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大公のお裁きって正しかったの?(けんか状況に置ける正当防衛)

一般社団法人未来の会議をお送りする舞台芸術トリビアコラムです。
当団体理事の藤田香織のコラムを転載いたします。
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ロミオ&ジュリエット、今はミュージカルが赤坂ACTシアターでかかっています。
なんかやっぱり、若者のきらめき、すてきよね、

ロミジュリのあらすじ

ロミオとジュリエットが結婚したことをきっかけに闘争になるキャピュレット家(ジュリエットのおうち)とモンタギュー家(ロミオのおうち)の若者たち。

そこで、ロミオの親友マーキューシオがキャピュレット家の跡継ぎで実はジュリエットが好きなティボルトに刺されて死んじゃいます。
かっとなったロミオはティボルトを刺し殺しちゃう。もう、てんやわんや。

そこに現れた大公閣下はロミオに「私はおまえに死を求めることもできるのだぞ!」っていって、でもまあ、ヴェローナからの追放で許してくれる。

「大公のお裁きって正しかったわけ?」

でも、狂犬マーキューシオ、無敵のセクシーティボルトが怒られるのはわかるんだけど、ちょっとロミオが死刑ってかわいそすぎない?って思うわけです。マーキューシオを守るために刺したんじゃないの?正当防衛とかそういうの成立しないの??

だって、甲斐ロミオはゴールデンレトリバーの赤ちゃんみたいだし、黒羽ロミオはロマンチックを人間にしたみたいなひとだよ?とおもっちゃうでしょ?

マーキューシオの死を目の当りにしたらしょうがなくない?って。

マーキューシオって、かっこいいけど狂気を秘めていて、行き過ぎるほど過激なイメージだけれど、大久保祥太郎さんのマーキューシオは、葛藤はあるけれどそれでもまだ人間が好きで、ロミオのことがすごく好きで、情に厚い感じがしたので、死んじゃってかわいそうだった。新里さんのマーキューシオは死んで本人もちょっとほっとしたんじゃいかなって感じがする。

そんなわけで、大公のお裁きって正しかったわけ?ということなのです。

ロミオとティボルトに正当防衛が成立する?

岡幸二郎様演じられる大公に間違いがあるわけがないのです。あんな声量で空気ビリビリいわせといて間違ってることなんてあるわけないのですが、モンタギュー家のお屋敷の弁護士としては、ちょっと検証してみようと思ったわけです。

あのけんかを時系列に沿ってみていくと、


① マーキューシオがティボルトにけんかを売る
② ティボルトがけんかを買う
③ マーキューシオがバタフライナイフを手にティボルトに襲いかかる
④ しばらくはティボルトは素手で応戦
⑤ マーキューシオが頭の上までナイフをふりあげてかかっていく
⑥ ティボルトがダガーナイフを抜く
⑦ 止めようとロミオが間に入る
⑧ もみ合ううちに、ロミオの腕の下からティボルトがナイフでマーキューシオを刺す
⑨ マーキューシオが、「泉ほど深くもないし教会の門ほど広くもない」重傷を受ける
⑩ マーキューシオがひとしきり歌を歌ったあと死亡
⑪ ロミオ、マーキューシオのナイフを持ってティボルトに近づく
⑫ ティボルトはこのときナイフを構えていない(手に多分ナイフ持ってたような気がする)
⑬ ロミオがティボルトの右肋骨の脇からナイフを刺す
⑭ ティボルト死亡


問題は、ロミオとティボルトに正当防衛が成立するかってことです。

正当防衛というのは、「急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為」は違法ではないとしますよ。自分とか友達の身を守るために、やむを得ず向かってきた相手をきずつけたとしても、無罪になる可能性があるという考え方です。(刑法36条1項)

昔々の判例では、「喧嘩両成敗」っていう乱暴な理論で、喧嘩状況では正当防衛を認めず、ロミオもティボルトも有無を言わさず犯罪成立っていう判断がされたこともあったのですが、今はもうちょっと細かく見ていきます。

マーキューシオの死

まずはマーキューシオさんの死について。

マーキューシオさんは先にバタフライナイフでティボルトを切りつけます。この時ティボルトは素手。マーキューシオさんずっとバタフライナイフかちゃかちゃしてるからね。私は大久保マーキューシオが指を何本落としちゃうか気が気でなかったよ。

切りつけられたティボルトはダガーナイフを出します。マーキューシオは今まさに切りつけてきてるから、ティボルトに「急迫不正の侵害」はある。

ティボルトが「殺されないように防衛しようとして無我夢中でナイフを振り回してたうちにマーキューシオを刺しちゃった泣」のであれば、命を守るためにやむを得ずした行為なので、正当防衛が成立しますね。

ただ、今回の立石ティボルトも吉田ティボルトも不敵なほほえみを浮かべながら刺しにいってるのよ。あのほほえみは、この機会に乗じてやったろうと思ってるよね。自分の身を守るためにとか思ってないでしょ。これを、専門用語では「積極的加害意思」といいます。

これがあると正当防衛は成立しない。殺そうとまでは思ってないだろうけど、刺してやろうと思ってるだろうから、傷害致死。で、正当防衛は成立しません。刑法205条、3年以上20年以下の有期懲役です。生きてればね。

ロミオとティボルト

次にロミオさん。ロミオさんはひとしきりティボルトが死んじゃうまで付き合って、その後おもむろにティボルトさんを刺しに行ってます。これはさすがに「急迫不正の侵害」がない。

さらに悪いことにロミオさん、

「マキューシオが殺されて逆上した僕は彼に復讐してしまった」

っていっちゃってる。これは、殺人の故意があるって認定されちゃう。余計なこと言ったよ。

一事が万事そういうとこだよロミオ。

あと、ロミオに関して言うと、あのバタフライナイフで人を殺すのは大変です。バタフライナイフの柄が金属でしょ?あれで刺しても血がまいて、手が滑って最後までナイフを押し込めません。あのナイフしかないなら、手を布にぐるぐる巻きにまいて固定して、太ももの内側の動脈を狙います。こういうことも、司法研修所でならうんだよ。べんきょーべんきょー。

そうなると、ロミオにも正当防衛は成立しません。

そんなわけで、大公の、ロミオに対するお裁きはただしいのです。殺人の法定刑は死刑、無期、5年以上の懲役です(刑法199条)。

ティボルトの傷害致死は、被疑者死亡により不起訴になります。

さすが岡様!!大公様!!!


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