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最後の三択 #シロクマ文芸部

「最後の日、何がしたい?」
 と、出勤前によった駅前の立ち食い蕎麦屋でわたるが聞いてきた。
「最後の日? それって、今年最後の日のこと? 私たちが別れる前の最後の日のこと? それとも、地球最後の日のこと?」
 質問された未来みくは、返事をする代わりに航に三択の質問で返した。
「何だよそれ。今年最後の日はまだわかるけど、俺らが別れる前の最後の日って、未来は別れたいの?」
「どれを選ぶかによるかな」
 未来は蕎麦をすする箸を止め、真剣に考えている航の表情を見て思わず笑った。意外と真面目な人なのだと、改めて感じた。
「何だよ未来、真剣に考えているのに笑うなよ」
「航のことを笑ったわけじゃないわ。変な質問したなと思ったら可笑しくなっただけ」
 と言って未来は、蕎麦つゆで柔らかくなった野菜のかき揚げを箸でほぐし始めた。
「未来だったら、この三つの最後の日をどう過ごす?」
「今年最後の日は、仕事」
「そうでした」
 相槌をうった航も、残りの蕎麦つゆを飲み干した。
「俺たちが別れる前の最後の日は、どんな風になる?」
 未来は、ほぐし終わった野菜かき揚げが浮かぶ丼ぶりの中を覗き込んでいる。未来は丼ぶりを片手で持ち、トロトロになったかき揚げが絡まった蕎麦を口の中へ流し込んでいく。ずずとやや大きめな音をたてながら蕎麦を味わう。そして、空になった丼ぶりを置いて言った。
「同じ」
 丼ぶりの底を見て、その視線を航に向けた。
「同じ、か」
「違う?」
「違わない」
 航と未来は、お互いの意見を確認し終えると店を出た。

 航は職場に向かう前、もう一度未来に聞いた。
「地球最後の日は、何がしたい?」
 未来は振り返って微笑んだ。
「同じ」
「やっぱり」
「あ、ひとつ違うことがしたい」
「何?」
「明日の朝に」
「明日?」
 
「今日は最後の日だけど、何がしたい?」
 航は昨日と同じ質問を未来にした。
「今日は、野菜かき揚げに海老天をプラスしたい」
「いいよ」
 航と未来は、駅前の立ち食い蕎麦屋で朝早くから年越し蕎麦をすすった。

                                了


               


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