「彼女は夢で踊る」サラのことを考える

プライムビデオで観ました「彼女は夢で踊る」。
予告で既に心を鷲掴みにされはしたけど、一回観てみなきゃあ購入はできませんやと48時間レンタルで観てみたらドツボにはまり、うかうかしてたらアッサリ48時間を過ぎ、気づけば何のためらいもなく購入ボタンをターン!と押しておりました。
塵ほども後悔してない。
むしろこの映画にお金使えないなんて地獄すぎる。

でも、実はまだ通しでは二回しか観ていないのです。
いつでも観られるくせになかなか再生できない。
あの世界は頭の中にずっとあるのに自分がそこへ飛び込めない。
ぐずぐずぐずぐずしてる。
なのに頭の中に常に信太郎やサラがいるので、妄想が大変なんです。
映画で描かれなかったことを、つい考えています。
初見の感想は投下済みですが、書きたいことが溢れて止まりません。

そんな中でも今はサラのことを。
いつものことですが長いです。
そして妄想過多です。



サラは信太郎を好きだったのだろうか。
これに対する自分の考えを述べてみたいと思います。
論文か。


私の答えはズバリ「サラも信太郎を好きだった」です。
これ、観た皆さんはどう感じたんだろう。語り合いたいなあ。

サラは信太郎のことなど好きではなかった、という見方は容易にできると思うんです。本命てか彼氏いるしね。
金づるにされてることをわかってて、それでも好きってそのへん見渡してもゴロゴロしてる話だし。
彼が現れた瞬間高くなる声のトーンや甘えたようにすり寄っていく仕草から、彼がサラにとって特別な男であることはわかる。
恐らく彼との間にトラブルが起きたことで自暴自棄になっているし、信太郎にとって忘れられるはずもない、出会ったときにかけられた「テキーラは失恋の痛みを焼いてくれる」という言葉をここで使って信太郎の心臓にまたナイフを突き刺してもいる。
サラにとって信太郎との出会いなどそんなもん。
どん底まで落ちたと思ったときに自分をいたわる言葉をかけてくれた自分に惚れてる男に、ほんの一瞬寄りかかっただけ。
だから振り返りもせず捨てて行く。

ね?
カンタンなのです。
サラは信太郎のことなど好きではなかったって答えを出すのは。
起こったことをただ羅列していけばそうなる。
信太郎もその方が絶対ラクだよね?
だけど残念ながら、信太郎は思い出してしまった。
そのときのサラの表情、声色、サラのすべてを。
そうやって信太郎が思い出したサラの姿を我々が正しく見ている、と仮定すると。
「サラはどう見たって信太郎のことを好き」
なんである。

はじめにおや、と思ったのが「あたしここに泊まってるから」と言ったとき。
お近づきになりたくない相手にそんなことわざわざ言わない。そもそも二人で飲みにも行かない。

次におやおや、と思ったのがお化粧部屋のシーンで、私はサラはこのときには信太郎を好きになってると考えてる。
このとき、サラはステージに立つ自分とそうではない自分について初めて信太郎に語る。
というか、サラがそんなことを話した相手はひょっとしたら信太郎しかいなかったんじゃないのかとすら思う。
サラが信太郎に自分のことを話すときの声色って、その他のときと全然違うの。
何にも媚びない、妙に冷涼な響きを持っている。
私はそれこそが素のサラだと感じた。
そして信太郎は、素のサラをたくさん浴びまくった。サラは浴びせまくった。そこに何の気持ちもなかったとはもはや思えない。
サラはもしかしたらその自覚なかったのかもなあ。
サラは素の自分が好きではない。肯定できない。ステージの上の自分なら信じられる。だからステージが好き。
そのための化粧をした、衣装を着た自分こそが価値のあるものだと思っている。
そんなサラがあの部屋への入室を許可し、変わってゆく姿を見せ、出来上がった最高に可愛い自分を「みてみて、かわいいでしょ?」とばかりに見せる。
特別じゃないはずがない。
振り向くサラ、信太郎も何度か思い出してるけど、最っ高にかわいいよね?
あの表情!
あんなふうに見つめられたら私だって恋に落ちてしまいそうです。
そんな表情を、好きでもない相手には決して見せない。

サラはステージの上の自分が最高だと思ってるから、信太郎が自分のステージを観ないことが不満。
「他の人のは観てるくせに」
なに?そのかわいいヤキモチ!
それがヤキモチだとも気付いてない信太郎がまさに信太郎。

