記事一覧
立体靴下をめぐる冒険
午後5時、退社して駅へ向かう。社員通用口へのエレベーターを降りるたびに、僕の勝ち目が薄れていることに気がつく。なかなか考えがまとまらないときにそうするように、溜池山王まで歩くことにする。六本木交差点を抜け、赤坂見附付近に向かってどんどん歩く。そろそろ、ダブリナーズが見えてくる頃だ。生ギネスが飲みたい。よろよろ歩くうちに、ふと、見かけない看板が目に入ってきた。近づいてみる。白地に赤いペンキで殴り書き
もっとみる書くことの不安 (『波』誌より転載)
人は文章を書く。書いては書きなおす。さらに書きなおしてやがて完成ということになる。だが、不意に奇妙な疑問に捉えられる。この文章を書いたのは、本当に私だろうか。確かにひとつの想念に捉えられていたのは私だ。その想念が一つの文章になったのだ。だが、想念と文章とは正確に一致しているのだろうか。いや、そもそもかつて捉えられていた想念というのは、つまり今では文章から遡って思い描かれるほかない想念でしかないのだ
もっとみる