見出し画像

幕間が降りる時 #シロクマ文芸部


 夕焼けは太陽を追いやり、魔物を連れてくる。
私たちの見たくなかった本当の姿を垣間見てしまったようで、悲しくも心が痛かった。 
「ほんのちょっと、魔が差しただけさ」
 魔が差すなんて言葉、一体どこで仕込んできたの? でも、今のあなたにピッタリの言葉だわ。
 悪魔が心に入り込んで悪念で書き換えられた台本で毎日、私の前で好青年を演じていたのよね。私もあなたの前では清純派を気取っているけれど、それも、ずっと演じているのは疲れるわね。
 あなたの不実は、とっくにお見通しだったけれど、知らないそぶりをしてたのよ。まったく滑稽な芝居をしながらね。
 だけど、私はあなたよりずっと格上の名女優なの。どんなに汚くみじめな役を与えられようと、私は最後まで演じきる自信があるわ。

「何年かぶりにさ、学生時代の友人にバッタリ再会して、時間も忘れて昔話に花を咲かせていたんだよ」
 悪魔があなたに与えた噓のセリフ。
『夕焼けに染まる彼女のしなやかな女體じょたいに見とれちゃってさ。我を忘れて愛し合ってたんだ』
 真実の神が私にだけ教えてくれたあなたの本音のセリフ。
「君は、何をしてたの?」
「私? 私は、あなたが来るのをずっとずっと、夕焼けの空を見上げて待っていたわ」
 悪魔が私に与えた噓のセリフ。
『私もアンタと同じ。7歳も若い可愛い年下の男と3度もやって、3回とも天国へいったわ。これを魔が差したとは言わないわ。私はこのひとと寝るのを自分から望んだのだから。アンタはこの先の生活のためのつなぎに過ぎないのよ。ちっとも面白味のない奴のクセして粋がって。自分が本気マジでモテていると思ってんの?』
 これのセリフが、本当の魔が差したセリフ。

ゆっくりと夕闇が迫る

 夕焼けは、妖しい幕間の分厚いベールを運び込んでくる。

                           了




#シロクマ文芸部 #夕焼けは #小牧幸助さん #企画参加
小牧幸助さん、企画に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします


サポートしてほしいニャ! 無職で色無し状態だニャ~ン😭