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Custombilt / ORIGINAL / 627

レストア前

ドリルでゴリゴリ削った、太いライン状の彫りが特徴的なアメリカのメイカー、CustomBiltです。
一部にコアなファンを持つカスタムビルトですが、個人的には地方のお土産屋さんにある民芸品みを感じて好みじゃない。

が。
この個体は細かいラインがたくさん入ってるせいで、ブラストっぽくも見えるのが気に入りました。
また、ちょうど、ホークビルみたいにシャンクがボウル上方にあるシェイプって煙道位置どうなってんの?中間煙道?と気になってた所だったので購入。

カスタムビルトは、トレイシー・ミンサーという人が創業したアメリカのパイプメイカーです。
特徴的な彫りは、見た目から想像できるように、ブライヤーの欠陥を誤魔化すために始めたっぽい。
が、この彫りが、他社からも「CustomBilt風」のパイプが出るほど人気が出て、いちジャンルを築くまでになりました。

このトレイシー・ミンサー、職人としてはともかく、経営者としてはダメだったぽくて、カスタムビルト社のトップだった時代は短いです。
1930年代に製造を開始しますが、1946年にはEugene J. Rich社と業務提携。
そして、1950年代初頭に深刻な経済的問題を抱え、パイプ製造を中止。
その後、53年にレナード・ロジャースに会社を買収されます。
このレナード・ロジャース時代はタバコポーチとプタンライターに注力し、パイプ作ってなかったぽい。
なので、ミンサーは別会社で「The Doodler」という新しいパイプを作り始め、64年に亡くなります。
ミンサーが亡くなった後、1968年にレナード・ロジャースはカスタムビルト社をConsolidatedCigars社に売却。
さらに、70年代初頭にWallyFrank社がカスタムビルトの商標を購入し、1974年頃からカスタムビルトパイプが再び製造・販売されます。
もうミンサー関係ないです。
ちなみに、ウォーリーフランクのもとでも、ニュージャージー工場→フランスのブショカン工場→メキシコの工場と製造場所が変わっていき、最終的にスペインの会社が商標獲得と、グローバルにタライ回しされていきます。

波乱万丈のカスタムビルトですが、大きく3つの時代に分けられます。
創業者のミンサー時代、業務提携を受けてたリッチ時代、完全に別会社となったウォーリーフランク時代。
各時代でCustomBiltの刻印が変わるのですが、今回の書体で、ORIGINALっていうシリーズは、ウォーリーフランク時代。
1974年頃〜1998年頃までとなります。

一番人気はミンサー時代。
この時代、今は亡きアルジェリアンブライヤーで作られています。
コアなファンがついてるのはこれも理由みたい。
ミンサー時代の刻印はCustom-Bilt。
それ以降の刻印はCustomBilt。
ミンサー時代だけ「- (ハイフン)」が付いてます。

シャンク底には627の数字。
多分シェイプコード。
彫り自体はそれぞれ個体差がある一点ものだけど、ベースのシェイプは統一されてたみたい。
ウォーリーフランク製だからかな?

ゴリゴリに削られた彫り。
よく見かけるのカスタムビルトは、太いラインが数本彫られてる感じだけど、あんまり好きじゃない。
こいつは細かい彫りが多く入ってて、それが太いラインと馴染んで、全体的に深いブラストみたいに見える。
大ぶり肉厚なボウルと相まって、少しイタリアみを感じて好き。
シェイプも好みの丸っこい感じだし。

ボウル内は綺麗にリーミングされてる。
でもボウルトップに少し黒ずみ汚れ。
気になってた煙道位置は、きちんとボウル底真ん中に通ってる。
が。
あー、こういうことか…

↑みたいに、シャンク内にまっすぐ穴掘った後、道の途中から斜め下に改めて別の道掘ってる。
向きは違うけどピーターソン的な感じ。
そらそうだよなあ。
角度急だもん。

このタイプの構造、吸い口から底までモールが通らんのよ。
一本同じような構造のパイプ持ってるけど、いちいちボウル冷めるの待ってからステム外してモール刺さないと煙道に通せない。
そうなるとめんどくて使用頻度下がるんよなあ。
残念。

