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犬とカレーと大丈夫。

2月に愛犬が亡くなった。

その週末は、タイでカレーを習いたいという知人に付き添うためにバンコクに行く予定だった。コロナはまだ世界的に騒がれてなかったけれど、現地でレストランを営む友達が、日本からは来ない方がいいかも…と深刻に言うので従うことにした。

タイへの旅を諦めた途端、そのポッカリ空いた日に愛犬・ぶぅこは虹の向こうに旅立った。出かけてばかりいた私に、最後は一緒に過ごそうよ、なんて言ってるようなタイミングだった。全く予期せぬ突然の事だった。

ぶぅこは最初から最期まで不思議な子だった

出逢いは13年前の渋谷東急本店・屋上のペットショップ。とある出来事があって、気に入ってた東京の生活も美容師の仕事も全部捨てて実家に戻る事に決めたものの、両親以外誰も知る人の居ない愛知に帰るのは内心、心細かった。半ば勢いで小さなワンコを連れ帰って一緒に引っ越した。

(ぶぅ...と言う名前は、当時お世話してくれたペットショップのギャルの店員がブリトニー・スピアーズが好きで勝手に名付けてしまった。)

半年後、愛知県豊田市の実家に届いたぶぅこの血統書には愛知県豊田市生まれと書かれていた。偶然?迎えに来たみたい…。そんな風に思ったらなぜか、自分の選択が間違ってなかったように思える事ができた。

不思議犬ぶぅこと私の間では、ちょっとしたテレパシーが使えた。散歩行こう?と心の中で伝えるように念じると、ぶぅこは必ず急にウキウキしだす。そのくらいの事だが、いつもちょっとした見えないメッセージのやりとりが出来た。

旅立ちは私の腕の中を選んでくれた。
抱えた重さは砂時計のように下に下に沈んでいった。重いのに空っぽになってしまった。

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動物霊園で焼かれたお骨を、一つ一つ説明してくれた係のおじさんが、
このワンちゃんはとっても可愛がられていましたねぇ…
と言ってくれた。何も知らないのに何で?と聞くと、
お骨がこれだけ丈夫なワンちゃんは、とても栄養を考えたご飯を貰ってたと思いますよ。と。

その通りなの、
ぶぅこには、いつも美味しいフードを選んでいたし、コーヒー豆の曳いたばかりの香りやスパイスをいつもクンカクンカさせていた。

我が家の母が、どんなに忙しくても朝のお味噌汁には煮干しや昆布から出汁を取るような人だから、ぶぅこのご飯も大事にしようと決めていた。

キッチンに住む、大好きで大切な、私の13年を支えてくれた小さなお友達。クールなくせに飼い主に似た超絶食いしん坊。

まだぶぅこの気配が残るキッチンに居たくて、その日から毎日カレーを作った。

スパイスを香らせれば、いつもなら、
いつの間にか、横にぶぅこが居たのだけれど。

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その頃、m校長がSNSで沢山のカレーレシピをアップしていたから、それを一つ一つ作った。


中でも数日おきに更新されたビートルズカレーシリーズが良かった。一枚のアルバムを聴きながら一つのカレーを作り上げる。それは、音に急かされ、スパイスの香りにまみれ、必死に格闘するバトルゲームのような40分間。目の前の鍋の中に集中しないと、どんどん曲に置いていかれる。いつのまにか夢中になって、いつのまにか楽しくなっていた。ビートルズなんて、まともに聞いたことないのに。

全く同じ材料縛りの中、毎回違うアルバムに乗せて、毎回違う工程でチキンカレーのレシピを考える校長の変態さに気づいて、なんだかある時それがツボに入って笑えたとき

泣きながらご飯を食べる事が出来れば大丈夫

と、昔テレビのドラマで聞いた台詞を思い出した。大丈夫と思えた瞬間チカラがでた。

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ほどなくして
世界が次々とロックダウンをし、壁を作り始めた初夏のある朝、

スマホを開けば顔が思い浮かぶカレーの学校生の、あの人やこの人の自作のカレーがどんどんアップされた。

オンライン10,000人カレーの日だった。

世界が壁を作り始めたあの日、沢山の人がつながったように見えた。

楽しくカレーが作れたら大丈夫

今度はお空の食いしん坊が
そんな風に言ってる気がした。

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「香り」を現す単語 perfumeの語源は「〜を通って」を表すper- と、「煙」を表すfumumがくっついたものらしい。昔の人は良い香りのする煙を天に向かって燻らせて、神様に祈りや感謝を届けたそうだ。

スパイスを香らせてカレーを作りながら、ぶぅこの事を思うと、いなくてもそこにいるような気がしてくる。記憶がよみがえる。

カレーありがとう


何を書くか試行錯誤し、結果的にこの数週間ずっとぶぅこの事を心に想わせてくれたアドベントカレンダーの企画(=のーどみさん)よ、ありがとう


そして、何より
他とは一線を画するカレーの世界を教えてくれたカレーの学校、ありがとう

沢山のありがとうで今年も終わる。

最大級の悲しい事と、世界がひっくり返るような事が起きて、なんとまぁ大変な一年だったけど、それでも振り返ってみると感謝しかない。

いつだってそうだ

「今」起きる事は全て
神様からの「プレゼント」なのだ。

メリークリスマス!!

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宇宙の力 弱き僕らの手をとり
強くなれと教えてくれる
ちゃんと食べること眠ること

怪物を恐れず進むこと
いつか絶望と希望が一緒にある世界へ!

小沢健二「フクロウの声が聞こえる」

ありがとう。またね。

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