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Taskmaster Series 16

英国本放送から一日遅れでユーチューブに更新してくれたお陰で全エピソードほぼオンタイムで楽しめたシリーズ16だったが、大ハマリしたシリーズ15を見終わった直後の視聴だったせいで、暫くメイとカイエルとジェニーとアイヴォとフランキーが居ないタスクマスターが受け入れられず、しかもよりによって新メンバーが全員個性的と言えば聞こえは良いが、てんでバラバラにアクの強い強烈なキャラクターばかりで、中々その新しい荒波にのっていけなかったが、徐々にその珍妙さに慣れていくに連れ気づかぬ内にその面白さが癖になっていった。何せ奇妙奇天烈過ぎたせいで前シリーズみたいに顎が外れる位大笑いすると言うよりはじわじわ後から来るニヒルな笑いが多かった。

まず目に飛び込んできたタスクマスターハウスの黒基調の世紀転換期頃のドイツ芸術を彷彿とさせる内装に加えフリッツ・ラングのメトロポリスを思い起こさせるタスクマスターの肖像画が、前シリーズのポップでサイケでカラフルなそれとのギャップが凄く、視覚的に違和感がもの凄かったのだけど、公式ポッドキャストで歴史学者グレッグ•ジェナー氏がこの事について指摘していた説明で納得した。今見るとどこかノスタルジックな印象すらあるが、当時でもアナーキーとされ全面的に受け入れられた訳では無い歴史の中でも前代未聞の勢いで急速に社会変化する世紀転換期という時代背景の下生まれたドイツの表現主義の芸術傾向が、エキセントリック過ぎる出演者に最も調和していてシリーズの全体像を表すのに実にふさわしく仕上がっているのだ。その点において知ってか知らずか判らないけどデザインチームの目の付け所に恐ろしさすら感じた。

今シリーズの個性あふれる出演者の中でも奇怪さが際立っていたのはサムとルーシーだが、サムの奇怪さは綿密に計算され練り上げられた魑魅魍魎の世界なのに対し、ルーシーは意図的でなく常に天然なので、彼女の行動言動の99%は凡人のわしには意味不明だが、ピタリとハマると物凄い破壊力を発揮していてとりわけ素晴らしかった。
最初から最後まで番組冒頭のプライズタスクではルーシー以外の人には全く理解しがたい世界を延々と披露するルーシーだったのだが、最終回では、グレッグ(タスクマスター)が未だに理解に苦しむ面持ちだったのに対し、隣で話を聞いていたジュリアンはルーシーに優しく微笑みかけながら嬉しそうに聞いていて、そこにジュリアンの計り知れない許容性と深い愛情を感じた。

そんな奇怪極まりないサムとルーシーに冷静沈着と無関心の極みであるジュリアンがチームを組む事になったら、まあまあ常識を持ち合わせていると言って良いスーとスーザンの秒速で超仲良しキャピキャピ大親友チームの息ぴったり加減と比較するまでも無く、とんでもない事態が発生するのは一目瞭然で当初誰もが悲惨たる結果を予想していたのだろうが、意外にもカオスの中にあってきちんとチームワークが成立していたのが不思議だが、それはきっと珍獣を巧みに操るサーカス団の団長の様な存在であるジュリアンのおかげなのだと思う。

今回特筆しておきたい抱腹絶倒タスクが2つあって、そのどちらもチームタスク。
正確にはその内一つは「チームタスクで無くチーム一緒に一時にする個人タスク」になっていて、シークレットタスクをチームで一斉に各自バラバラになって個々に探しましょうと言うタスク。これは両公式ポッドキャストで、他のタスクをやっている合間に出演者各自見つけてくれて最終的に成立するシークレットタスクにしようとしたけど、撮影の終わり頃になっても誰も見つけてくれなかった為、この形でみんなで(でもあくまでバラバラで)探しましょうと言う事になった、と推測されていたが、しかし両公式ポッドキャストのどちらもこのタスクに関しては不評だったのがあまり腑に落ちないのだけど、私はこのタスクこそがシリーズ16を総決算したような各自の個性が光りチームのバランスが一目で見て取れる素晴らしいタスクだったと思う。物を探すのが苦手なルーシーが途中放棄し現実逃避してしまうのだけど、サムもジュリアンもタスクを終えた所で、ジュリアンが後はルーシーだけだね、と優しくサムと一緒にあくまでもさり気なくルーシーをシークレットタスクの方へと誘導する姿が特に良いのだ。

