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くのいちオケツ

 わたしは忍者。本名は明かさねど、プリプリの女の子。くノ一おケツ。29歳。今日も今日とて、里のくの一筆頭の荒ジャケセンパイに乙女も惚れちゃうセクシー忍術を教わるのだ。女子力向上バンザイ。

「おケツ~、おケツは、どこぞ!」

「はっ、荒ジャケセンパイ! すでに、センパイの背後にお控えしているでござニンニン!」

「おケツ…イマドキ、ござニンニンなんて、どうかと思うわよ? 忍者だって、これからのインセンティブな時代にイノベーションしていかなきゃならないんだから。わかるわよね?」

「わかんないッスよ。なんですかその不自然な横文字」

「え…、ベーションしないの?」

「しません」

「あ、じゃあ、マスターベーショ――」

「しません!」

「はいはいはい、席について~、今日もアラサーまっしぐら、生え際もお肌のハリも結婚リミットもキワッキワの村枝ケツ子に」

「本名やめろや。こちとら忍者じゃ」

「乙女も惚れちゃうセクシー忍法講座をはじめちゃうわよぉ」

「イエス、セクシー! ノー、エスケートゥー!」

「あんた、小じわのケアはチャンとしなさいよ」

「サー、イエッサー! ところでセンパイ、今月の〈くの一ノンノ〉読みました?」

「あら、まだだわ。〈くの一キャンキャン〉なら読んだけれど」

「センパイ…過剰な若作りは身を滅ぼすッスよ」

「おだまり」

「で、ですね。今月の〈月刊くの一ノンノ〉の特集『こんな女子力は通用しない!』ってタイトルなんですけど。これどう思います!?」

「ちょっと。近い近い。鼻息荒い…ッ」

「むふーッ! 最近じゃ、どこにいっても女子力、女子力! 記事にも『あなたのその女子力は時代遅れ!』『女子力スカウターに引っかかるオンナになろう!』なァんて煽りがたくさんあって…ってか、女子力スカウターって何だよ!?」

「別にあんたが当てはまってるとは限らないじゃない」

「いやでもセンパァイ…ッ! 『こんな行動は女子力不足』とかいう診断コーナーがあるんですけど、あたし完全に当てはまってんスよ!」

「当てはまってんのかい」

「女子力0パーセントなんですってよ!? 女子力とは一体なんなのか!」

「日がな一日テレビみながら酒あおってる、職業〈忍者〉とは名ばかりの自宅警備員29歳はそりゃあ、女子力ないわよ」

「酒は命のお水ですッ(キメ顔)。ていうかセンパイこそ、何をちゃっかりOLなんてやってんですか! 忍べよ! 一人だけ副業とかズルい! あたしの就職口さがしてきてくれるって言ったじゃないですか…ッ! くの一だったら、忍べよ! ぐおお…ッ。あたしが女子力ないからこんなことになるんだ! ちっくしょー!」

「うるせぇ、ニートがッ! まったく…。いい? そもそも女子力なんてね、恋愛でどう使うかって取り沙汰されているだけなのよ。たしかに〈くの一ノンノ〉みたいな大手女性誌でも、女子力の足りない女性は、行き遅れる…ッ。なんてもっともらしく書かれちゃってるけど、男はたいてい気にしてないわ」

「そうなんですか?」

「聞き返してんじゃないわよ。大丈夫かしらこの子…。いい、おケツ? ケーススタディよ。たとえばの話。あんたは合コンでふたりの男に出会いました」

「ふんふん」

「ひとりは、引きこもり系のブサメン。もうひとりは、遊び慣れてそうなイケメン」

「そりゃまた極端ですね…」

「さてあんたはちょっとおっちょこちょいな小悪魔系を演じてグラスを取りこぼすの」

「それはそれで、イメージ悪くなるッスよ」

『あ~ん、やっちゃった~☆このスカート、超気に入ってたのに、ビールこぼしたせいで、おもらししたみたくなってるぅ~☆』

「下品か」

『お股がびしょびしょ~☆』

「解せぬ」

「…と、小悪魔ビッチおケツに若干引き気味のイケメン」

「ほら、やっぱり!」

「そんな中、近づいてくるブサメンくん」

「げえ…ッ!」

『ちょ、ビチ子ちゃん大丈夫!?』

「ビチ子ちゃん!?」

『ウップス、お股びしょびしょ! エロス! これはテラエロス!』

「ていうか超絶ピザ声…ッ!」

「そう言ってしかし、店員さんに蒸しタオルをもらって、まずしっかりと染みの部分を蒸らしたあと、裏側から乾いたハンカチを抑えさせると、上からタオルを押し込み染みをうつすという、迅速かつ、丁寧な処置をおこなうブサメン」

「え、なにそれ、あたしできないそんなこと」

「でも口では『ビチ子たん、もえ~。はひぃはひぃ』と荒々しい鼻息よ」

「貞操の危機…ッ!?」

「さて、同じ処置をイケメンの方がさらっとやってのけたら、あんたはどっちを――」

「イケメンに決まっておる!」

「そりゃそうよね。そういうもんなのよ。女子力って恋愛でどう使うか、が重要なの。でも結局、恋愛って、『その人のことを好きかどうか』で変わってくるでしょ?」

「ザッツライ!」

「極端に言うとね、めちゃくちゃ綺麗な女の子にだったら、何されても『この子気が効くな~』ってほだされちゃうもんなのよ、男って」

「ほんと、下半身が脳みそですよね、男って」

「だけど、女の子もおんなじでしょ? あんただってさっき、イケメンくんを選んじゃったわよね?」

「うぐぅ」

「男も女もおんなじ。じゃあ、女子力って何?って話よね」

「ホンマそれ」

「それはね、あんたはさっきの例えでこう答えなきゃいけなかったの。『ブサメンくん、ありがとう。おかげで、お気に入りのスカート、汚さないですんだわ』ってね」

「これが女子力か!?」

『股間がジュンってきちゃった。抱いて』

「それはない」

「これが忍法、ほほえみの爆弾!」

「忍法、ほほえみの爆弾!?」

「狙った相手は、たとえブサメンでも落とす! それが忍法、ほほえみの爆弾!」

「センパイ、パねぇッス!」

「いいこと、おケツ! この忍法をマスターして、明日からの合コンパーリィにそなえるのよ! そして、あたしも呼びなさい! コンパセッティングプリィーズッ!!」

「ケツ子におまかせ!!」

「じゃあ今夜は早速特訓としゃれこむわよ! おケツ! 急いで近くのコンビニで缶ビール買ってきなさい!」

「つまみは〈チーかま〉でも!?」

「かまわなくってよ!」

「くのいちおケツ、いきまーす!」

 わたしは忍者。くノ一おケツ。本名、村枝ケツ子。29歳。
 今日も今日とて、里のくの一筆頭の荒ジャケセンパイと女子会と称した、飲み会に興じるのだ。女子力向上バンザイバンザイ!

「おわり!」


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#小説 #短編小説 #ジョブ #桐前バツ

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