おいさんのはなし

かと言って、3年も帰ってこない奴がおるか?と私は思った。
否、おいさん相手に「おまえ」「奴」なんてことはもちろん口が裂けても親を殺されても言えないだろうが、確かに思った。
1年ポテトを揚げ、1年は厨房を任されたらしい。そういう昔の映画みたいな修行をやり遂げた。本当に必要な修行だったのだろうか?もちろんそういう理屈では無いことも分かってはいるが。

そしてこの1年でお店を立ち上げ、瞬く間に流行ったそうだ。元経営者のやることは、そんなもんかもしれないが、おいさんは超人に限りなく近いおいさんである。
「招待してくれてもよかったのに」
「アンタはパスポート持ってないだろう。」
おいさんに会えるならパスポートくらい作ったかもしれないが、その事は言わなかった。
「今度日本にも店をかまえるから、今回はその為に帰国したんだ。」
「へ」
間の抜けた声で私は返事をした。
「へぇ〜」
「日本で流行ったらアンタの国にもお店を出そうかしらと思っておりますよ。安心して。」
別に安心とかしねーから!なんて、これも口が裂けても言えない、家が燃えても言えないだろう。

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