そしてお気に入り過ぎて何回も繰り返しみたい神タスクはこのシリーズの集大成と言っていいオオトリのタスクマスターホテルタスク。チームが従業員となり、アレックス•ホーン演じる Qrs Tuvwxyz 氏をおもてなしすると言うもの。
ここで鍵となるのがアレックスがタスクマスターアシスタントとしてではなくQrs Tuvwxyz 氏になりきっている事。
また、このQrs (クリス) 氏がモンスター客過ぎ、たまりかねたスーザンが「アレックスの方が良い!」と絶叫する様な無茶振りを連発するのがミソになっている。ホテルコンシェルジュにプロフェッショナリズムを求めるならスーとスーザンチームだが、怖いもの見たさに一度宿泊したいのは断然ジュリアン、ルーシーとサムのゲテモノチームの方!!! 客人の一挙手一投足を窓越しに眺める三人、Qrs (クリス) 氏 のベッドで添い寝しようとする三人、窓越しにスーツケースを放り込むとか、サムのオージー過ぎる電話対応とか、暖かいきゅうりサンドの注文に対しパンをトーストせず、パンにきゅうりを挟んだ状態で電子レンジにつっこむ (でも一応パンの耳を切り落とす配慮は怠っていなかった(ただし切り口はグチャグチャ)) とか最高すぎてモンスター客であるはずのQrs(クリス) 氏ですら大困惑、ポッドキャストで「招かざる客を追い払うアダムス・ファミリーの様だった」と言う指摘は的を得すぎているし、2チームとも「フォルティ•タワーズ(モンティ・パイソンのジョン•クリースが主人を務めるホテルが舞台の70年代のコメディ)の雰囲気があった」と言うのも物凄く頷けるのだが、そうなったのも出演者だけでなくアレックス演じるQrs (クリス) 氏の貢献が何より大きいと思う。特に愛すべきは放送でカットされるかどうかも判らないのに一人客室できゅうりサンドを一口食べ、怒ったように「牛乳が無い」と小言を言ってから文句の電話をかけている所。何気ない動作と台詞ではあるが、これぞスーザンの唯一の頼みの綱であるRADA出身も顔負けの、ケンブリッジフットライト出身アレックス・ホーンのコメディに対するプロフェッショナリズムの神髄と言えよう。

思い返せばタスクマスターホテルタスク以外にもスタジオタスクで瞬時に次々キャラクターに変身芸を披露していたし、清掃カート(?)で交通標識を全部守ってゴールを目指すタスク (これ、やってみたいけど、複雑過ぎて、かといってジュリアンの様に静かにぶちぎれルール無視でゴールに突っ切る事も出来ないし、私も絶対一生ゴール出来ない気がするので、スタッフにも八つ当たりし始めるサムの小言の応酬のぶち切れも痛いほど理解できる。アレックもあくまで押し通していた通り「機械」的にリズミカルに動いていた標識だったけど、実は裏側でスタッフの方が手動で動かしていた部分とかの手作り感も判って楽しかった。) 嫌味たっぷりの鬼教官っぷりも、考えたらアレックスと言うよりキャラクターを演じていた部分があり、これまでのシリーズで出演者を助けると言う形でタスクに参加することはあったものの、あくまでタスクマスターのアシスタントの立場であり、終始黒子に徹していたアレックスが、今シリーズで積極的に前面に出て来ていた。

後、今までのタスクマスターの中で登場していた物がそこここに溢れていたのも、あ、これあのタスクであの人が持ってきた奴だ!とか、これはあのシリーズでリビングの中に置いてあった奴だ!なんてもうシリーズも16まで来たタスクマスター史の懐かしトリビア的に楽しめる部分もあった。

始め「このシリーズ好きになれないかも知れない」と思ったシリーズでもほとんどの場合最終回近づくとお気に入りになっている事が多いタスクマスターだけど、このシリーズもその典型的だった。シリーズも16となれば普通マンネリ化が懸念される時期だが、今シリーズでタスクマスターに新境地が開けた感じもするので、次シリーズ以降のさらなる発展とますますの成長を大いに期待したい。

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