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君のために書く #シロクマ文芸部

     本を書くことを何年も、何年も続けている。終わりの見えない物語りを綴っている。終わりが見えないのではなくて、終わらせたくないだけかもしれない。だから、本を書くことを止めてはいけない。本を書くことを止めたとき、思いもよらない事態が待ち受けているかもしれない。
 僕の本は何度も書き換えられ、装丁を新調され、新たな場所に並べられる。誰の目にもとめられることなく廃刊となるのか。どこかの変わり者が、小さな書店の奥に棚差しされている僕の本を手に取ってくれて、その変わり者の愛読書になるのか。はたまた、有名書店の入り口に平積みされて飛ぶように売れていくのか。そんなことはどうでもいい。ただ、自分の書きたい物を書きたいように、僕は、何年と本を書く。
   たとえ、その行為が苦痛を伴うことだとしても、書き続けなければならない。けれど、それが使命だとして、読まれもしない本を書き続けることにどんな意味があるというんだ。
    本は、手にとってもらい読んでもらわなければ意味がないのか。
    本は、読み手に、楽しさも悲しさも共有させるものであるべきなのか。
    本は、読み手に、満足感と高揚感を感じさせなければならないのか。
    本は、読み手に、孤独や絶望を与えすぎてはいけないのか。
    本は、読み手に、面白くてためになる内容でなけらばならないのか。
    
    君は、僕が本を書くことを止めろと言った。生命いのちが危ないと。君は君の好きな本を選べばいい。もう僕に関わらなくてすむように。
    だけど君は、ずっと僕のそばにいて、僕の本を書く様子を見つめ続けていてくれる。
 君は、僕の物語りを一番に聞いてくれる。そして、すぐに気持ちを伝えてくれる。
「どうしてなんだ?」
    僕は何度も君に聞いたね。その度に君はこう答えた。
「どうしてって、私は栗須さんの担当だから」
 「担当か、うれしいことを言ってくれるじゃないか」
「栗須さん、今さら何を言ってるんですか?」
「君は、僕を見捨てなかった、から」
「当たり前じゃないですか。栗須さんには大金がかかっているんですよ。大賞1000万をもらって、それでおしまいではありませんからね。デビューもできていないんですから、スタートラインにも立てていないってことですよ。だから、私は、栗須さんから離れることができないんです!」
 当たり前のことを、担当編集者の土居さんから改めて言われると心をえぐられる。
「栗須さん、私、栗須さんの担当者として取材や資料集めなど、精一杯協力しますので」
 そう言ったあと、土居さんはじっと僕の瞳を見つめ、言葉を続けた。
「そして、私に、栗須先生と呼ばせてください」
「す、すみません。力及ばすで」
「そんなこと言っている場合ですか?」
「はい。書きます」

 そうだ。
 だから、僕は、本を書くことを続けなければならい。
 たった一人でも、僕が綴る物語りを読んでくれる人がいる限り。
 
                            了



 今週も参加させていただきます。よろしくお願いいたします。
#シロクマ文芸部 #企画投稿 #本を書く


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