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朝焼けの中で、愛を掴む #青ブラ文学部

 今、貴方とひとつの毛布にくるまって、こうして東京の朝焼けを見ているなんて思いもしなかった。
 こんな日が訪れるなんて。
 東京タワーが見えるホテルの一室。朝焼けを見ようと貴方は毛布を剝ぎ取り窓際へいざなった。
 一糸纏わぬ私たちは窓際のへりに腰をかけ、唇を重ねる。
 ゆっくりと東の空が明らんでくる。太陽が作り出す橙黄色とうこうしょくの光りが、人工的なオレンジ色と重ねって、東京タワーの側面をねっとりと絡まっていく。
 ガーベラのような太陽からの光源が、貴方の鍛えられた胸筋を照らす。
私たちは、東京タワーに見守られながら何度も、何度も、愛し合った。
薄明りの中、愛し合う光景を見つめていたタワーは羞恥心を隠し切れないように熟しきった蜜柑のような色で、都会の真ん中で佇んでいた。

インターナショナルオレンジにイエローが加わる

「ハバナ支局行きが決まった。もう、戻っては来れないと思う」
 貴方がキューバのハバナ支局に特派員としていくことが決定した時点で、私たちは別れを予感した。
「君は、君の道を進んで欲しい」
「私も、貴方に負けないぐらいの海外特派員になるわ」 
 そう言って、ハドソン川を望むアパートメントでそれぞれの門出を祝った日から、何年がたったのかしら。

「シミが増えたと思わない?」
 私は離れ離れになっていた年月を恨むように貴方にたずねた。
「どこに? ここか?」
 と言って、貴方は私の鼠径部に唇をあてる。
「違うわ」
 私は貴方の潤った唇が触れるの感じると、一瞬で身体が火照り、熱くなった。
「それじゃ、ここかな」
 と言って貴方は、私の蜜壺へ唇を這わす。
「貴方は、全然わかっていない」
「きれいだ」
 もう、離さないで。このまま、ずっと一緒にいたい。でも、それはお互いを拘束すること。私は貴方を束縛したくない。自由に世界で羽ばたいていて欲しい。私もそれを望んでいる。世界各国で拘束され自由を失った人々を見てきた私たちだからこそ、人生ぐらいは責任から解放していきましょう。
 わかってはいても、身体も心も解き放たれることはない。

「ここに、たくさんのシミができちゃったから、ひとつひとつ消していかなくちゃ」
 私は貴方の厚い胸に手をやり、懇願した。
「ここで、明日も、明後日も一緒に朝焼けを見よう」
「無理しないで」
「東京に戻ることに決めた」
「私のために?」
 貴方は私をじっと見つめ、また、ゆっくりと私の唇に唇を落とした。
「特派員として、東京が一番面白いと思うからだ」

 東の空は、もうすっかりと青白く変色していた。
太陽もガーベラのような濃いめのオレンジ色の上着を脱ぎ棄て、ゴールデンクラッカーのようにまばゆい黄色のジャケットに着替え終わっていた。
 あれだけ恥じらっていた東京タワーの輝きも、私たちの愛を祝福し、これから迎える美しい日々を歓迎しているようだった。


                               了







 

#青ブラ文学部 #朝焼け
今週も参加させていただきます。
山根さん、よろしくお願いいたします。


サポートしてほしいニャ! 無職で色無し状態だニャ~ン😭