演技を作ってみよう

薬物で警察に捕まったブース。軽犯罪で何度も捕まってきた。
法廷で裁判官との会話。
 
裁判官「ブースさん 質問があります」
ブース「……はい」
裁判官「ノーティラス中学に通っていた?」
ブース「(裁判官が元同級生と気づき)マジで」
ブース「マジで」
裁判官「法廷で会うなんて悲しい。あなたがどうなったかずっと気になっていた。中学の時、本当に優しい子で、最高の生徒で、私はあなたとサッカーもした」 

ブースさんの役を演じてみてください。
あなたならどんな組み立てをしますか。
そして出てきた表現はどんな風になりましたか。

最初、文字面だけを見た時、どの部分のリアクションがポイントになる演技を作りましたか。
最初の「マジで」の部分の人も多いかもしれません。

頭だけでペラっと考えるとこんな感じになりませんか。
・ふてぶてしい感じにしておく。
・聞かれて、大きなリアクションする。
・「マジで」(信じられない!)
・「マジで」
・自分の事を言われる間、一点を見つめて過去の自分を思い出してる風。
 
実はこれ、たまたま流れてきた英会話用youtubeのドキュメンタリーです。あまりにも印象的だったので演技を作りたい人に見てもらいたいと思いました。演技の世界でも、本気であれば演者はここまで作れると思っています。状況を自分に作り信じ込ませ、自分がどんな反応をするのか見てみる、という意味ではやはり演技もその役者自身の「ドキュメンタリー」であると思っています。十分に練った後に見てみてください。↓

https://www.youtube.com/watch?v=O7yE_DyKVIM&list=PLQV1QQHahYE_UITedr9fkw7li7cOvn8Mh&index=14

実際はこんなです。
・ふてぶてしい感じ
・少しニヤついた「マジで」
何かを思い出す時間があり、その思い出した「内側からの何か」に彼が衝突したかのように崩れ落ちます。
・「マジで」
その後、彼女の過去の彼への賛辞がまるでナイフのように彼を刺し苦しめているように見えます。
「言葉がナイフのように突き刺さる」を演技の素材の一つとして使えばこういう事にもつながりますね。

私がこの映像を見て感じるのは彼はずっと何十年も苦しみ続けてきたということ。自分がどんなに間違っているか彼ははっきりわかっている、という事。まともになりたいとずっと思っていただろう、ということ。同級生の白人と黒人という状況から「黒人」として社会に生きにくい何かがあったのかもしれないこと。たった30秒の映像でこれだけの事が伝えられる「現実」があります。(役が小さい、とか言ってる場合じゃないんですよ)

 脚本のセリフやト書きがいかにただの「箱」でしかないことがわかりますね。お客さんが見たい演技はその「中身」です。そしてその中身は「作品全体」を元に演者が作るしかありません。

 このドキュメンタリーの一番大きなポイントは彼に「内側から衝突した何か」です。演じるのであればこれを具体的に作る事が必要です。これを作れば後半の「ナイフのように突き刺さる」リアクションも自然に導かれるかもしれません。この短い「セリフの連続」を脚本としてとらえた時、テーマから脚本の行間に「大きな何か」の必要性を感じ、それを自ら作り出す事ができれば、役者の仕事は途切れなさそうです。見てるだけでいい級の美しい見た目の方なら最初の薄い演技でもいいのですが。美しいうちは。

(こんな風に書くと演者の荷物が重すぎるので誰かが別の役割の人が必要だよな、と思ってしまうんですが。監督がその助けを求める風潮もなし。新しい脚本の書き方の方もありかな、などと思ってしまいます)
 
 心打つドキュメンタリーを見たら、是非、どのように組み立てれば、こんな風になるだろう、と分解してみて下さい。とにかく地道に、一つ一つ、丁寧に作る事だと思います。


おまけ。この記事を書いた後に続きのわかる映像を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=USQKcikyGJ0

https://www.youtube.com/watch?v=WHpF2ErHzaY


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