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中職30年 台湾シリーズレビュー

 2016年上半期以来となる半期優勝で彭政閔のラストシーズンを飾った中信兄弟。対するは、上半期優勝、3年連続リーグ最高勝率のラミゴ・モンキーズ。最高の形で恰恰を送り出すため、2010年以来(当時は兄弟エレファンツ)となる總冠軍奪還を目指す兄弟と、ラミゴの名を背負って戦う最後のシリーズとなる桃猿、両チームの誇りを懸けた中職30周年の節目に相応しい名シリーズとなってくれるはずだ。

・先発投手

先発

 初戦は紐維拉と李茲という両チームのエース対決となることが発表された。兄弟としては、残る先発投手に不安を抱えるだけに意地でも初戦を取りたい。後期15先発中8試合で7イニング超と抜群の安定感を誇る紐維拉から、鉄壁の元NPBコンビに直接繋ぐ展開が理想だ。
 2戦目は、萊福力vs尼克斯という両チーム最多先発投手同士の対決が濃厚。
 洲際に移った3戦目以降、兄弟は左腕洋投の赫猛と若きエース候補廖乙忠が予想される。対するラミゴは本土最多勝の王溢正の先発は堅いが、4番目の先発については洪一中監督も決めかねている様子。左腕の多猛が最有力だが、シーズン中兄弟との対戦がないだけにどちらに転ぶか。
 兄弟は赫猛が桃園の過去2試合で1.2イニング5被弾と炎上しているのが懸念材料だ。桃園はいずれも慣れないリリーフ登板であり、本拠地洲際との相性も良い(2.92)ことを考えれば、数字ほど悲観する必要はないだろうが。
 シリーズを前に伯納は「紐維拉以外は全て白紙」とコメントしており、洪一中も勝負所と見るや一気に戦力を注ぎ込むスタイル。中3日でのエース投入や赫猛,多猛のロングリリーフ待機も考えられる。

・牛棚

リリーフ(兄弟)

 兄弟は絶対的守護神である李振昌(C.C.リー)の存在が最大の強み。シーズン後半26.1イニングで44奪三振,2四球,自責点2と中職最高の制圧力を誇り、ほとんどのイニングを3分弱で終わらせることから「泡麺計時器(カップラーメンタイマー)」、「泡麺殺手」の異名もついた。
 8局には同じくNPB経験者の鄭凱文がおり、奪三振率こそ高くないものの、抜群の安定感を誇る。7局のピンチで火消し⇒8局への回跨ぎもお手の物だ。

 問題は彼らに繋ぐまでの投手たち。
 ベテラン官大元は奪三振を期待できず、唯一の左投手である鄭佳彥も対左こそ.250と抑え込んでいるものの、与四球率は危険域に達している。速球派の江忠城は被弾の多さゆえにとても僅差では期待できない。2軍總冠軍賽で守護神として完璧な仕事を見せた蔡齊哲もラミゴ戦は通算25イニングで防御率13点超えの惨状。
 唯一期待したいのは弱冠二十歳の陳柏豪。制球・安定感ともにとても優れているとは言えないが、快速球を武器にラミゴ戦に限れば8K/9と成績良好。9月22日には、3者連発で沸き立つラミゴ打線を完全に封殺し、興奮の坩堝と化した桃園から流れを引き戻した。
 先発の早期降板時には、通常先発5番手の楊志龍と前述の蔡齊哲が控える。対ラミゴ戦、10試合無失点の王鴻程を守備と安定感を理由に外した判断がどう出るか…。

リリーフ(ラミゴ)

 ラミゴの陳禹勳も同じく鉄壁。シーズン序盤こそ別人のようなピッチングが続いたものの、後半戦は完璧に復調しており、兄弟戦では5月23日以降無失点を続けている。勝負どころでは外角へのフォークの連投が続くだけに、審判のコールも大きなポイントとなる。
 セットアップは下手投げの黃子鵬と、プレミア12にも選出された王躍霖の2人。他にも昨年66登板の吳丞哲、先代守護神の林柏佑が控えるなど、ネームバリューは兄弟の牛棚に勝る、しかし長中継待機の洪聖欽、翁瑋均含め、いずれの投手も今シーズンの兄弟戦では、派手に打ち込まれており、不安は大きい。
 そんな中でブレイクに期待したいのは、自身初となる大賽のメンバー入りを果たした張明翔。対左被打率.167の安定感を買われてのメンバー入り、台湾シリーズでも左殺しぶりを発揮できるか。
 セットアッパー陣の状態次第では、陳禹勳の2イニング超の投入や、エース李茲のリリーフ待機などスクランブル体制で臨むこととなるだろう。

 どちらのチームも絶対的な守護神を擁するだけに、いかにそこまで繋ぐかがポイントとなる。

・先発メンバー(兄弟)

スタメン(兄弟)


