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【美猫をめぐる冒険】 #絵を描きましたので見てください


登場人物紹介

アマンダ 自由奔放だが根は真面目。さっぱりとした性格で好き嫌いがはっきりしている。Shop!Amanda!Amanda!の経営者。
従業員の岡星をなんとか一人前にしようとするがそもそもの基準が異なるのでうまくはいかない。

岡星 アマンダが雇っている従業員。村上春樹を崇拝している。長期で拗らせているためかエヴァンゲリオンのシンジくんと自分を重ねがちだが決して困難を背負わせられているわけではない上に、逃げちゃダメだとは全く思わない。むしろ一度逃避した方が誰か(アマンダ)がなんとかしてくれるのでいいのではないかと思ってる。





 ねえ岡星、これをみてちょうだい。

 かわいい猫の絵を募集してるらしいのよね。わたしも地域猫を自称してるから是非とも参加したいんだけど、ここは岡星にお願いしたいの。え?絵なんか描いたことないって?そんなことないでしょう。小学生の頃とか授業で描いてるはずだし、描くのが好きか嫌いはあるとしても多少は描いたでしょう。岡星なりの最高の猫の絵よ、描いておいてね。


三日後


 OK岡星、今日は物件の内見ね。この駅から歩いて10分しないくらいだったかしら?ok岡星、下見はしてあるのよね?グッジョブ。あら、駅前のコンビニはファミマ。これは便利。スーパーに寄るほどの買い物じゃなければここで事足りそうね。

 あ、またファミマ。え?ファミマはファミマでも駅前のファミマは元川さんがオーナーでこのお店は中田さんがオーナー?そんなことまで調べてきたの?いや、そこら辺はどうでもいい情報というかなんというか、って岡星!何よこの先にあるのまたファミマじゃない!は?この先のファミマは先山さんがオーナー?だからなんなのよその情報!え、ファミチキが違うの?元川さんのお店のファミチキは手羽元で中田さんのお店のファミチキは手羽中で先山さんのお店のファミチキは手羽先を使ってるって?それぞれ個性があって美味しいので贔屓のお店ができるといいですねって?まあいいわ。機会があれば食べてみる。

 ついたわね。外観はやや古めだけど良さそう。寝室があってリビングがあってお風呂とお手洗いがある上にバルコニーまであるならそれで十分よ。間取り図あったっけ?ちょっと見せてくれる?


 なにこれ。手書きじゃない。え?印刷できなかったから手書きだって?まあいいけど。部屋は二階なのね。うん、思ってたよりもずっといいわ。でもこの間取り図なんか変じゃない?ほら、この扉の部分。これ猫耳じゃない!いや、確かにどの間取り図も猫の耳みたいに書いてあるけど、OK岡星、嫌な予感がしてきたわ。これってこないだお願いした猫の絵ってことないわよね?あ、岡星!待ちなさい!猫の絵!猫の絵!

🐈 🐈 🐈

 かえりみち、ぼくはずっとひとりぼっちだった。そとのそらはもうずいぶんとくらくなっていて、もうすぐふゆがくるんだなっておもったんだ。
 あの日のよるのことはよくおぼえてる。ぼくはひとりでベッドの上でねていたんだ。まどをあけておくとすこしさむくて、でもしめるとなんだかくるしくなるよるだった。
 ずいぶんとねむることができずにいたと思う。そうしたらきゅうにまどをコンコンとたたくおとがきこえた。
「ごめんください…ニャンコの絵をかいて!」
「えっ?」
「ぼくにニャンコの絵をかいて…」

 ぼくはかみとペンをもってきてしばらくなやんだ。めのまえにいるねこのきぐるみをきたおとこにたいしてどんなニャンコをかけばいいのかけんとうがつかなかったんだ。
「すこしのあいだとなりのしょこにいることにするよ。そこできみのためのニャンコをかいてくる。きみはここでまっていてくれるかい?」
 ぼくがそういうとねこのきぐるみをきたおとこはうんと言ってうなづいた。

