ショート・ショート 失恋墓地
久しぶりに覗いた、心の風景に広がる草原、そこに広がる失恋墓地。
長きにわたる人生で、数々の失恋を葬ってきた原野。
累々と並ぶ墓標、土山になっている無縁墓地。
振り返りたくない失恋は、火葬、鳥葬、水葬としたので、残っているのは「ほっこり」するエピソードを彩っている墓標だけである。
いつの日にか、その辛くも甘美な思い出に浸るために、原野の道しるべとして残してきた。
見渡すと原風景の中に、ひと際色彩を放っている墓標を見つけた。
クロノジカルに、墓標を辿ってみると、20代のころのあの彼女だとすぐに分かった。
清楚・可憐・優雅・気品・スタイル抜群・頭脳明晰、その言葉が陳腐に聞こえてしまう位の美女だった。
告白と同時に、ハートブレイク。
でも、深手を負わずに済んだのが幸いだった。
その失恋墓地の片隅に、不思議な看板を見つけた。
そこには「ペットセメタリー」と書かれていた。
あのスティーブンキングの映画のシーンだつた。
禁断のペットセメタリーへ、この思い出を持っていけば、ひょっとして、あの人が蘇るのか。?
迷いはなかった。
もし、凶暴な性格に変わっていたとしても、あの美しい姿を一瞥できれば、それだけで幸せな気分に浸れるのだ。
墓標を倒して、失恋を安置した棺桶を開けてハート型の思い出を取り出した。
ペットセメタリーに埋めてみる。
ドキドキと早鐘を打つ心臓を抑えつつ、彼女が蘇って来るのを待つ。
なんて声を掛けようか。
すると、霧の向こうから薄っすらと人影が見えた。
こちらへ向かってくる。
霧を抜けると、その体全体が目に飛び込んだ。
✖※▽▲?(*_*;
思わず聞いた。
「アキコちゃん・・・だよね。」
「ああ、そうだ。それがどうした。」とガラガラ声でぶっきらぼうに答える女性らしい躯体。
どう見ても、60過ぎの巨漢を持て余している、いわゆる、世間一般でいうところの「おばはん」だった。
おばはんは続けた「あんた、だれ、見たことあるような、ないような。」
止まりかけた心臓を抑えながら、思考を整理した。
これは何かの間違いだ。絶対こんなはずはない。
だって、あのマドンナと、全然違う。
あたふたしながら、ペットセメタリーの看板の横にある小さな注意書きに目が行った。
「このセメタリーで復活した思い出は、2023年の現世の人が蘇ります。ショックを受けても、知らんぞ。」
最初に、見るべきだった。
あのマドンナが、この この このような哀れな姿に・・・
正に、百年の恋も冷めてしまった。
気を失った。
目を覚ますと、原風景の草原で寝ていた自分に気が付いた。
あの、おばはんももういない。
見渡す風景には、相変わらず墓標がいくつも立っていた。
ため息をつきながらも、自分に誓った。
思い出は、何時までも心に閉まっておこう。
よろよろと、原野を歩きだした。
失恋墓地の墓標を横目で見ながら、ボチボチ帰ろうか
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