宇宙コンビニθ

地方都市の外れ、午前3時コンビニの店員は思う。
実は外の暗闇は真空で、この施設は地球を照らす側ではないかと。
夜に空に瞬く星達は、無数のコンビニの光なのではないかと。
スペースシップ、24Hマート。
今宵も異星からの来訪者がぽつぽつとやってくる。

そもそもとしてこの手記は夜間フライトの愚痴を記したものだった。
この宇宙船のクルーになり、しばらく経った私は手記に記すほどの愚痴が生まれることもなく、平坦に業務をこなしていた。
夜間フライト時には主に器具の洗浄や船内の清掃が業務となる。異星人との対話は言わばついでなのだ。
そのついでにどれだけ困ったことがあったか、というものを記していたのがこの手記だ。

船内業務も、異星人との対話もある程度慣れ、次に襲ってくるのは思考と退屈だ。
夜間フライトは基本的に1人で人間と会話することはほとんどない。
清掃も器具の洗浄もしているときは終始無言でやることになる。
そうなると、手とは違う方向に脳内は勝手に動く。
宇宙船のクルーというのは、今の世の中において職としてヒエラルキーの高いものではない。報酬だってそんなに多いものでもないし、なにより自分自身が誇れる業務をしていると言うことはできない。
果たして自分はこのままでいいのだろうか?
早く地上でそれなりの職を探すべきなのでは?

思いを巡らせれば巡らせるほど、手も足も重くなる。しかし、思考を紛らわせるものはなにもない。会話相手になる人間もいないし、船内の放送はもう暗記しているほど聞いたからなんの刺激もない。

つまり、考えごとをするとネガティヴになるし、しないならしないで巨大な退屈が大ダメージを与えてくるのだ。

宇宙空間を漂う、このコンビニ。
いつか私は地上から見上げることができるのだろうか。

業務を終え、朝が迎えに来て、先ほどまで宇宙を共にしていた店舗を眺める。
なんだか、少しだけ愛おしさがこみ上げる。退屈で大変で面倒臭くて簡単なこのスペースシップ、24Hマート。
でも私に居場所をくれた、船だ。
この船は僕をどこに連れていってくれるのだろうか。少し楽しみに思える。

まだ早い朝方の薄闇に爛々と輝く看板に私は一瞥をくれる。
さようなら、また明日も宇宙の果てまで旅に出ようじゃないか。
エアコンの室外機が返事を吐き捨ててくれたような気がした。

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