(去年の成績)R5司法試験・再現答案(憲法E・31-32点)
[設問1]
1.新制度案について、Xとしては、憲法(以下略)25条1項に反して違憲であると主張する。以下理由を述べる。
2.(1)まず、憲法25条1項は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障している。しかし、「健康で文化的な最低限度」というのは抽象的であり、また、生存権保障については、国家の財政政策と不可分であることから、法律で権利が具体化されてはじめて権利となる。
また、制定された法律の憲法適合性審査についても、上述のとおり、国家の財政とは不可分であることから、立法府に裁量があり、かかる裁量を尊重した上で審査する必要がある。
(2)一方で、生存権は、国民の生存に不可欠な権利であり、制約の際には慎重性が求められる。特に、具体的法律が国民の憲法上の権利をも制約する場合には、かかる制約には合理性が求められる。
(3)そこで、法律が立法府に与えられた裁量の逸脱濫用かどうかについては、権利を制約するのに合理的理由を有するかどうかによって決する。
(4)ア.配偶者の年齢要件(新制度案(以下「案」という。)第3)
まず、配偶者の年齢要件について問題となる。案第3の1によれば、妻については、被保険者の死亡のときに「40歳以上であること」を求めている。後述のとおり、夫についても年齢要件はあるが、女性について年齢要件を「40歳」としたのは、女性の就労促進をするという狙いがある。このような取扱いは、配偶者の平等権(14条)を制約していないか。
憲法14条では平等権が保障される。「平等」とは相対的平等であり、合理的区別は許されるものの、上記のような理由で、男女を差別することは許されない。とすれば、配偶者の年齢要件について権利を制約するのに合理的理由がなく、裁量逸脱濫用といえる。
次に、夫については、妻と同じ配偶者であるにもかかわらず、年齢要件が55歳以上(案第3の2)となっている。これは、男性が十分な収入を得ることができるというステレオタイプに基づくものであり、かつ、男女格差を固定化させるものである。とすれば、これについても、妻と夫で区別する合理的理由とはいえず、平等権に反する取り扱いであり、裁量逸脱濫用にあたる。
イ.遺族年金を受給していた人が、資格を満たさないと受給資格を喪失する点(案第5・第6)
新制度案の下では、旧遺族年金を受給していた者については、遺族に該当しない場合には、経過措置後は受給資格を有しない(案第5及び第6)。
これら条文は、現行制度で受給資格を有していた者が得ていた生活費を失わせるものであり、受給者の生活に係る権利を制約するものである。また、制約としては、月数十万円の収入を失わせるもので制約が大きい。そのため、立法の際には、旧受給者への配慮が求められている。しかし、経過措置は5年にすぎないものであり、十分な配慮があるとはいえない。
以上より、案5及び6についても、裁量逸脱濫用がある。
3.よって、新制度案は憲法25条に反して違憲である。
[設問2]
第1.反論
1.(1)X主張のうち、憲法25条が抽象的権利であること及び、憲法適合審査においては立法府に広い裁量ことについてはそのとおりである。しかし、Xが裁量審査について厳しい審査をしている点は妥当ではない。
(2)憲法25条が、抽象的権利であり、かつ、「健康で文化的な最低限度の生活」の解釈については、国家の財政状況と不可分であると考えるのであれば、いかなる法律を制定するかは専ら立法府の政策的裁量に委ねるべきである。そして、裁判所はそれを尊重すべきである。
そこで、明らかに裁量逸脱濫用といえる特段の事情がない限りは、制定された具体的法律は合憲であると考える。
2.ア.配偶者の年齢要件(新制度案(以下「案」という。)第3)
配偶者の年齢要件について、女性の場合に「40歳以上」(案第3の1)としたのは、女性が40歳を超えた場合には、職を得ることが難しいことから40歳としており、また、40歳に至るまでは、職を得る動機づけを与えるためにも「40歳以上」としている。とすれば、合理的理由に基づく年齢要件であり、明らかに裁量逸脱濫用といえる特段の事情は存しない。
