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夏の夜空に願いを。~東京オリンピックの奇跡~

東京オリンピック、ノックアウトステージ第1戦、対アメリカ。
マウンド上にはアメリカ代表、ブランドン・ディクソン。
「そのとき」は一刻一刻と近づいてきていた。
打順が進むにつれ、「そのとき」が来るのか、来ないのか。ディクソンの好投に懐かしさと興奮を覚えながら、「そのとき」を待っている。

・・・そして。
打席に向かうのは、侍ジャパンの3番・吉田正尚。
そう、元チームメイト同士・・・いや、本来であれば今でもチームメイト同士だった、オリックスファンが望んでいた夢の対決。
国際大会にはあまり縁のなかったBs戦士たちがマウンド上とバッターボックスにいる。こんな夢のような時間が今まであっただろうか。

顔を真っ赤にして熱投を続けるディクソン、必死に食らいついていく正尚。
一球一球、目が離せない。お互いをリスペクトしているからこその真剣勝負。

結果はセカンドゴロ。オリックスファン待望の夢の直接対決は、ディクソンに軍配が上がった。
でも、この瞬間がたまらなくうれしかった。そして、恋しくて切なかった。

昨年9回のマウンドを任されていたディクソンは、今期は先発での起用が予定されていた。
今年順調にいけばFA権取得、すなわち来シーズン外国人枠を外れる。
今年もいつものように、京セラドームでその姿を見ることができる・・・はずだった。

それを打ち砕いたのがコロナ禍だった。
家族のビザが下りず、来日を断念。まさかの退団となった。
彼のいないオリックス・バファローズ。そんなの想像したことがなかった。
だからこそ、再びその姿を見ることができる東京オリンピックは私たちオリックスファンも心待ちにしていたのだ。(ちなみにメキシコ代表でメネセス選手(2019在籍)も出場している)

◇◆◇
ディクソンが退団する理由となった、家族の存在ー
外国人選手たちにとって、何よりも大切な存在。私たち日本人には完全にそれを理解することは難しいかもしれない。でも、彼らにとって「家族」という存在がどれだけ重要か、ということが今回の件を通して伝わってきた。西武球団が父の日の試合前に外国人選手へのメッセージビデオを流したが、家族、そしてチームメイトからの温かい言葉は何よりも彼らへの力になったであろう。

ディクソンの他にも楽天に入団予定だったコンリーも来日を断念。一度も日本のマウンドを踏むことなく退団している。また、その後も巨人のスモークが交流戦後に電撃退団、さらに衝撃を与えたのは西武のメヒア、オリックスのロメロといった長年貢献してきたチームを代表する助っ人たちが家族とともに居られないことを理由に日本を去っている。
家族へビザが発行されるめどは今のところ立っておらず、この動きはさらに加速する恐れもある。
また、隔離期間を経てのチーム合流となること、さらに特に今シーズンから加入した選手やビザを取り直した選手に関しては、そのビザ発行までにかなり時間がかかり、チーム合流も開幕から1か月以上経った5月以降という、厳しい戦いを強いられている。
そのせいもあり、今年は各球団で外国人選手が十分にチームに貢献できていない状況が目立つ。まさしく今は「助っ人外国人の危機」なのだ。

平和だからこそ、野球ができる。海外から多くの選手が日本の地を踏み、また、大谷翔平ら多くの日本人選手が海を渡る。それが今、崩れかけていることがとても寂しい。当たり前だと思っていたことが、当たり前でなくなっていく。
近い将来、NPBから外国人選手の名前がすべてスタメンから消えてしまうのではないか、という不安も頭によぎる。

それでもー

閉会式での正尚、由伸、ディクソンの3ショット。それは確かに、この3人の絆が存在していたということ。
オリックス・バファローズというチームで同じユニホームを着て、同じグラウンドでプレーしていたという事実。これは決して消えることはないし、私たちの記憶からも消えることはない。
その写真が載ったスポーツ紙記者のtwitterの投稿には「チームメイトとの記念撮影」と書かれていた。離れていても、ずっとチームメイトなんだ。ずっと仲間なんだ。
いつかまた・・・「その日」が来ることを願って。

そして、ディクソンとロメロのバトンを受け継ぐ二人の新外国人選手、スパークマン投手とラベロ選手がオリックスのユニホームに袖を通した。彼らも家族を母国において単身での来日となっているが、どうか、早い段階で家族と一緒に日本で活躍できる日が来るように、そして、ディクソンやロメロのように一年でも長くこのチームにいて、たくさんのファンに愛され、たくさんの思い出を作ってほしいと強く願っている。

ーその灯を、決して消してはならないのだ。

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