信太郎は確かにサラの踊りに魅了されたからこそ恋に落ちたんだけれど、ステージ上の彼女を神聖視していたわけじゃない。むしろ逆で、ステージの上の姿が仮のものだと、他でもないサラから教えてもらって知っている。
それよりも信太郎が惹かれたのは、踊りながら悲しさを漂わせている姿や、違う自分へと変貌を遂げるときに何を考えているか教えてくれた姿や、笑ったり泣いたり拗ねたりする姿なのだと思う。
踊る彼女が尊いのはそういう素の彼女が存在するからだと、信太郎は理解している。
対してサラは、ステージの上の自分にしか価値はないと思い込んでいて、完全にすれ違ってしまっている。

信太郎は信太郎で自分のことなどサラが相手にするはずないと思っているし、サラはサラで信太郎が見ているのは本当の自分とはかけ離れたものだと思っている。
ほんとは両想いなのに双方片想いをしている、いわゆる両片想いのテンプレか君ら!?
あなたたち、もっと自分をさらけ出してお話ししてごらんなさい!って言いたくなるけど、言えなかった二人が好きなんだぜ…。


あの夜。
サラは彼氏との間に決定的な亀裂が入ったんだろう。
「失恋」と言いながらヨーコさんが「男と逃げたけどお金のことで揉めて」と言っていたことが疑問でもあったんだけど、もう好きではないのに男が相当タチが悪くて離れることができなかったって考えれば筋は通るのかなと思ったり。
ここが自分の中でうまく消化できなくてうんうん悩んでたんだけど、この記事を書きながら、この「失恋」には二通りの解釈ができることに気付いて震えてしまった。

まず一つめ。
サラはあのとき、彼氏をもう好きではいられない状態にあった。
ストリップダンサーがどれだけ儲かるのかを知らないのだけど、社長信太郎が「えげつない」って言ってたからかなり稼ぐのだろう。
もしかしたらサラはあの男のために金が必要だったのかもしれない。
ついにヤバいところにまで来てしまったのかな。それでもなお自分の金をあてにするだけの男に嫌気がさしたのかな。その後一緒に逃げてるのだから、男に愛想尽かされた上での失恋ではなかったと言える。
その上でサラの「失恋」の意味を考えれば、フラれた、のではなく、文字通り「すがってきた恋を失った」ということなのだと思う。

そして二つめ。
「失恋」の相手が信太郎である可能性。
金絡みのトラブルによって逃亡生活を余儀なくされることとなったサラ。
信太郎とはもう会えなくなる。
信太郎と幸せな恋をして、その先の幸せな未来を掴む。
そんな夢をサラが見たことなかったとはちょっと考えにくい。
けれど、もうその夢は永遠に叶うことがなくなってしまった。
まだ実を結んでいない、蕾のような恋を失ってしまった。
サラの心情的にキツいのはこっちなんじゃないかって気がして、こんなこと気付かなきゃよかったって思いました。


どちらの場合も、恋を断ち切るときにそばにいてほしかったのは信太郎。
例によってまったく信太郎に伝わってないのがとことんしんどい。

この夜、二人は飲みに行ったのかしら。
テキーラで恋を焼いたのかしら。
なんか、そうじゃなかった気がする。
テキーラ無しでサラは恋を葬ることができたんじゃないのかな。
だって信太郎がそこにいたから。
最初の信太郎の失恋を焼いたのもほんとうはテキーラではなかった。
だからきっと、サラの恋を焼いたのもテキーラではなかったはず。
信太郎の失恋はサラの踊りに浄化され、サラの失恋はサラの踊りを見つめる信太郎のまなざしと朝日に焼かれたのではないかなあ。

信太郎に別れを告げるためのラストダンス。
サラはここに来てもまだ信太郎が好きなのが自分ではないステージの上の別人格な自分だと思っていて、だからこそ最後に見せたかった、見てもらいたかったんじゃないのかな。
信太郎に自分を好きでいてほしかった。
そしたら信太郎が抱きしめてくれたから。
「一緒に行くよ、どこへでも逃げるよ」(でしたっけ?あやふや)って言ってくれたから。
うまく言葉にならん。
サラはうれしかったと思う。
あのとき、サラは信太郎が本当の自分を見てくれる人だと、その上で愛してくれる人だと、初めて信じられたんじゃないかなあ。
だから信太郎にすべてを渡すことができたんだと思う。

