風だけが複雑、

宇宙より先に、君はいたね。
その前に、鬼と差別が生まれた。
そのずっとずっと前に、化石発掘は限界を迎えた。
そのずっとずっとずぅぅぅぅぅぅっと前に、赤色が発明された。
誰によって?
宇宙の前の前の前の………

軽トラは東へ向かう。
2本目の橋を超えたあたりで、君はあくびをした。
苛立っていた僕は、「あくびなんか」と言った。
君は即座に「謎め」と言って、消えた。そうか、君は謎が嫌いだったんだっけ。謎を憎んでいたんだっけ。
軽トラは東へ向かう。
深夜なので赤信号は無視。そんなの、宇宙のずっと後の後の後の…が決めたルール。いや、鬼のずっとずっとずっと…でもあるか。まあ、なんにせよ、そんなものが僕を縛る理由にはならない。

軽 ト ラ は 東 へ 向 か う


犬が吠えた。
いや、カマキリが鳴いたのかもしれない。
いずれにせよ、肉食の「教師役」が、僕を音で起こした。眠いのに。
「眠いので寝かせてください」
そう言って僕はまた4丁目のゴミ捨て場横に寝転がった。それでも音は止まない。どうにかして僕を起こしたいらしい。


音の高さが変わった。ふと、音源の方を見るとそこには「あふりか」があった。そう、僕が犬かカマキリだと思っていたそれは、「あふりか」だったのだ。

ぼくがかんがえたさいきょうのあふりか

ふと、いつか墓場で出会った少年のことを思い出した。あれはそう、確か、見ず知らずの人の墓石に玉ねぎ(蜂蜜だったかもしれない。蜜が印欧語だなんて、冗談だろ?)をお供えしていたときのこと。視界の隅にアナグマを見つけた僕に向かって、少年がそう言ったんだ。


「君だったのか」

僕は叫んだ。すると、「あふりか」はまるで焦ったような苦い恍惚の表情(模様と考えてもらっていい)を見せた。きっと、声をかけられるなんて思いもしなかったんだろう。かわいそうに。
「ハッピーでいきましょう!ラッキーに生きましょう!」
遠くから、バケツのサイレンが聞こえたと思うと、街があたふたするを選んで、来たにする訳アリと自由を銃で座り直しましたか?

ーーーーーーーーキリカエーーーーーーーー

「マーくんがブルーベリー食べちゃった」
女児が驚いて報告してきた。私はマハチカラ。ヴァイオリンと旧ソ連の旅人。ヴィオラは嫌い。
「マーくんがブルーベリー食べちゃった」
女児は黙らない。私はマハチカラ。イスティクラール(独立)を愛する旅人。ブルーレイは知らない。
「マーくんが壊疽を食べちゃった」
女児はとうとう黙らなかった。私はマハチカラ…。私は……。私は…?

寒気がしたので振り向くと、ちくわのお化けが立っていた。ちくわのお化けを見たのは初めてだが、それが何ら危害を加えてこないことは、直感的に分かった。柔らかくて湿っていたからかもしれないし、顔がなかったからかもしれない。でも、きっと怖がったほうがいいんだろうなとも思った。ちくわがわざわざ化けて出るんだから、相当な覚悟だったはずである。それを、「やい、ちくわ」と蹴飛ばしてしまってはあまりに不粋ではなかろうか。
だから、会社に電話することにした。

「もしもし、栄養士の浮林です。ええと、すみません。今日は欠勤します。あ、いえ、体調はすこぶる良いんですが、あの、なんと言うか、"ちくわのお化け"が出まして、これがどうしても怖いので…。あ、はい…。はい…。あ、そうですか。"災害のため出勤困難"という扱いになるんですか。へえ、知らなかった。ええ、じゃあ、どうも…」

受話器を置いても依然ちくわはそこにいる。
「まいったなぁ、きゅうりを切らしてるし、磯辺揚げにする自信もないし…」
独り言も、ちくわに吸い込まれてしまった。ちくわは、依然しっとりとして、そこにいる。

「裁判には美談もピタゴラも必要ない」

ちくわが、そう、呟いた気がした。

あなたを気づきいて

日々が、そう答えたような気がした。
干からびた雨だけが歌う、歌う…。

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