とび森シベリアのリア恋だった時の話

※シベリアに対する独占欲をお持ちの方は避けてください。人気キャラだと知らなかった11〜12歳の頃の話です。

私が小学校5年生のクリスマスだった。
3DSを買ってもらえることになり、ついでにソフトも選んでいいよ!と父が太っ腹を見せたので「とびだせどうぶつの森」をリクエストした。(もしここにサンタを信じている人がいたら「え?なんで父親?」と思うかもしれないが安心して欲しい。この世界にサンタはいる。しかし、うちはその年をいい子に過ごしても過ごさなくてもプレゼントは欲しいというワガママ姉妹の家庭だったため、父がサンタにこっちでなんとかすると断ったらしい。そのため我が家では基本的に5000円以下でプレゼントを選ぶことを要求されていた。この年に限って3DSと3DSソフトという超高額プレゼントを買って貰えたのは、父も3DSをしたかったからに他ない。)

話が逸れたが、大概飽き性の私にしてはとびだせどうぶつの森に大いにどハマりし、齢11にして私は初めてリア恋をした。お相手はオオカミのシベリアである。どう森はビジュアルと属性が結構チグハグなことが多いのだが、このシベリアとかいうスーパーウルトラハンサムオオカミはその男前な尊顔とオレオレな口調がベストマッチしていた。元来チャラっとした茶髪系が好きな私は、アニマル的可愛らしさとぶっきらぼうな粗雑さ、そして不器用な雰囲気にみるみる惹かれ、気が付けば村一番のシベリアガチ恋勢と化していた。
勿論村の誰よりもシベリアと仲がよかったし、毎日お話してあだ名で呼んでもらい、彼の部屋には私があげた「彼の趣味では無い」インテリアが飾られるようになっていた。一日話さない日があるだけで彼は寂しかったと私に泣きついた。正直立派な恋人関係である。そんな生活を何ヶ月も続けた。

私の小学校でもとびだせどうぶつの森は大流行であった。右も左もとび森ユーザーばかり。休み時間になれば自由帳にはそれぞれお気に入りのとび森キャラクターが描かれる。しかし私は決してそこにシベリアを持ち出さなかった。無難な5番手くらいに人気のキャラクターを一番好きということにして話に混ざった。もしうっかり私がシベリアを好きだと零して、うっかりその子がえー!見てたーい!なんて言って村に来てシベリアを自分の村に誘ったらどうする。そんなの耐えられない。だから、シベリア良さは私だけが知っているトップシークレットである必要があった。そのため通信の誘いをのらりくらりと躱しながら、まわりに同じようにシベリアに情熱を注いでいる輩がいないか探っていた。

そんな折、事件は起こった。
私は度重なる「脱いだ靴下を机の下に放置する罪」によって母から3DSを一週間弱没収されていた。勘のいいとび森ユーザーならもうお気づきだろうか。
どうぶつの森シリーズには「ひっこし」という制度がある。シベリアと出会えたのもそのお引越しのおかげだ。しかし、出会いには別れがある。住民はある程度村を堪能したら結構すぐ村を出ていこうとするのだ。先述したように通信先の村へ移住することもあるが、大概は旅に出るぜ的な軽率な心持ちで引越しをしてしまう。あの頃のとびだせどうぶつの森において、引越しを止める方法はただひとつ。「住民が引越ししたいな〜と考えている時に話しかけ、ここにいてよ!と引き留める」である。引き留めた住民は「オメェがそう言うなら……」とか言って照れながら住み続け、引き留めなかった住民は翌日部屋をダンボール塗れにして引越し準備を行い翌々日には綺麗さっぱりいなくなる。
そう。そうなんです。
没収が解除され、久しぶりに村を訪れた私は真っ先にシベリアに会いに彼の家へ訪れ、崩れ落ちた。

ダンボールだらけやないか〜〜〜〜〜〜

人生で初めて耳鳴りが鳴った瞬間だった。
全身から力が抜けて世界がホワイトアウトした。
誇張でなくベッドで横転をカマした。
現実を受け止められずカランカランと彼の家を飛び出て、もう一度入り……そしてやはりダンボールだらけの彼の家を見て、思わず電源をブチ切ったのだった。現実は無情だ。

一旦悲しみ後悔しきった私はそこから、彼に対して行えるすべてのコマンドを行った。持ち得るリアクションのすべてを彼に投げつけ彼の表情をひとつ残らずスクリーンショットした。周りをぐるぐる回ったり、現実世界から泣きながら感謝の言葉を伝えたり、ありとあらゆる角度から彼の姿を見納めた。そして、私は決めたのだ。
今日、この日、彼がこの村を出る前に、彼が居なくなってしまう前に、彼が私ではない村長の村に行く前に、「この村を初期化しよう」と。
分かりますか。要は「貴方を殺して私も死ぬ!」と考えは同じである。
そして日付が変わる少し前、私は最後のお別れのシベリアに告げた。

今までありがとう。この村にシベリアがきてくれたおかけで、私は毎日がとても豊かだった。朝起きるのが楽しくなった。シベリアも私と同じくらい、幸せだったかな………………

……………………(初期化)


かくして、私は「私とシベリアが存在する村」を「永遠」にしたのであった。
そこから6年ほどだろうか。コロナ禍の私はSwitchであつまれどうぶつの森を始めた。シベリアに会いたい。言わば、とびだせどうぶつの森でのあの日々は前世みたいなものだ。この世界の彼が私を覚えていなくても構わない。あの頃の私と貴方の思い出は私が覚えている。全部全部覚えている。会いたい、どうか一目見たい。
そう思って毎日毎日コツコツとマイルを貯めて離島へ赴いた。課金はしなかった。会えると信じていた。
そして遂に、私はシベリアと再開したのだ。彼は岩の上をぽちぽち歩いていた。
しかし、結果的に言うと私はシベリアに話しかけることも出来ずに帰ってきてしまった。ぼんやりと彼が歩いている様子をじっくり眺めて眺めて眺めて、空の色が変化した頃、帰島した。
恐れたのだ。前世とび森で築きあげた過去の私とあのシベリアの親密さを超えられる自信が無かった。私はもう大人になってしまっていた。「シベリアが好きだ」とおおっぴらに言えるようになってしまっていた。なんなら相手に「オメェ」とかいうのはどうなんだ?と思うようになってしまっていた。「かっこいい」より「優しい」にときめく女へと成長してしまっていた。恋はタイミング。シベリアとの思い出は思い出として大切に大切に仕舞っておくのがいい。そう決めて島へ帰ったのだった。
あれから、離島へは行っていない。

どこかで幸せに!シベリア!

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