このたび10年ぶりに考えたこと

私には25歳くらいの頃、当時働いていた職場の人たちに、「今自分が大切にしているものは何か」と、「生きる上で大切なものは何か」を聞いて回っていた謎な時期があった。

今考えるとなぜそんな質問をして回っていたのか、それを聞いて一体どうするつもりだったのか、何か自分の生きる参考にしようとしていたのか?など理由が全く思い出せないのだが、当時私がその質問を投げかけた人たちはみんな、茶化すことなく真剣に答えてくれた。

そんな意味深な質問をしておいて、人々が何と答えてくれたのかは全然思い出せないという薄情な話だ。ただ、一つ一つの答えにそんなに差は無く、意外とみんな似てくるものなのだなと思った記憶はある。ひとりだけ、私より一つ年下の男の子が、生きるために大切にしているのは「精進、努力」と答えてくれたことだけを覚えている。おとなしくて優しい子だったが、そこから一年もしないうちに彼は辞めてしまった。

当時の私は思い込みが激しく周りが見えていなかったので、彼が仕事を辞めたことについて「ここでやっていけないならどこに行ったって無理じゃないですか?」と、同僚にこぼしてしまった。同僚は、間髪入れずに「そんなことはない。場所を変えればうまくいくことってあります。」と返し、私はそれに対して「ふん。」としか思わなかった。

今は思う。場所を変えれば、うまくいくことはある。

このテーマをきっかけにそんなことを思い出し、ふと考えた。あれから10年ほど経った今、生きていくうえで私が大切にしていることは何だろう。例えばそれを今、10も年下の25歳の子に聞かれたら何と答えるのだろう。

まず思い浮かんだのは健康だった。私はこの10年でずいぶん体を悪くしてしまった。どんなにお金があっても(ないけど)悪くなった体を元に戻すことは出来ないので、健康は本当に大事だと思う。けれど、それを意識的に大切にしているかといえばそうでもなく、ごはんはすぐコンビニを頼ってしまうし、ファーストフードもやめられないし、毎日ストレッチやラジオ体操、なんならヨガなどもやった方が良いのだろうが全然できていない。ぐうたらを極めている。体に申し訳ない。申し訳ございません。

人に対してもそうで、周りの人のことを大切に思ってはいるけれど、最低限のことしかできない。情けないくらいキャパが小さい。もめることもとにかく苦手なので、ここ10年くらいひたすら人ともめないように生きてきた。なので人ともめないということは得意な方だと思うけれど、大事にするというのはそういうことではないのでしょう。もめないようにするというのは、ぶつかることから逃げているということでもあったのだ。もめてももめなくても後悔が残るし心が疲れる。

そんな風に、この数日、自分が今大切にしていることについて考えていた。若い頃は、もっと何かで成功してバリバリやっているはずだと思っていた30代。何も成し遂げられず、ただ体だけ悪くした今の私が大切にしていることとしてぽーんと思い浮かんだことが、「何かを褒めるときに、別の何かを悪く言わないこと」だった。

確かにこれだけは、いつ何時でも絶対に守っていると言える。体のために禁酒しないといけないのに我慢できなくてお酒を飲み、医者に「飲んでません」と嘘はついても、何かを褒める時に比較で別の何かをおとしめない、という自分のなかでの決まりは絶対に守ってきたと断言できる。

私はいい歳して人の目が怖い。いつも、自分の行動に対して誰かが何か悪く思っているのではないだろうかと考えてしまう。怒られたくないし、人を怒ることもできればしたくない。今書いているこの文章も、いい子ぶったこと書いてるって思われるんじゃないかな。と思っている。

そういう風に感じてしまうのは結局、小学校高学年の頃なんかにクラスメイトとたくさん陰口をたたき合って、傷ついたり傷つけたりして嫌な気持ちになっていた記憶に起因しているのだろうか。いくつになっても、11歳の自分がずっと心の中にいるのだ。

そういうのって、みんなどうしているのだろう。私は今でも、人といっぱい話をした後なんかはその翌日まで、変なこと言わなかっただろうか、私の言ったことで人を傷つけてしまってないだろうかと悶々と考えてしまう。

もっと自分に自信をもって、そういうネガティブな部分を跳ね飛ばして生きていこうとしていた時期もあった。けれども、歳を取り、角が取れて丸くなった自分の中に、周囲を気にする部分はしっかり残っていた。

人の意見なんかに左右されず、何も気にせず自由に好きに生きていけたらいいのにといつも考えてしまう。けれど、この世の中で、人目を気にする気にしいな自分が自分を守ってくれて、だからこそ今の私はやっていけているという事実もあるのだった。

人に嫌われたくないし、失礼なことをして人を傷つけたくもない。だからと言って、納得のいかないことに泣き寝入りしろというようなことではなく、自分が生きやすくあるために、人を傷つけないということ。多分今私が大事にしていることはこれだ。

今回のこのテーマのおかげで、どん詰まりになっていた自分の人生がちょっとだけ見えた。

大きな夢を叶えるとか社会貢献をするとかでは全くないけれど、25歳の私はこの答えに満足してくれるだろうか。くれないだろうなあ。

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