ヴァチカンが最も恐れた影の幕閣、井上筑後守政重の講談的人物伝

めりけん国の活動写真屋、スコセッシ殿が「沈黙」を

井上筑後守政重さまのお名前は、
狐狸庵先生こと遠藤周作さまの書かれたの「沈黙」に登場してまいります。
それを映画化したのは、めりけん国の活動写真屋、マーチン・スコセッシ殿。
数々の難関を乗り越えて、
2015年に台湾で撮影。
2017年に日本で大々的にお披露目と相成りました。
狐狸庵先生も草葉の陰で、さぞやお喜びのことでございましょう。

さて、スコセッシ殿は何十年も前でございましょうか、
踊る踊るニューヨークの大司教さまから「沈黙」の英訳本を贈られて、
長年にわたり活動写真として作りたい、とお考えだった、とのこと。

長年にわたる「沈黙」の制作のために
2009年には、この活動写真のプロデューサーさんや美術監督さんが
長崎市の長崎歴史文化博物館へお越しになり、踏み絵のレプリカなどを
興味深く眺めておられた、というお話が伝わっております。

とは言うものの、スコセッシ殿は実際の制作にまでなかなか進めなかったらしく、
2012年8月にプロデューサーさんから、制作の遅れは契約違反である、
として訴訟を起こされてしまったのでございます。

かつてハリウッド(聖林)の活動写真屋仲間内瓦版にて
報じられたところによりますれば、
フェレイラ役にダニエル・デイ・ルイスさま、
ロドリゴ役にベニチオ・デル・トロさま、
日本人通訳の役に、かの渡辺謙さまのお名前が挙がっていたと申します。

残念ながら謙さまは、スコセッシ殿のクランク・イン遅れのために
ブロードウェイのミュージカル「王様と私」への出演と重なってしまい
やむなく降板ということになったそうで。
その代役は浅野忠信さまが受けられたとのことでございます。

そうそう、たしか台湾の空港で酒に酔っぱらって暴れて捕まった
隆大介という俳優さんがいらっしゃいましたなあ。
「マイアミ・バイス」のソニー・クロケット刑事の声、といえば
お分かりでしょうか。
この方も「沈黙」撮影のために、行かれたとのことですが、
この騒動で出演はパーになってしまいました。
せっかく厳しいオーディションを通られたはずですのに、
まことに残念なことでございます。

このように私めも、スコセッシ殿の活動写真「沈黙」の進み具合を
気を付けながら眺めておったのでございます。
それというのも、井上筑後守政重さまがどんな風に描かれるかが
心底から気を揉んでいたからなのであります。

めりけん国ハリウッドで作った多くの活動写真には
韓国人や中国人が堂々と日本人として出演しておりまする。
がさつなアメリカ人の感覚からすれば、中国も韓国も日本も同じじゃないか
黄色い肌の平べったい顔族じゃないか、アジア人だろ?
なんてことになりますが、間違えられた側にすれば
たまったものではありません。
それは中国人も韓国人も同じことでありましょうなあ。

ですから、井上筑後守政重さまを、着物の着付けもいいかげん、
大小の差し方もきちんとできない
似非侍にして欲しくなかったからでございます。

スコセッシ殿は、お家がカトリックだったので、
活動写真になる「沈黙」もキリスト教国側から見て、
解釈した「沈黙」という作品になるのは当然と申せましょう。

「沈黙」は、1971年に篠田正浩殿が活動写真にいたしまして、
井上筑後守政重を岡田英次さんという渋い二枚目俳優さんが演じておりました。
篠田殿は、そうです象印夫人、岩下志麻さんのご夫君なのでありますよ。

結局のところスコセッシ殿の「沈黙」は
主人公ロドリゴにアンドリュー・ガーフィールドさん
フェレイラ元神父にリーアム・ニーソンさん
通訳に浅野忠信さん
モキチに塚本晋也さん
キチジローに窪塚洋介さん
イチゾーに笈田ヨシさん
そして井上筑後守政重さまはイッセー尾形さん!なのでした。
よかったー!いい役者さんで・・・。


「沈黙」のイノウエさま

 小説「沈黙」には、このようにございます。

「日本には今、基督教徒にとって困った人物が出現している。彼の名はイノウエと言う」
 イノウエという名を、我々が耳にしたのはこの時が始めてです。ヴァリニャーノ師はこのイノウエにくらべれば、さきに長崎奉行として多くの切支丹を虐殺したタケナカなどはたんに凶暴で無知な人間にすぎないと言われました。

ここから先は

5,760字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?