アドマイヤグルーヴの思い出

 以下の文章は、2005年12月18日、アドマイヤグルーヴが引退レースである阪神牝馬ステークスを走り終えた直後に自分が書いた当時のmixi日記です。
 約16年前の競馬ファンの空気感のようなものが伝わるかと思い、一部を読みやすいように編集しつつ、noteにコピペしてみました。

アドグルの思い出

 阪神牝馬Sがラストランとなるアドマイヤグルーヴ。
 正直言うと、もともとは好きな馬じゃなかった。
 サンデー+エアグルーヴ+武豊なんて王道の組み合わせ、俺に嫌ってくれと言わんばかりのパッケージングだ。

 牡馬三冠は見たことがあったものの牝馬三冠は見たことがなかった俺は、この世代の牝馬ではスティルインラブを応援してた。
 幸騎手が好きだったしね。
 それでも、三冠レースからエリザベス女王杯までずっと見ていて、スティルインラブとアドマイヤグルーヴ、いつしかこの二頭のライバル関係は嫌いじゃなくなっていた。
 この年のクラシック世代は評価が微妙だけれど、牡馬にしろ牝馬にしろ、接戦の面白いレースを見せてくれたことは確かだと思う。
 近年でも一番面白かったと思うクラシック戦線だった。

 俺の中でアドグルの評価が大きく変わったのは、やはり今年のローテーションだ。
 母エアグルーヴが避けた春天に果敢に挑戦してきたアドマイヤグルーヴ。
 今から8年前となる1997年、マヤノトップガンが勝った年に出走していたメジロランバダ以来の牝馬の挑戦である。
 確かに90年代の春天では、牝馬の出走も少なからず見られた。イクノディクタスやタケノベルベットなど4頭もの牝馬が出走した年もあった。
 しかしそれは当時、古馬牝馬にとって明確な目標となるレースが少なく、ある程度活躍している牝馬が大レースを目指すなら出ざるえない番組表だったからだ。
 それに90年代前半はステイヤー全盛期で、今よりも長距離レースの価値が大きかった。

 しかし番組表が改正され、ステイヤー冬の時代になり、そもそも明らかに中距離血統であるアドグルには春天に出るメリットなんてなかったと思う。
 現に去年は回避して金鯱賞を選んでいるのだ。
 それでも今年、春天を選んだアドグル陣営。
 絶対的本命馬不在、王者不在のレースならば…という思惑はあったのかもしれない。

 そして迎えた春天。まぁとにかくアドグルは負けた。
 生涯初めての2桁着順だ。
 勝ち馬から1秒以上離されたのも初めてだった。
 その後は春天の疲れを引きずったように、金鯱賞、宝塚記念と得意の中距離レースでも伸び切れないレースが続き、秋天に至ってついに武豊に捨てられてしまう。春天では一番人気のリンカーンを袖にして選んでくれたのに。
 18頭立て17番人気17着。
 もう言い訳のしようもない、ぶっちぎりの大敗だった。

 しかし、この完敗が逆に良かったのだろうか。
 三連覇を目指すエリザベス女王杯前の調教では、リフレッシュした姿を見せたアドグル。
 久しぶりの牝馬限定戦。
 引退を決めたスティルのためにも…というのは言い過ぎかもしれないが、とにかく吹っ切れた走りを見せたアドグルは、勝てこそしなかったものの3着に入ることができた。
 女王スイープトウショウ、エリ女を目標に調整されていたオースミハルカには及ばなかったが、エアメサイアあたりにはまだ負けないってところを見せてくれた。
 豊にフラれた女の意地を見せるレースだった。

 そして今日、3戦ぶりに鞍上に武豊を配したアドグル。
 引退レースは目一杯の作りにはしない、無事に回ってくるだけ、そういうケースも多い。
 まして今日は新マイル女王、ラインクラフト相手のマイル戦なのだから無理をする必要はないなんて思ってしまった。


 そしてレースがスタートする。好スタートのラインクラフトとは対照的に、やや出負けした形のアドグル。
 しかし久しぶりのコンビでも、流石道中はしっかり折り合って順位を徐々に上げていき、4角手前で早くも2番手。
 コーナーで一気に先頭を捉えると、並ぶ間もなくラインクラフトを交わして直線逃げる逃げる。
 追うマイネサマンサ、レクレドールもあと一完歩を詰められずにゴール。

「ラストランは華やかに!」

 まさに、そんなレースだった。


 もはや、サンデー産駒だろうとユタカのお手馬だろうとエアグルの仔だろうと関係なく、俺はアドグルのことが好きになっていた。
 現役最後の秋に好きになるっていうのも皮肉なもんだが、逆にいえば彼女の仔は再来年には生まれてくるってことだ。
 一足早く引退したスティルとの二世対決は、どっちの仔も応援出来るから楽しみになった。

 あとは無事に母親になってくれることだけを祈る。お疲れ様、アドグル。​

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 以上が2005年当時の日記となります。
 その後、アドマイヤグルーヴは2012年に早逝してしまい、5頭の仔が残されるのみとなってしまいましたが、その中から二冠馬ドゥラメンテが生まれ、そしてドゥラメンテ産駒のタイトルホルダーが菊花賞を見事に制したのは記憶に新しいところです。
 また、アドマイヤグルーヴの娘たちは競走馬としては大きく活躍できませんでしたが、みな繁殖牝馬となり、先日(11月13日)のデイリー杯2歳ステークスで孫娘のソネットフレーズが見事2着に入りました。タイトルホルダーと合わせて、アドマイヤグルーヴの血がいつまでも残り続けていってくれれば、それより嬉しいことはないですね。

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