Fantasy on ice in 仙台(記憶メモ)

 やって来ましたFaOIの季節。
 私にとっては3年目のアイスショー。
 2017年の初アイスショーは幕張の初日で、初めて生で見た推しは想像よりもずっと、視覚的にも存在感的にも大きかった(儚い半透明の妖精さんだと思っていた)。見るからに全力で、すべてを出し切るような演技に、「ああこれが羽生結弦か」と感じ入った。美しくしなやかで、激しく燃え盛る炎のようだった。会場が爆発するような観客の熱狂を初体験し、推しの人気の凄まじさを実感した。
 2018年、当初は金沢だけの予定だったが、テレビで神戸の『春よ来い』を見て撃ち抜かれ、初めての追いFaOIをしてしまった。
 新潟に急遽日帰りで特攻し、念願の天女様を拝んだものの、神戸の儚い美少女ではなくめちゃくちゃ元気な溌剌妖精になっていた。うん……振り幅、あるよね。

 ところで、ショーを見ていて気づいたのは、私はフィギュアスケートの『試合』が好きなんだなあということだった。
 選手たちが技術の限界に挑戦し、緊張感みなぎる張り詰めたあの空気。
 そういう点でアイスショーはもっと気軽に娯楽として見られるのだけれども、そのゆるさゆえか、見ている最中に「この人の競技が見たいなあ」などと思ってしまうことも度々あった。
 ただそれを推しやプル様などのスケーターたちに感じないのは、試合並みの、それとはまた違った種類のものだけれど、そのプログラムに向き合う真剣な気迫が見えるからかもしれない。
 試合ではない、ショーでしか魅せられないものを、一期一会のこの瞬間に披露する、その緊張感。そういうものを感じたとき、「ああ、アイスショーっていいな。見に来てよかった」としみじみ思う。
 というか推しがキラキラしてるのが見られれば正直どこでも行くし何でもいいんですけども!! 砂漠に突入する前に美味しい水をガブガブ飲む心意気。

 そして、2019年。
 今年は仙台と富山に行く。
 Fantasy on iceを仙台で開催するのが初めてのことだとは知らなかった。
 仙台を訪れるのはパレード以来だ。
 仕事が修羅場でほとんど寝ずに新幹線に乗ったのに、高ぶって眠れず。
 聖地に到着後、新しく設置されたモニュメントと国民栄誉賞授賞式のときに着用していた仙臺平を見て、牛タンやずんだシェイクを味わい、早くも仙台を満喫してからフォロワーさんの運転するレンタカーで会場へ。
 初日は土砂降りの雨だった。めちゃくちゃ広い駐車場から長々と歩いて会場へ。
 会場入り口を入ってすぐのリンクにびっくりする。近っ。めっちゃ近い。こんな会場に入ったのは初めてだったけれど、よくある造りなんだろうか。
 座席は傾斜があり、A席でも見やすい。トイレは大行列だったので諦めてオープニングを待つことにした。
 会場に鳴り響くおなじみのテーマ。
 アンサンブルスケーターから始まり、何人ものスケーターが紹介され、そして通例通りプル様の後に飛び出してくる推し。
 もうシルエットでわかる。
 細い。動きが大きい。激しい。くねくねしてる。
 歓声に沸き立つ客席。Toshlさんの力強い歌声(声量がすごくてビビる)に盛り上がる、これぞアイスショーという華やかさ。「あ〜FaOI始まった〜」という感慨と共に、キレッキレの推しを凝視する。
 あのひときわ目立つ姿は何だろう。男性的な逞しさでもなく女性的な柔らかさでもなく。何というか、よく二次元体型と言われるが本当に漫画やアニメから飛び出してきたような奇跡のボディラインだ。もう何度も見ているはずなのに相変わらず初めて見たような感動を覚えてしまう。毎度記憶が消えるから。

 以下、印象に残ったプログラム。順番はゴチャゴチャ。
 まず荒川さんの夕顔には普通に泣きそうになってしまった。音楽に引っ張られる人間なので、和の物悲しい曲が刺さったのもあるけれど、着物風の衣装で長い腕全体を波打たせるような動きで滑るあの美しさ……それと扇! 扇最高だからずっと開いてて欲しいと思った。扇のプログラムは推しにもずっと滑って欲しいと思っているくらいの扇好き。本当に素晴らしいパフォーマンスだった。
 そしてメドベの7rings。率直に可愛い。ピンクのお衣装にポニテ(大好き)。そしてやっぱり音楽に引っ張られて体が動きそうになる。本当ーーにメドベはショー映えする。華やかで自分の魅せ方を知っている。ああ大好き。表現力に関して彼女より巧みな人は思い浮かばないような気がする。
 織田くんのミッション・インポッシブル! というかプログラム2つとも、動きが鋭いしジャンプは見事で、現役なのでは??と思ってしまうほど。そして曲に合わせたコミカルな動き。楽しい。テクニックは一流、エンターテイナーとしても随一、ああこれがプロだ。プロのスケーターだと思いました。
 そしてプル様。やっぱりすごい。
 腕の大きな一振りだけで、ブォンと空気が鳴るような……このその場を一瞬で支配してしまう能力、これがカリスマなのか。まさしく皇帝という呼び名そのもの。テレビで見ても、会場で見ても、プル様は格が違う。
 人生初のアイスショーで見たときにも感じた。彼はフィギュアスケート以上の何かを氷上で披露していると思わせる圧倒的な存在感がある。
 現役には間に合わなかったけれど、まだ滑っている内に、ショーでこの目で見られて本当に幸運だと思う。

