悪夢か、奇跡か。

あの日、2つの夢を見た

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2020年10月25日、京都11R 菊花賞。
このレース、私は2つの馬券を買っていた。
1つは偉大なる父、ディープインパクト以来の三冠達成がかかるコントレイルの単勝馬券。
父以来の無敗の三冠馬誕生に期待していた。
そしてもう1つが、6番→3番の馬単馬券である。
3番とはコントレイルの馬番で、6番とはヴェルトライゼンデの馬番だ。
『選んだ馬が1着なら当たり』の単勝馬券でコントレイルを選び、『選んだ馬が1着→2着の順で来たら当たり』の馬単馬券でコントレイルを2着に置き、1着馬にヴェルトライゼンデを選ぶというのは『父以来の無敗の三冠馬誕生に期待している』という言葉に相反する。
ここで私はもう1つ期待していたことがあった。
『ライスシャワーの再来』である。
ヴェルトライゼンデの戦績はライスシャワーとよく似ていた。そして『2歳GⅠを勝った無敗の二冠馬』や『天皇賞・春を連覇した馬』がいるなど、置かれた状況もライスシャワーにそっくりだったのだ。

結論から言うとヴェルトライゼンデは7着、コントレイルは父以来の無敗の三冠馬となり、『天皇賞・春を連覇していた』フィエールマンは志半ばで引退してしまった。
恥ずかしいことながら、自分自身の見る目の無さを露呈してしまっただけでなく、『ヴェルトライゼンデはヴェルトライゼンデであって、ライスシャワーの生まれ変わりではない』という、至極当たり前なことに気付かされてしまった訳である。
ただ、恐らくこの癖は治りそうになく、今後も同じような過ちを繰り返すんだろうな、とは思う。

ライスシャワーちゃんとの出会い

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それから数ヶ月後、『ライスシャワーの生まれ変わり』はウマ娘のアニメの中で美少女になってゲートを飛び出した。
ライスシャワーちゃん(ウマ娘と現実の馬を区別するために敢えてこういう呼び方をするが)の存在自体は2017年に追加ウマ娘が発表された時から知っていた。
華奢なその身体は競走馬としては小柄だったライスシャワーを彷彿とさせた。
どこか儚げな見た目と声は、『ライスシャワー』の名が皮肉になるほどの壮絶な生涯を思い起こさせる。
そんなライスシャワーちゃんが動くところを見たかったのだが、遂に念願叶ったのだ。それもメインとして、しかも2話も。
それがあまりにも素晴らしすぎたので、爆発させた感情を鎮めるために取り留めもなく書き綴っているのである。

ライスちゃんが走ると覚悟した日

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ウマ娘2期7話
その前の2期6話で菊花賞をあっさりと終わらせてしまったので肩透かしを食らったが、それはこの7話の伏線であったのだと今なら分かる。
菊花賞では無敗の二冠馬であったミホノブルボンちゃんを破り、ビッグタイトルを手にしたライスシャワーちゃん。ところが、観客の反応は冷たいもので、ライスシャワーちゃんはトラウマになってしまう。
ギャグを交えながら重くなりすぎず、ライスシャワーちゃんの感情を上手く表現したアニメスタッフには本当に感心する。
トラウマを抱えたライスシャワーちゃんは紆余曲折を経て『天皇賞・春を走るべきか、走らぬべきか』の葛藤を始める。だが、他のウマ娘の『三冠ウマ娘になる』の言葉を聞いた時、遂にそのトラウマが爆発してしまう。
ライスシャワーちゃんはテイオーちゃんやブルボンちゃん、メジロマックイーンちゃんの前では『走りたくない』と言ってるが、もう少し噛み砕くと『走りたいけど、走ることで傷つけたくないし、傷つきたくない』ということなのだろう。根は凄く優しい子だからこそ、ライスシャワーちゃんの葛藤はとても辛い。なぜこんな闇を抱えねばならぬのか…『ライスシャワー』という名前なのに……
『ライスはテイオーさんやブルボンさんとは違う…ライスはヒールなんだよ……』の言葉、本当に胸が痛かった。ごめんよ、人間が愚かでごめんよ……