出ていくとき、あっさりと信太郎を捨てて行った彼女の気持ちなんて言葉にするまでもない。
信太郎を連れて逃げるなんて、できるわけがないじゃないですか。
サラにとって信太郎は、信太郎こそが、儚くて尊い夢のような、憧れそのものだったのだから。
この二人のお互いへの想いは鏡なんじゃないかと思うほどそっくりで、何度も映る鏡やミラーボールまでそれを表しているかのように見えてしまう。
自分にとって眩しくて大切な存在。
そんな彼を間違いなく暗いであろう道に引きずり込むことは、サラにはできなかった。

信太郎は信太郎で、サラに「あんたじゃ物足りない」言われちゃったらショックで足がすくむわな。なんせ自信ないんだからこっちも。

そんなわけで別れることとなった二人なんだけど(そもそも付き合ってもいない)、でも社長信太郎はサラの記憶を甦らせたことで、当時気付けなかった彼女の気持ちに初めて気付いたのではないだろうか。

閉館間際の劇場、迫り来る別れのとき、信太郎をそこに繋ぎ留めてきたサラの記憶。
蓋をしてガムシャラにがんばってきたけど、その蓋がついに開いたのは信太郎が願ったからか劇場に残っていたサラの想いの強さからか。
メロディを誕生させたことで、信太郎はサラの記憶を辿る旅をして。
そしてついにすべてを思い出してから、夢の中でメロディ=サラの踊りを見つめる信太郎の表情は昔のまま。
ここまでずっと、「サラと別れてすっかり変わってしまった信太郎」だと思っていた社長信太郎が、実はまったく変わっていなかったことがわかる。
痺れました。
お芝居がものすごい。

このあとの二人のやり取り、涙無しには観られないんですけど…。
この期に及んでまだ素直じゃないやり取りをかわす二人。
あなたはこの場所が好きだっただけ、さあ行きなさい、とばかりに信太郎を優しく突き放すサラ。
そりゃそうだよだってここは俺の青春そのものなんだからと「好きだったのはサラじゃない」を肯定してるような信太郎。

愛してたよ、ギュッ
ってすりゃあいいじゃん!!
なんでよ!!

なのにお互いの気持ちをじゅうぶんわかり合ってる雰囲気ばんばん醸し出してくるこの二人がいっそ憎い(笑)。

もうなんか、最初の「サラは信太郎を好きだったのだろうか」ってのがひどい愚問としか思えなくなってしまった。
自明でしたね。
いや最初観終えたときはどっちとも取れるなー、なんて思ってたのよこれでも。

信太郎、サラに言われるまで劇場への愛なんてないみたいな顔をずーっとしてたくせに、見事に引っくり返っていて、こいつ生きる気力取り戻したな!ってなりました。
サラのおかげじゃん。
そういうとこも変わってない。
サラが信太郎の燃料となってくれて、信太郎はまたどこかへ進んでいけるんでしょう。
サラの愛の大きさよ。

天岩戸の話が出てきたけど、やっぱり隠れていた神様は信太郎なんだな。
あーーーもう。
サラの愛がすごいしサラへの愛がすごい。


そうそう。
劇中何度も流れて流れすぎて、もはやちょっと笑ってしまいそうにもなるcreep。
信太郎のサラへの気持ちを表した曲であることは言わずもがななんだけれど、歌詞を辿ってみると、サラからの信太郎への気持ちを表しているようにも思えてきました。
特別なあなたと特別じゃない自分の歌。
前述した通り、この二人のお互いへの想いは合わせ鏡のようなので、大いにありえるなって思ったら、また泣けてきちゃった。
私はこの曲を知らなかったのですが、今後いつ耳にしてもこの映画のことを思い出すのでしょう。
私の人生に宝物をいくつも増やしてくれてありがとう。

また観たら、また解釈揺れるんだろうな。
というか、ここに書いたことはすべて私の願望。
サラも信太郎のことを同じように、もしくはもっともっと、好きだったならいいなあという。

パンフレット頼んだからそのうち届くんだけど、読んだらまったく違うものが判明しちゃうかもね。
けど思ったことを吐き出したかったのです。

解釈の余地を残してくれるこの映画を本当に愛してます。

少しスッキリした。
また観ます(笑)。

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