ステムは使用感あるものの、深いティースマークとかは無し。
普通に変色はしてるけど。
一箇所シャンク接合部付近にちょっと凹みあるけど、これは残しかな。
位置的に凹み消そうとするとシャンクと段差出そう。
埋めるのはめんどいし、ボウルこんだけえぐれてんだから、ステムがちょっと凹んでてもヘーキヘーキ。

全体的に、使用感あるものの状態は大分よいです。


ボウルのお掃除

ボウル内は綺麗だったので、軽くリーミングして終わり。
でもシャンク内は汚れてるっぽかったので、アルコールメソッド。
ボウルにコットン詰め込んで、シャンク内モールでギチギチにして、エタノールヒタヒタに。
数時間おきに何度かエタノール注ぎ足して一晩放置。
内部の汚れが浮いてきます。

一晩経ったら、コットン取り除いて、ボウル内を軽くリーミング。
底の溝部分に少し残ったカーボンもナイフでこそぎ取り。
ボウルが綺麗になったら、シャンクをストローブラシとかでゴシゴシ。
モールに色がつかなくなるまで掃除。

内側が綺麗になったら外側の掃除。
ボウルにキッチンペーパー詰めて、シャンクにモール詰め込んで、マーフィーのオイルソープで洗浄。
歯ブラシに原液をつけてゴシゴシ。
温水の流水で洗い流し。
溝が洗いがいがある。

乾いたら、全体に椿油塗りたくり。
溝も歯ブラシで。
塗りがいがある。
あまり放置せずに拭き取り。
傷などもほとんどなく、ピカピカなので、ヤスリやバフかけ無し。

溝にルネサンスワックスを塗り込み、全体にカルナバワックスをかけて仕上げ。
溝に入ったカルナバワックスの細かいカスはヒートガンで溶かし、全体を豚毛の靴磨き用ブラシでゴシゴシ。

最後に、ボウル内にエタノールで薄めた蜂蜜を塗っておしまい。
ボウルの保護とカーボン生成を助けます。


ステムのお掃除

ステムは変色があるので、オキシクリーンにドボン。
60度くらいのお湯に、40gくらい?のオキシクリーンを入れて、泡が出なくなるまで放置します。
泡が出なくなったら激落くん的メラミンスポンジで表面のヌメリをこすり洗い。
ある程度黒に戻ります。

次にエタノール風呂へドボン。
しばらくすると中からヤニがもわ〜っと出てきます。

エタノールから取り出したらストローブラシでゴシゴシ。
吸い口のところにヤニが固まってるので、竹串とかでホジホジ。

シャンクとの接合部分が丸まらないように、テノンにマスキングテープぐるぐる。
扁平なので左右にモールの切れ端挟んでぐるぐる。
ステムより少し高くなるくらいまでテープを巻いたら、全体をヤスリがけ。
400〜2000まで。
終わったら白棒バフをかけて、コンパウンドで磨きます。
最後にマスキング取って、テノンに鉛筆ぬりぬり。
シャンクへの差し込みがスムーズになります。

あとはボウルと合体して、全体をつやふきんで拭いておしまいです。


完成

ピカピカツヤツヤです。
ボウルトップも綺麗になりました。

ステムもピカピカ。
黒も戻りました。

ゴリゴリ。
迫力ある。
単純なラインじゃなくて、全体に馴染んでる感じがデザインしてて良い。

カスタムビルトは今まで毛嫌いしてたけど、このパイプはシェイプも含めてだいぶ好き。
使ってみたら、意外にも重くなく、結構くわえやすい。
これでモールがスッと底まで入ったら最高だったなあ。

以上でレストア終了です。
おつかれさまでした。

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