視点でのアレコレを書いていきたいと思います。

まず、開催にあたって運営の皆さん(特にKitayamaYujiさんとmaple116さん)とtesterの方々(Tempurabcさん、Hi_mathさん、kaaaaaaaaさん、SP1さん)には感謝を伝えたく思います。SP1さんはこちらから依頼した形ですが、結構急な依頼であったにもかかわらず非常に真摯に対応していただきました。
問題ページは以下です。
https://onlinemathcontest.com/contests/omc219



開催まで

セット自体は確か3~4月ごろ投げたやつだったと思います。

開催の通知が来たのがOMCE002開催日で、コンテスト前にのんきにXを確認していたら自分がwriterになるらしいということを知ってびっくりしていました。testerをしたことが無かったので、どういう雰囲気なのかつかめまていませんでしたが、今回で出題までの流れや作問での注意点含めていろいろと勉強になりました。できればwriterやる前に別の回のtesterを経験しておきたく思っていたのですが、結局できなかったのはちょっと反省点です。
直近で OMCE002,第27回灘中入試模試,OMCB008 と三回連続で問題に不備があるコンテストが続いていたこともあいまってか、自分はもちろん、運営側も少し慎重なチェックを進めていたかもしれません。
GW中は少なくとも4日ほどはチェックできないことが確定している状態だったので、実質的に準備期間が短いと思って、目を通すのだけは早いうちに取り組んでいました。ともかく、数学的な不備におびえつつも、解説や点数、配置を決定し、本番へ。正直解く側よりも緊張しました。

セット構成

以下を目指しました

・ある程度骨のあるセット
 無印でも少し難しいセットを意識しました。
 最近無印が難しい回が続いているので、ここはちょっと微妙なコンセプト設定だったかもしれません。

・前半は典型要素が多めに
 色んな人が取り組むので、裾を広げるような感じにしたいと思ってました。このように書くと聞こえがいいかもしれませんが、典型気味な問題を作るのは簡単なだけとも言います…
結論から言うと、もうちょっと簡単な問題を配置してもよかった気がします。
・難し目のNを出題する
 無印でdifficulty2200オーバーの問題というのはちらほら出ていますが、そのほとんどが初等幾何で、整数だとOMC120を最後に出題されていません。実際の数値がどうなるかはおいといて、後ろに配置することを先に決めました。

結果的に、初等幾何が弱めかつ計算が重めのセットになりました。

問題別感想と作問過程

A

OMC219 A問題

簡単な問題枠として用意していた問題。100点で面白いと思わせる作問技術はないので、背景やその後の話を持たせる方向にしました。題材としては好きです。ただ、簡単すぎて後ろとのギャップがあったかもしれません。
また、この問題についてはあまり「自作」とカウントしていいか自分でも微妙と思ってます。参加数チェックみたいになってしまったかもしれません。唯一であるという証明は割と初等的なので、チェックするといろいろ楽しいと思います。
[自己評価] 3
作問過程
フィボナッチ数列(もしくはそれに近い数列)と平方剰余について関連を考えていた時に、そもそも平方数になる条件はどうなるのだろうと少し考えて、調べたところ0,1,12しかないことを知りました。ここからいろいろ考えてもうちょっと平方数が登場する例を構成して出題という手もあるけど、証明が主体になってしまいそう。ということでどうせなら平方数になる最小のnとしてフィボナッチ数をそのまま出題、簡単枠として確保しました。苦し紛れではありますが、二乗にして味付けはしています。