 いったいどれくらいのじかんがたっただろう。ぼくはいつのまにかねてしまっていたようで、あたりはまっくらになっていた。まっくらになっていた。マックラニナッテイタ。へやのなかはまっくらになっていた。違う。チガウ。僕の声が聞こえた。部屋の中は真っ暗になっていた。そうだ。確か今は夜だ。夜だった。そして書庫の電気をつけていたはずだ。僕はまたあの真っ暗闇の中にいた。
 どれだけ目を凝らしてみてもそれは完全な闇だった。ツヤを消したピアノの色で埋め尽くされたように完璧な暗闇だった。足元に気をつけながらゆっくりと一歩一歩進む。とにかく壁か何かを見つけないと平衡感覚を失ってしまうだろう。闇とはそういうものなのだ。
 「誰か」僕はそう声に出してみた。でもそれはどこにも届かずにこの空間のどこかにある壁の中へ消えていった。するとこの空間の外にある廊下のような場所をスリスリと何かを引き摺りながら歩く音が聞こえてきた。聞き覚えのあるおとだ。やれやれ、僕はこの音を知っている。そしてこれがなんの音なのかも知っている。
「おかえり」
 僕はそう言って歩くのをやめた。
「やあ。久しぶりだね」
 猫の着ぐるみを着た男がそう答えた。
「そんな久しぶりではないと思う。君と会ったのはきっとついさっきのことだよ」
 闇に目が慣れてきたのか、その男の影をなんとなく捉えることができた。
「バレてたのか。そうか」
 その男はなんとなく照れくさそうにしているのを感じ取ることができた。彼はとてもシャイなのだ。
「うん」
「ねえ、紅茶でも飲むかい?北海道のね、とても新鮮な牛乳だってあるんだ。紅茶を一杯飲むくらいの時間はあるんだろう?」
「もちろん。話したいこともあるしね。それにここはなんだか寒い。紅茶を淹れてもらえると助かる」
 その男は暗闇に中を器用に動き、数分もすると紅茶を淹れて運んできた。
「おいしい」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。でもこれは紅茶が美味しいんじゃなくってさ、牛乳が美味しいんだ。牛乳っていうのはさ、特に本当に美味しい牛乳っていうのは鮮度がとても大事なんだ。おいしい牛乳で紅茶を飲むならみんなここへくればいいのに」
 その猫の着ぐるみは以前よりも随分とくたびれているように思えた。長い間ここで一人で時間を過ごしていたのだろう。男は他愛もないことを話し、僕はそれに相槌をうった。
「ねえ、ニャンコの絵は描けたのかい?」
 唐突にきかれた。
「それがまだ描けていないんだ」
「かわいいニャンコの絵を描くのは難しい?」
「難しいかどうかもわからない。なんせ僕はあまり絵を描いたことがないからね」
 絵を描くことについてひとしきり話すと、僕は紅茶を飲み干した。
「おいしい紅茶をありがとう。そろそろ行かなきゃ」
「うん。かわいいニャンコの絵が描けるといいね」
「ありがとう」
「ねえ、久しぶりに会ったけどなんとなく君はどこか疲れているように見えるよ」
「そんなことないよ。ただ少しばかり歳をとったんだ」
「そうか。君も、僕も、ね」
「じゃあ、僕は行くよ」
「ここは真っ暗だけど帰り道はわかるよね?」
「うん。真っ暗だけどわかるよ。どこへ行けば元の世界に戻れるのか」
「大事なものは目に見えなくたってわかるものだから」

 気がつくと僕は自分の部屋のベッドの上にいた。絵だ、僕は絵を描かなきゃいけない。ベッドから抜け出して紙とペンを取り出して僕はそこに堂々とかわいいニャンコの絵を描いた。そしてスマホを手に取りアマンダさんに電話をかけた。
「もしもし、岡星なの?いったい昨日はどこに行ってたのよ。突然いなくなるからびっくりしたじゃない」
「アマンダさん、描けたんです!」
「え?なんの話をしてるの?」
「描けたんですよ!今すぐ送ります!」
「岡星、なんの話よ!一体どうしたっていうのよ?」
 僕は自分で描いた画像を写真で送った。
「これです、かわいいニャンコの絵ですよアマンダさん!」
「は?何これ」


「この箱の中にアマンダさんにとってのかわいい猫がいるんです!アマンダさん、大事なものは目に見えないかもしれない、でも確かにここにいるんですよ!」
「は?」








おしまいにゃん








うるらさん、寝落ちして遅刻しました。楽しい企画をありがとうございました🐈

畳でゴロゴロするニャンコを貼っておきますね。


本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。