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ダテものの鳥 タマシギ

好きで好きで惚れ抜き、結婚した妻に頭が上がらないのは、人間だけでなく、鳥の世界でも同じようです。そしてまた一見、恐妻家らしく見えて、実はそうでないところも、人間と似たところもあるのです。心の持ち方が結婚前と、後では違うからでしょうか。

 シギは世界中に住み、その種類も約90種類いるといわれているが、わが国には40種以上のシギが知られています。その大部分は渡り鳥で、春と秋、北から南へ渡るときと、南から北へ渡るとき、日本の空をよぎるだけのものですが、うち、ヤマシギ、イソシギ、オオジシギ、タマシギの四種は日本でタマゴを産み、子育てします。 

 シギの仲間は、一般的に羽色の地味なものが多いが、タマシギだけは珍しく、羽色の美しい鳥で、オスはシギの仲間では、ダテ者として通っています。春、南の国から帰ってくる時には、一足早く来て、おもむろにメスの帰りを待つという、エチケットも心得た礼儀正しい鳥です。

    娘一人に婿八人

 浮気妻で気苦労多い夫  

 シギの渡りは、先発隊と後発の二組に分かれていて、オスが先発。メスは後からやってきます。 理由としては、オスの体力がメスを上まわるため、自然に先になってしまうのだという見方と、オスが結婚生活のためのなわ張りを確保しておく為とか、種族保存の見地から、まずオスが先発隊となって敵を追い払い、万一敵にやられることがあっても、後続の女性部隊だけは生き残ることが出来るように、との配慮にもとづくものとする説などがあります。
 理由の云々はともかくとして、オスは一ないし二週間早く帰って来るが、このダテ男?「鳥」の弱みは、動物界の常識を破って、オスよりメスの方がより一段とチヤーミングなため、女房が浮気しないように、また逃げられないように、いつでもメスのご機嫌とりに腐心しなければならないという、一種の宿命みたいな運命を背負っていることです。

 おぼろ月夜の水田を舞台に、彼はコンコンと愛のセレナーデを歌い、切ない胸のうちを彼女に打ち明けます。しかし、水田のあちらこちらでも、同じ境遇のオスが、これもまた同じセレナーデを歌っているため、この様子はまるで娘一人に婿八人といったところ。近世、過疎地域の結婚適齢期の青年たちが、嫁捜しに集団見合をしているような風景でもある。事実、この恋愛の場では、不思議にもオスが多く、メスの姿はまばらだったとの報告もあります。 このため、ようやくメスのご意を得、結婚したオスでも、もはや彼女には頭が上がりません。人間の場合だったら、頭が上がらなくても、洗濯、料理、赤ん坊にお乳をあげるぐらいは、まだ女性の仕事?として残りますが、タマシギの場合は実にあっさりしたもの。愛の結晶であるタマゴを産み落とすとさっさと家出し、以後、ほとんど戻って来ません。

このあたりは、現代日本人の若い人に見られる成田離婚にも似たところがある。

 日本の夏は暑いといってもせいぜい30度。太陽熱で自然にふ化することはまずない。それどころか、そのまま放っておいては、タマゴが捕られてしまいます。その時オスはどんな気持ちでしょうか。おそらく、

「♪逃げた女房にや未練はないが、せめてこのタマゴだけは温めてほしい」

と歌いたい心境でしょうな。 

オスが抱卵から 育児の世話まで

 オスが14日から18日、飲まず食わずタマゴを抱き続けるわけですが、ヒナがかえった後の育児の世話も、もちろんオスの仕事。愛の結晶とあっては文句のいいようもないのです。 ところで、家出した女房は?といいますと、調査によれば、オスよりメスのほうが数字の上では少ないのに、発見された巣の数はメスの数より多くあったとのことです。理由は想像に任せるとして、これが浮気心の強い奥さん、美しい娘を奥さんにしたタマシギの結婚、子育ての生態なのです。

今夜も人里離れた水田で、寂しい胸のうちを訴えて愛の賛歌を歌っているかも知れません。

 


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