B

OMC219 B問題

9900回もコンテストがある世界線…
というのはおいといて、この問題はOMCによく見られる典型を詰め込んだ感じの構成になりました。カタラン数、ルジャンドルの定理、クンマーの定理、popcount計算どれもbeginner200~300点ぐらいで問われがちなテーマですので、一つでも知らないテーマがあったら、beginner問題を解いたり、該当する手法周りの技術を勉強したりすることを推奨します。(ただ、どちらかというとOMC特有ではある点に注意してください)ちなみに、答えが回番号と一緒の219になったのは完全なる偶然です。気づいたときちょっとびっくりしました。
提出時は詰め込み具合と計算がやや面倒なところから400点としていました。個人的には詰め込み方が人工的すぎるので問題としてはそこまで好きではないです。教育的であればよいですが…
[自己評価] 2
作問過程
カタラン数について作問の種を作っているときに、問い方は置いといて、階段状の経路が複数積まれているときの、カタラン数をたくさん掛け合わせたものについて出題したいと考えました。カタラン数の2で割り切れる回数という別テーマと複合すればいい感じに典型の複合になりそう、という目論見です。それぞれの道具を知っている人から見たらつまらなく感じたと思います。(ということで自己評価も低め…)

C

OMC219 C問題

今回の唯一の幾何、がこれでいいのか?みたいな感想はあらかじめ予言しておきます。幾何勢にはすこし申し訳ないです。面食らう条件なのでちょっと図が書きにくいかもしれませんが、図形的性質は割と追いやすいと思います。もともと度数にしてましたが、運営さんにより弧度法へと変更されました。非本質な計算が減る変更なので参考になりました。
こういう「あり得る角度」の問題で、ありうるパターンが1000種類以上って結構珍しいですよね。個人的には(セットと独立してみれば)そこそこ好きな問題です。いわゆるザ・平面幾何みたいなタイプのbzuLの問題は次回以降ご期待ください。
[自己評価] 5
作問過程
二つの半直線上に同じ長さの線分からなる折れ線の頂点をたくさん配置することを考えたのが元でした。少ない点で角度だけだとさすがに既出かつつまらないなあと思っているところで、点を増やし、半直線も二つに制限せず、逆にあり得る角度をすべて求めることにして仕上げた感じになりました。ネタとして好きではありますが、もうちょっと構成面でいい感じにできたかもしれません。

D

OMC219 D問題

074Fなどで出題されていたり、こちらでも言及があるので、極限を出してみました。(二次曲線の)積分の時にやや文句が飛び交っていた印象なので、数オリでほとんど問われない極限の問題にも嫌悪感を示す方がいるかもしれないとちらっと思いました。内容としては、数列をうまく変形して、不変部分と0に収束する部分に分離する感じです。
割と人工的に数列を構成したので、実際の解き心地が想像できませんが、収束先を見つけるだけなら少し難易度が下がるかも?
ちなみに提出時は600点にしていて、審査後400点になり、testerの助言により本番は500点になりました。数列の構成が人工的なので、いい感じに背景を言及できないのは申し訳ないです。
SP1さんが割と背景が見えそうな別解を書いてくれました。(一個ずらしたら定数、一個ずらした分の差は0に収束)

こっちの方が人間的解法の気がします。
[自己評価] 4
作問過程
最初は解説にあるbnに近いものを、bnに関する不変量を持った状態で作り(この辺はいろんな数列の問題の影響を受けています)さらに、定数からちょっとズラした項を追加して、そこに定数と0に収束する量(ここを交代和っぽく)を入れて極限をとる、というような構成をしました。最後に、適当な置換ですこし見切りにくくして問題の形になりました。ここの裁量次第で超難しい問題、みたいなのは作れそうですが、今回はそこまで奇をてらってない置換にしました。
数列の色々な話は自分もあまり体系立ててまとめられていなくて、OMC向けにも整理したいなとは思っています。