 兄弟はシーズン通り”特攻隊長”吳東融と”スピードスター”王威晨のコンビがテーブルセッターを務める。出塁はもちろんラミゴの捕手陣は盗塁阻止能力に不安がある(盗塁阻止率20.8%)だけに脚でも積極的に掻き回したい。
 塁上の彼らをチーム最強打者に成長した詹子賢、”大師兄”林智勝、若き大砲陳子豪らで返すのが基本攻撃パターン。下位打線の彭政閔、張志豪、王勝偉ら前回の總冠軍を知るベテラン達もシーズンの対ラミゴ戦では、非常に当たっており、どこからでも出塁/長打共に切れ目のない打線となっている。
 特に期待したいのが、捕手の高宇杰。シーズン最終戦の桃園ではプロ初本塁打、普段はコンタクト難で生かしきれない持ち前のパワーをラミゴ戦ではいかんなく発揮し、対ラミゴOPS1.070はチームトップ(40打席以上)だ。今後何度も経験するだろう台湾シリーズの大舞台、初陣からアピールできるか。

・ベンチプレイヤー(兄弟)

ベンチ(兄弟)


 勝負の分かれ目になりそうなのは、内外野守れる岳東華の存在。3割を超える打率に、ツボにはまれば特大弾のパワー、広い守備範囲を誇るだけにスタメンで使いたい存在だが、ユーティリティ性の高さゆえにベンチに置いておけば試合後半の手数に圧倒的な差が出る。監督の手腕が問われそうだ。
 代打の切り札兼DH要員として9月大爆発の周思齊とラミゴをお得意様にする蘇緯達、内外野の守備代走要員に潘志芳と林書逸が控える。一つ気になるのが、現状のスタメンでは、捕手以外の控えは全員左打者となる点。周思齊(蘇緯達)の調子次第では、彼らをDHに起用し、恰恰を右の切り札として温存したほうが、手数には幅が出るのではないだろうか。

・先発メンバー(ラミゴ)

スタメン(ラミゴ)


 2~5番に20発,OPS1.000クラスが続く超重量打線は驚異の一言。特に林立はホーム桃園、陳俊秀は後半戦のOPS1.200超と無類の強さを誇る。5番の朱育賢は、波は激しいものの6月には11全塁打を放つなど、ひとたびギアが入れば手が付けられない。シーズン中の兄弟戦では、見せ場の少なかった郭嚴文が掃討役として機能すれば、大量得点は堅いだろう。
 下位打線は打力では兄弟に劣るものの、ここでラッキーボーイとして期待のが、劉時豪。兄弟のエース紐維拉が、「ラミゴ打線で一番怖いバッター」と名前を挙げており、昨年の台湾大賽では1試合目に満塁弾を放つなど、素質も十分。今季はラミガールズのPVに特別ゲストで出演し、話題を攫ったが、秋は本業でも名前を轟かせたい。

・ベンチプレイヤー(ラミゴ)

ベンチ(ラミゴ)


 何といっても陳晨威の復活が大きい。8月末に右ひざに四球を受け、今季は絶望と目されていたが、この大一番で一軍に復帰。膝の状態次第ではあるが、中職最高峰のスピードは一点を争う展開では彼の存在が兄弟との最大の差になり得る。洪一中も勝負所での代走起用を示唆している。
 代打の切り札は、通算OPS1.003と兄弟戦に無類の強さを誇る陽耀勳。葉竹軒を外しての郭永維ベンチ入りは、終盤での一塁の守備固めを重視してのことだろう。全体的に兄弟より年齢層が高く、林智平,鍾承祐,詹智堯らLa new時代を知るベテランの働きにも期待したい。

・守備
 両チームの最大の差は、捕手の盗塁阻止能力。兄弟が3捕手で阻止率.44.2%を誇るのに対し、ラミゴは半分以下の20.8%。特にメインで起用されるだろう高宇杰は阻止率60%の高率で、目標として挙げるソフトバンク甲斐拓也を彷彿とさせる活躍を期待したい(もっともラミゴに脚攻が期待できる選手は多くないが)。
 内野は王威晨、林立とプレミア12のスタメンを争う二人の出来に注目。共に今季二桁失策と拙守なのは否めないが、終盤では進歩を実感するプレーも多々見受けられた。打撃だけでなく守備でもアピールできるか。
 リーグ史上最高守備率、特にセンターラインに抜群の安定感を誇る兄弟に対し、ラミゴはイージーミスの多い郭嚴文の二塁,本来なら一塁を守らせたい朱育賢の左外らに不安を抱える。

・まとめ
 戦力的には打力で勝るラミゴに対し、勝ちパターンと守備の堅実さの点で優位を持つ兄弟が対抗していく形か。シーズン中では兄弟の23勝17敗。特に先発投手が炎上も、その後相手リリーフを打ち崩しての逆転勝ちというパターンが目立ち、セットアッパーの鄭凱文はラミゴ戦だけで7勝を稼いだ。
 しかし勝負所を誤り肝心な試合で白星を逃すことの多かった伯納に対し、ラミゴは百戦錬磨の洪一中、短期決戦であることを考えればシーズンそのままの展開は考えづらい。どちらが勝っても今後長く語り継がれるシリーズとなることだけは間違いないだろう。

p.s.現地に行かれる方はPSとラミガールズのパフォーマンスを楽しむのもお忘れなく

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