ただ、人間の肩を持つわけじゃないけど一応競馬ファンとしては応援していた馬、もといウマ娘が負けた時の悔しさと言ったら尋常ではない。
『あと100mだったのに…』とか『アイツさえ居なければ……』というのは割とあるし、私も思い当たるところはある。だからと言って、それを一生懸命はしった他のウマ娘に当たるのは言語道断なのだが……
(ちなみにウマ娘の世界では無いけれども、馬券は自己責任だと思っているので、危険な騎乗など、よっぽどのことがない限り買った馬や騎手を批判するのは良くないと思っているので馬券が外れても『この馬を信じた俺が悪い』と思うようにしている。)

そして、その後のテイオーちゃんに連れられたブルボンちゃんの説得は本当に熱かった。サイボーグと呼ばれたウマ娘があんなに感情を露わにするものかと。
『あなたはヒールじゃない、ヒーローなんです』
憧れの存在からあんな言われ方したらライスちゃんも覚悟決めちゃうよね、って感じで。
この言葉に突き動かされたライスシャワーちゃん、遂に天皇賞・春に出走することを決意するのだ。
いや感動した。幸せになってくれ、ライスシャワーちゃん。俺は応援してるぞ。と思いながら1週間後、遂に8話を迎える。

漆黒の馬体に、鬼が宿る。

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8話、OPのライスシャワーちゃんのカットで既に脱帽。ウマ娘制作陣本当すげぇよ…JRAのThe WinnerのCMのパロディそこで入れて来るんだもん。ダメだよ、反則だよ、それ。
メジロマックイーンちゃんを追いかけ回していたライスシャワーちゃんは、このままではマックイーンちゃんに勝てないと踏んで、史実通りの猛特訓を開始する。
ブルボンちゃんがライスちゃんの居場所を突き止めて、秘密の特訓場所に向かった時には履き潰された大量のランニングシューズが……
7話でマチカネタンホイザちゃんが言っていた『ライスちゃんは芯の強いウマ娘だ』と言っていたのを思い出す。全てはマックイーンちゃんに勝つため、マックイーンちゃんに勝って、自分が強いウマ娘であることを証明するために……
『精神は肉体を超越する』ライスちゃんの言葉に共鳴するブルボンちゃんは、ライスちゃんの猛特訓を近くで見守る。そして…ライスちゃんに『鬼が宿る』のだ。

迎えた天皇賞・春、マックイーンちゃんは猛獣と化したライスちゃんに気を取られ、なかなかゲートに入れない。やっとゲートに入ることが出来ると、いよいよ出走。レースはメジロパーマーちゃんが殺人的なペースで大逃げを敢行。
途中で的場均つながりでグラスワンダーちゃんが出てきたり、7話の『ライス、天皇賞出ます』のところのカットインがあったり……レースは残酷だ。こんな演出をされたらライスちゃんを応援せざるを得ない。ただ、マックイーンちゃんに負けて欲しいかといえばそうでもない。辛い。なんだこの感情は……
あと鬼が宿ったライスちゃんはカッコいい。7話のおどおどしていたライスちゃんはどこに行ったのか…別人のようだ。カッコいい……本当カッコいいぞ…………
そしてレースは最後の直線へ。逃げるパーマーちゃんを捉えにかかるマックイーンちゃん。そして忍び寄る黒い影………

と、ここで私のTwitterが止まる。ウマ娘放送中はほぼ30秒〜1分感覚くらいで実況してた私の手が5分以上止まった。ラストの直線、食い入るように画面を見つめていた。結果は知っている。史実通りならライスシャワーちゃんがマックイーンちゃんを交わして先頭に躍り出るのだ。そのままライスシャワーちゃんが先頭でゴールし、掲示板にはレコードの赤い文字が点灯する………恐らく今回の結末もそうなるであろう。知っている。そう、分かっている……全部見えている。それなのに身体の震えは止まらないし、胸の高鳴りは止まらない。
深夜の自宅なので、騒いではならない。辛うじて残る理性が語りかける。恐らくここがレース場であれば奇声を上げて発狂していたことだろう。そうやって我慢しててもそれをすり抜けて変な声が出たのだから……
マックイーンちゃんに並ぶライスシャワーちゃん、それを見た観客の『またヒールになっていいのか!』の声。
(話は逸れるが、2015年のホープフルSではハートレーに対して非常に申し訳ないことを口走ってしまった。人の振り見て我が振り直せ、非常に反省している)
瞳に青い炎を燃やしながら、ライスちゃんは答える『ライスはヒールじゃない……ヒーローだ!!』
マックイーンちゃんを抜き去って先頭でゴール板を駆け抜けるライスちゃん。静まり返る観客席、レコードの赤い文字……
『マックイーンの3連覇が…』と落胆する人々。そんな中、真っ先に拍手を送ったのは夢破れたマックイーンちゃん。スタンドからもささやかながら勝者を称える拍手が送られる……
地下馬道に戻ったライスちゃん。出迎えるブルボンちゃん。レースを終え、鬼から解放されたライスちゃんは泣いていた。

