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BALMUDA の携帯事業からの撤退についての考察

2023/5/12にバルミューダから、携帯端末事業の終了を決めたとのリリースが出ました。
2021年末に携帯端末発売となった際、かなり厳しいのではないか、という記事を書いたので、今回のリリースの内容を読んだうえで、再度いろいろと考えたことを書いてみようと思います。
発売時にまとめた考察はこちら

当時の私の考え

  • 価格とスペックのバランスが取れていない

  • スマホはデザインでは勝負ができない領域である。よい体験を提供するためには高いスペックである必要がある

  • 一番のキャッチであるべきだったデザインがいまいち。

  • 体験をUIに大きく振るためにアプリをオリジナルで作ったことが、結果として開発費が大きくかかり、端末の販売数量を見込めない以上その償却が大変になるのではないか?

ということが感じたことでした。

事業終了の理由の考察

事業を終了した理由ですが、リリースの中で多くは語られていません。
Q&Aの中で
“現在の事業環境において総合的に検討した結果”
という一文があります。ここをもう少し読み解いてみましょう。

事業環境とは
1,バルミューダが置かれている事業環境
2,他社含め携帯事業全体が置かれている事業環境
のどちらかになると思うのですが、2に関しては特に大きな変化があるわけではないので、今回は1について少し深堀りをしてみましょう。

株価の低迷
株価が低迷している、という点を見ていきます。
上場企業なので、会社は株主の持ち物となります。その株主の利益を最大化するために会社を運営する必要があります。
まぁ、上場企業なのに、筆頭株主が現社長で、その比率が69%付近、というのはちょっと不健全ではあるんですけどね。
そうはいっても、市場の潜在的な株主であったり、現株主に対して会社のポテンシャルを示していくことが必要になります。そのリアクションが株価なので、株主に対して明るい将来を見せることができていない、ということになります。
実際に、携帯事業への参入で大きく株価が上がったのですが、実際の携帯端末が発表されてからは株価は下がったきり今まで上がってはいません。今までのところでは株主からの期待に応えることができなかった、ということになります。

決算の内容
次に決算の数字を見ていきます。
ちょうどバルミューダのwebサイトに4半期決算の数字が出ていたので見たところ、会社全体の売り上げは前年同期との比較で-41%と大きく下がっています。前年は携帯端末の発売をしていた直後の売上高、ということもあり、ここが大きく下がっているのも納得ができるかな、と思いもう少し読んでいきます。

細かく見ていくと、携帯端末を発売していない韓国でも売上高が-55%なので、これは別の要因もあるんだろうな。ここの考察はまた別でやってみることにしましょう。

さらに読んでいくと、携帯事業自体は1.7億円減、ということなのですが、そもそも売り上げ全体が11億減、となっていることを考えると、携帯事業の問題ではなく、本業の売り上げが下がったことが今回の携帯事業撤退の原因でしょう。

昨年期までの携帯事業の売り上げは約37億円です。これに今季の1Qの売り上げが200万円なので、携帯事業を始めてからの売り上げは約37億円です。この中にはバルミューダがSIMフリーとして顧客に売ったものと、ソフトバンクが売ったものからロイヤルティをもらっているものと2通りの売り上げが入っていると考えてよいと思います。37億がすべてSIMフリーとして、売り上げが10万円とすると数量は3.7万台。実際には倍くらいは出ているのでは?とここは完全に想像です。

また、事業終了に伴う特別損失が固定資産で2.9億円減となっています。これは携帯端末事業の終了による減損、と記載されているので、在庫を除却した、ということでしょうね。仮にバルミューダフォンの原価を5万円とすると、5.8千台の在庫があって、それを減損してすっぱりと撤退、ということですね。それ以外にも全体で5.3億円の特損です。

ここまでで、
“現在の事業環境において総合的に検討した結果”
で書かれている事業環境とはバルミューダが置かれている環境のことで間違いがないでしょう。
さらに、空調で-38%、主力のキッチンで-41%とすべての領域で売り上げが下がっているので、本業に注力をして株価を回復させる、ということに今後は行う、ということになるでしょう。

事業終了の理由

これらの事柄より、撤退の理由は

  • 携帯端末が計画通りに売れなかったこと

  • 本業であるほかの売り上げも大きく下がっていること

  • 強みを出せる本業に投資を集中させる

    ということで間違いがないですね。
    さらに付け加えると、株価も低迷しているので、株主も携帯端末事業の評価は厳しいものだった、ということになります。

その他

修理受付に関しては、SIMフリー端末(バルミューダが直接発売をした端末)に関しては2026年9月まで、となっています。
壊れた製品を修理するかしないかは企業が勝手に決めてよいとなっています。
公正競争規約、という業界ルールがあります。この中ではカテゴリごとに、製造打ち切り後、5年間は補修用部品を保持する事、などという決め事はありますが、このカテゴリにスマートフォンは入っていません。そのためバルミューダや、製造を受け持っている京セラが2026年9月までしか修理を受け付けない、と決めたらそれがルールとなります。
もちろん、低スペックの携帯端末なので2026年まで使い続ける人はかなり少ないため、という考えもあったのだろうと想像できます。
長く使い続けられる携帯端末を、という話が発売時にあったと思いますが、現実はやはり使い続けてもらうことは難しいということが良くわかるかと思います。特にチップセットは1年もしたら新規での購入ができなくなるので、現時点で2026年までの保守で必要な数量を暫定で算出しておき、それらの部材を在庫として持っておくことで、修理依頼に対応ができるようにする、ということをやっていると思われます。

アプリのサポート
バルミューダ製アプリのサポートはどのくらい続くのか、は開発費がかからない程度に細々と、ということになると思います。携帯事業がなくなったので、ここに予算配分をするのは難しいでしょうから。

最後に

スマートフォンは主流のモデルは1年でモデルチェンジ、が一般的なライフサイクルです。これはSoCのサイクルがそうである、ということや、そもそも端末がそうなっているからSoCもそうなっている、またはキャリアが1年ごとに新製品を発売する、ということが理由です。バルミューダがこのサイクルに合わせられなかった去年末の時点で、2機種目の発売が難しいのだろうな、と想像できました。
また、重ね重ね、端末を通じた“よい経験”は、携帯端末のスペックが高くないと実現ができない製品の領域です。
デザインをすることでターゲットユーザーが絞り込まれ、その結果販売数量が減り、売価が上がる。その結果、売価と体験のバランスが取れない商品となります。そのため、非常に難易度が高かったチャレンジでした。
体験を売りにするのであればこの領域のハードウェアに手を出すべきではなかったですね。

携帯端末のようなライフサイクルが早いカテゴリの商品で、ハードウェアからオリジナルでやる、ということで発売をしたことは確実に判断を誤ったことです。私が当初感じた疑問は結局払しょくできず、結果として事業を停止、特別損失を出す結果となりました。
もちろん、チャレンジは必要であり、チャレンジは外部から見たら大体の場合は無謀なものなので、批判しか出てこないものではあります。それを考慮しても、やはり自分たちの強みと、携帯事業での価値の創造の方法を見誤った無謀なチャレンジだったと思います。
自分たちの強みや、競争をしていく領域で何を武器として戦うのか、をしっかりと考え、今回の失敗を糧に成長をしていってほしいですね。

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