E

OMC219 E問題

組み合わせ的解釈の問題です。
・f(p,q,r)=binom(128,p)*binom(128,q)*binom(128,r)/128!を見つけるパートと
・それらのv2を計算するパート
に分かれます。
前半の組み合わせ的解釈パートの難易度評価が全く予想できなかったですが、美しさの定義の部分がかなり露骨ではあるので、組み合わせ解釈が透けやすいかもしれません。後半のv2計算もミスしやすそうなので注意が必要です。Bと同様の問い方になっているので、性質を思い出したりする時間は省略できたかも?
提出時は700点で出してました。Dと同様、こういう問題を作った側が評価するのは難しいです。
SP1さん曰く前半よりも後半に時間がかかったのでBと本質が変わらないと感じたようです。C分野がちゃんと強い人はただただ手を動かす問題に感じられたかもしれません。
[自己評価] 5
作問過程
ボールの塗分け方についての二項係数の積の和について、二通りの解釈をすると非自明な式が出てくる、というタイプの等式のなかで、k色に塗るケースの数え上げの等式に着目しました。この問題に対して何を聞くかは迷いましたが、結局全パターンに対する2で割れる回数の総和として、Bと問い方が被る形になりました。全体的に重いセットと思うので、Bで計算方法を思い出して、この問題にも活用することでちょっとしたショートカットになる、ということがあるかも(言い訳です)
p,q,rを指定したほうがいいのではというのはかなり真っ当な指摘と思いました。(ただ、自分の見積もりとして、前半部分はもう少し難しいかなと想像していました)

OMC219 F問題

Z/mZ -> Z/nZ の関数方程式(零因子のある環でのFE)というコンセプトでした。雰囲気としては174Fに似てますが、こちらは定義域と値域が異なり、その一方で関数の形がかなり単純です。線形であることや、係数の条件に関しては必要十分な形で正確に整理する必要があります。零因子があるので、普段のRやQ、Z上のFEとは少し変わって来るところに注意が必要です。x^2=0だからといってx=0とならないなどなど。常に「割り切れる」という形でとらえていればこういう勘違いは特に発生しないとは思いますが、定義域や値域によって注意が必要なのはいつも通りです。式がとても単純なので、面倒なのは条件整理後の係数としてありうるものの数え上げかもしれません。
解説ではx,y,a,bなどの変数を用いていますが、4パターン分けたほうが見やすいかもしれません。もうちょっと一般のケースでも通る書き方を重視してこういう説明になってます。
提出時600点で、審査通過時は500点になり、セット採用された時点でいつの間にか600点に戻っていました。
[自己評価] 6
作問過程
Z/nZ->Z/mZなる関数の関数方程式を作問しようという確固たる作問の種があって作った問題です。その中でも、式自体が線形かつ係数考察が程よいものが今回の条件で、これをfの数を問う問題にすれば丁度よさそうだな、という感じでした。そもそもHom_Z(Z/nZ,Z/mZ)≡Z/gcd(n,m)Z という有名な話の周辺の話題になります。
この周辺の問題は、関数方程式を短答で聞く上で一個作りやすい形式かもしれません。

反省など

・難易度/点数調整
difficultyは以下の通りでした
A 40 
B 1514
C 1791
D 2166
E 2169
F 2351
Cの点数調整がちょっと甘かったかなという感じでした。
difficulty1200いかないくらいの200点を差し込んだ方がよかったかもしれません。
・セットとして
はじめから割り切ってはいました(というか意図して作りました)が、幾何がほぼないセットになったのは幾何好きに対してはちょっと申し訳なかったです。一方で無印の一定の難易度以上の問題がほぼ幾何なのは何とかならないかなと思っていたりもしたので、そういう観点では自分の意図が出せたのかもしれません。ただ、コンテスト前から幾何が少ない読みをされていたのはちょっとびっくりしました。手の内が透けてしまっていますね…
今回はそういうコンセプトもありましたが、幾何を軽視しているわけでもないので、まあ気長にご期待ください。
また、全体的に難しいセットと思って組みましたが、やはりちょっとオーバー気味だったかもしれません。この辺の感覚は今後の作問やセット構成へフィードバックできるように念頭に置いておきます。

・問題
全体的に計算が重い、という指摘が結構見られました。計算での難易度かさ増しは確かに不快要素の一つなので、今後はもうちょっと見直す必要があります。エスパー回避の引き出しがちょっと少ないのかもしれません。
終了直後の感想をざっくりサーチした結果のみ引用していますが、他にも意見お待ちしております。

・実際のコンテスト最中
今までコンテストを俯瞰で見たことがほぼなかった(全問正解して暇なときぐらい)ので、最初から眺めるのは面白かったです。前半の問題を取り組んでいる時間帯の順位表が最終順位表と割と違う感じというのも面白かったです。

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