『またたくさんの夢を壊してしまいました…』

『勝つとはそういうことです。誰かが勝つということは誰が傷つき、夢破れる。勝負ですからね』

『ブーイングって痛いですね…痛かったです……』

『ブーイングはチャレンジャーの勲章です。落ち込む必要はありません。でもいつか、それが歓喜と祝福の声になる日は必ず来ます。あなたが勝ち続ければ……だってあなたは…ライスシャワーなのですから。』

辛い。本当に辛い。痛い。虚しい。色んな感情が湧いてくる。
ごめんよ、ライスちゃん、人間が愚かでごめんよ……
ブルボンちゃんの最後の言葉、ライスちゃんのこの後が一筋縄では行かないことを知っているからこそ、本当に辛い。せめてアニメでは幸せになってほしい………ほんとに。
とはいえ、ここで簡単に歴史改変をせず、静寂の淀を描ききったウマ娘アニメ制作陣には頭が上がらない。ライスシャワーちゃんの物語がここで終わるのであればそれでも良かったのかもしれないけど、ライスちゃんのお話はこれからも続くわけなのだ。『ここで終わらせない』という制作陣の強い強い意思を感じた。1期ではサイレンススズカちゃんを救ったウマ娘だ。ライスちゃんも幸せになると確信している。
一方の負けたマックイーンちゃん。『鉄の女』イクノディクタスちゃんを前に『ライバルが多いって素敵ですね』と一言。その目は宝塚記念に向けて、確実に前を向いていた……

1期でジャパンカップを勝ったスペちゃんは『みんなの夢を乗せて走る』と高らかに宣言をした。そういう意味では『みんなの夢を壊す』ライスちゃんが走る覚悟を決めてもなお葛藤を抱え続ける姿は胸が締め付けられる。
しかし、それでも走り続けるライスちゃんの頑張りによって、ライスシャワーからウマ娘のライスシャワーちゃんに形を変え、淀に散って26年、遂に『あの天皇賞・春』でライスちゃんは祝福されると共に、改めて、その強さを認められることとなった。ただし祝福は画面の外で、の話であるが。

ライスシャワーと『夢』

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ところでライスシャワーは夢を壊したのか?
ライスちゃんは『たくさんの夢を壊した』ことを嘆いていた。たしかにそうだ。ミホノブルボン無敗の三冠、メジロマックイーンの3連覇…さらに言い様によってはステージチャンプのGⅠ制覇とか、ナイスネイチャの4年連続有馬記念3着も阻止したのだ。言ってしまえばキリがない。
でもここでおハナさんの6話の言葉を思い出す
『夢は形を変えていく』
ウマ娘でライスちゃんはブルボンちゃんの三冠の夢を破った。しかし、ライスちゃんはブルボンちゃんの新たな希望となり、けがから復帰してライスちゃんともう一度勝負するという『夢』につながった。
そして私も、ライスシャワーに『夢』を魅せられた。ヴェルトライゼンデにライスシャワーを重ね合わせ、『ライスシャワーの再来』となることを期待した。本当に憎らしいほど名馬なんだと思う。
ライスシャワーは、そして、ライスちゃんは夢を壊すと同時に夢を作ってくれたのだ。私はそう思っている。
ここまで丁寧にライスシャワーちゃんを描いてくれたウマ娘スタッフには改めて感謝しかない。
描こうと思えばひたすらに可愛いライスちゃんは描けたはずである。そこに鬼を宿らせて、あの天皇賞・春を再現させてくれたのだから。カッコいいライスちゃんを魅せてくれたのだから……
まだまだ言い足りないことはあるけれど、なかなかうまく言葉にまとめられない。というかここまですでに乱文なので書ける気がしない。いったんここで終わりにしよう。それにしても締まりが悪すぎる文章だ。

最後に一言
ゴルシちゃんへ、君はもっと同一G1三連覇の価値を重くみるべきだ。

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