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移り気な紫陽花 #シロクマ文芸部

 紫陽花を見ていた。
ただじっと、古い寺へ繋がる石垣に咲く紫陽花を見ていた君。時折、肩を震わせていた。そのまま通り過ぎようとしたけれど、声をかけずにはいられなかった。
「すみません。ご気分でも悪いのですか?」
 君からの返事がなかったので、僕はもう一度声をかけてみた。
「あの……」
「こんなところで立ち止まっていてお邪魔でしたよね、すみません」
 と言って振り返った君。頬にキラキラと小粒のダイヤモンドがついているのかと僕は思った。小粒のダイヤモンドは君の手の甲にも数粒散りばめられていた。僕が声をかけた時に君は、頬からブレスレットのように手首へ移そうとしていたんだね。
「いえ、そうではなくて、震えていらっしゃったので声をかけたまでで」
「ありがとうございます。具合が悪いわけではないので、ご心配なく」
「あ、それならよかった」
 僕は君に微笑んで、その場を立ち去ろうとした。
「石段、滑るので気を付けてくださいね」
「あの」
「はい?」
「なぜ、紫陽花は色を変えるのでしょうか?」
 君からいきなり突飛な質問をされて、僕はとまどった。
「それは、土壌が変わったからでしょうか」
 僕の答えに君は目を丸くした。
「土壌が変わったから、ですか?」
「たぶん」
 僕の曖昧な返事を聞いて君は、再び石垣の紫陽花へ顔を向けた。
「去年の紫陽花は、青かったんです。でも、今はピンク色へ変わろうとしています。別に住むところが変わったわけではないのに、変わってしまうんですね、紫陽花も」
 紫陽花を見つめる君と、君を見つめる僕の背後に楽しそうに会話しながらカップルが通り過ぎる。
「昨年は酸性の土壌だったから紫陽花は青だったんでしょうね。今年は半分青で、半分ピンクだから中性からアルカリ土壌へと変わりつつあるんでしょうね」
「土のせいで、紫陽花の花の色が変わってしまうんですか?」
「あ、これは紫陽花の花ではなくて、花はこのガクの奥にある……」
 僕が必死に説明している横で、君はクスクス笑っていた。
「紫陽花のこと、お詳しいんですね」
「ええ、まあ」
「でも、どうして酸性だった土が変わってしまうんです?」

ピンク色へ衣替えしようとしている青い紫陽花



 それは、酸性土壌で青一色の紫陽花だけではつまらないと、この石垣の先にある寺の住職が石灰をまいて土壌を変えている途中だったからだ。

 植物も人も、状況が変化すれば、色も心も変わっていくということなのかもしれない。

「あの」
「はい?」
「もっと、植物のこと教えていただけませんか?」
「はい、いいですよ!」
 僕の気持ちも、青色からピンク色へと変化していったようだ。

                             了
 



#シロクマ文芸部 #紫陽花を
紫陽花の花を描いていたら、参加したくなりました。
よろしくお願いいたします。


サポートしてほしいニャ! 無職で色無し状態だニャ~ン😭