 そして推しのマスカレイド……。
 もう全力で動いてた。動きまくっていた。
 テレビで見ていた必殺手袋投げ落としも見られた。あの動きはまさしくダチョウくrなどと思っていて申し訳なかった。かっこいい。
 というかごめんなさい何かもう本当記憶が曖昧……Toshlさんの歌声も推しのパフォーマンスも素晴らしく大興奮でギャーギャー言ってたんだけど、あの記憶がですね……A席で遠かったせいもあるかも……でも推しいたよ……キラキラぴちぴちしてたよ……。

 というレポとしてはまったくもって不完全なあれなので、富山でまた確認してきます。
 フィナーレは渡辺直美が目の前にチラつきながら推しの可愛いレース衣装を堪能していたけれど、その後が緊張した。最後のジャンプ挑戦でショーらしからぬ緊迫感に会場が包まれていて本当に怖かった……でもあとちょっと!
 ところでジャンプの前に着替えに行くとき、勢いよく背中のファスナーを下げて真っ白な背中が見え、気を失わんばかりの絶叫が会場中から上がっていた。
 間違いなくサービス……あの長い首から背中にかけての美しいサンクチュアリをホワイトデリシャスデルタゾーン(長い)とでも名付けよう。
 というかあの背中の白さは何なのか。その眩い輝きは降り積もったばかりの新雪の如し。うなじの毛がゴリラ並だから脱毛に通っている女(わし)の辛さなんて知りませんとその白く美しい背中で語るのか。はあ……シュキ。

 そして、今回初めて生歌を聴いたToshlさん。
 声量すごいし曲によって歌い方が七色に変わるし、それでいてスケーターの演技に融け込む馴染みの柔らかさ。自由自在とはこのこと。すごかった。
 最初その名前を聞いたとき、おおX JAPANが…! と思うと同時に、何となく思い起こしたあの出来事。
 それで個人的に思い出す、知人女性の一件がある。
 彼女は才能あるアーティストで、こだわりを持ち真面目に仕事に取り組む人だった。所属していた会社でいざこざがあり、辛い体験をした後、一人のマネージャーが彼女を導き、所属先が変わった。
 その後に彼女とそのマネージャーを交えて会ったとき内心ひどく驚いた。
 彼女は至って普通の社交性を持ち通常の会話ができていたはずなのに、そのときには一人で話をすることすらできなくなっていた。隣の女性がすべて先に立ち話を進め、「こう言いたいんでしょ?」と促されてようやく頷くような状態。
 今はどうなっているのかわからないけれど、そのときはすべてをその女性が取り仕切り、彼女は制作に没頭することができていたようだ。それはそれで理想的な在り方かもしれないけれど、彼女が自分から満足に発話できなくなっていたあのときの衝撃を、今でも忘れられない。完全に依存し、支配されていた。

 アーティストという人たちは感受性が鋭く繊細で、それゆえに人よりも様々なものを受け取り、多くの葛藤や苦しみを抱えてしまいがちだと思う。だからひとつの強固な太い柱を打ち立てて、これに従っていれば大丈夫と強く言ってくれる存在があれば、ひどく安堵できるのだろう。それが人であれ宗教であれ、「答えはこれだ」とはっきりと明言してくれる存在というのは、理不尽な出来事に出会い、傷つきさまよっている感受性豊かな人々にとって、辛い時期であればあるほど、驚くほどスッと心に入ってきてしまうものだと思う。

 推しにもとても純粋で柔らかな心があるけれど、彼が拠り所にしているのは彼自身だと感じる。演技は憑依型と言われるように音楽と共鳴する性質がとても強い。同様に、他者の感情を容易に察して受け入れ、理解してしまうのじゃないかと思う。それが好意的なものでも、そうでなくても。音楽も人の心も、彼は考える前に感じてしまう人なのではないか。
 たとえば以前彼が「声を上げてくれてありがとう」とファンに言った件でその解釈が様々にされているけれど、あれも個人的にはファンの心理を感じて口にした言葉だと思っている。
 それに助けられたとか、もっと声を上げてくれとか、そういう具体的な意志ではなく、ただファンが欲しい言葉を察知して、それを実際に言ってくれたのではないかと。
 ありがとうという感謝の言葉なのに、慈しみを感じた。見てるよ、わかってるよ、とただ伝えてくれたんじゃないかと。

 私はToshlさんの件を詳しくは知らない。過去にテレビのドキュメント番組を見たような記憶はある。筆舌に尽くしがたいひどい経験をしたのだろうと想像していた。
 今FaOIで彼の素晴らしい歌声を聴き、楽しいブログを見て、SNSでファンの人たちの様子を見ていると、ただひたすら、ああよかったなあと思う。
 まだ見始めて3年目のアイスショーだけれど、一人のアーティストにここまで深く感じ入ることはなかった。
 羽生くんがこれまでになく感情を込めて、激しく魂をぶつけるように演じているのは、きっとToshlさんだからだ。彼に共鳴しているからだと感じる。辛い体験をし、それを乗り越えた純粋で稀有な魂。
 あ〜〜。あんなすごいものを見て、何で記憶がなくなるかなあ〜〜。好き過ぎて受け止めきれず頭が真っ白になる現象をどうにかしたい……。

 さあ、いよいよFaOI後半!
 今度こそ目に焼き付ける!!