また、男性が「55歳以上」(第3の2)であるとする要件についても、給与所得者の年収が、男性平均600万円、女性平均300万円という2倍の格差があることから、かかる資料に基づく年齢要件である。仮に、男女の受給年齢を同一とすれば、男性の方が実態として年収が高いにもかかわらず、女性と同一となり、不公平を招く。とすれば、男性の年齢要件についても、合理的理由に基づいており、明らかに裁量逸脱濫用といえる特段の事情がない。
イ.遺族年金を受給していた人が、資格を満たさないと受給資格を喪失する点(案第5・第6)
旧遺族年金受給者が、新制度案における「遺族」に該当しない場合には、受給資格を失う(案第5)としているのは、新旧遺族年金制度の下の公平性を担保するためであり、仮に制約があったとしても合理的理由に基づくものである。
また、経過措置が5年間(案第6)としていることも、旧受給者に対する配慮として十分である。
したがって、明らかに裁量逸脱濫用といえる特段の事情はない。
ウ.以上より、本制度案について裁量逸脱濫用は認められない。
3.よって、本制度案は合憲である。
第2.私の立場
1.(1)まず、Xが主張する、憲法25条が抽象的権利であるとする点及び、かかる権利の憲法適合審査には、立法府の裁量が認められることについては同意する。
(2)一方で、「反論」において主張される、明らかに裁量逸脱濫用といえる特段の事情の有無で、本制度案の憲法適合性審査をするのは妥当ではない。
そもそも、憲法25条は、日本国が自由市場経済を採用していることから、経済活動において資源や機会をもたない者は、困窮してしまうため、かかる者を保護する必要性から明文化されたものである。
とすれば、生存権保障は、国民の生存に不可欠な権利を保障する重要な権利として厚く保護する必要がある。
また、新制度案が、生活保護法ではないことから緩やかに審査することも妥当ではない。たしかに、生活保護は、困窮した国民を救う最後の手段として重要な制度である。しかし、他の年金制度等も生活保護と同様に、国民の生存を確保する制度として重要である。
そこで、本制度案の裁量審査をする上では、制度に合理性がなければ裁量逸脱濫用として違憲であるというべきである。
具体的には(ⅰ)目的が正当であり、(ⅱ)手段が合理的関連性を有しない場合には、裁量逸脱濫用となる。
2.ア.配偶者の年齢要件(新制度案(以下「案」という。)第3)
(ⅰ)本制度案の、配偶者の年齢要件を設けた、目的としては(a)女性の就労促進、(b)男女の収入格差の遺族年金への反映という目的がある。
(a)については、男女共同参画を推進している現代社会では、かかる目的は正当といえる。
(b)については、男女の収入格差を遺族年金の受給要件という形で反映させるべきではない。したがって、(b)の目的は正当とはいえない。
(ⅱ)(a)女性の就労促進という目的達成のために、妻の受給年齢を「40歳以上」としている。これにより、40歳までの者は、遺族年金を受給できないため、就労意欲が高まり女性の就労が促進されるように思える。しかし、もともと勤労意欲の無い者などについては、このような年齢を設けても、就労が促進されるとは限らない。一方で、このような規定により、シングル・マザーは遺族年金は受給できずに生活が困難となる。そして、新制度案については子供(案第3の3)について別途遺族年金を加算するとしているが、これをもって生活費が賄われるものではない。したがって、手段が合理的関連性を有しない。
(b)についても、男女の収入格差はたしかに存在するが、かかる格差を受給要件に反映してしまえば、格差を固定化することにつながる。したがって、手段が合理的関連性を有しない。
イ.遺族年金を受給していた人が、資格を満たさないと受給資格を喪失する点(案第5・第6)
これについても、新旧制度の公平性という目的は正当ではあるものの、手段としての合理的関連性を有しない。
3.以上により、本制度案は違憲である。
以上。
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