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「プレイヤーからマネジャーへの転換」vol.2

2019/01/08 野元義久

企業における最も古典的な断絶であり、ダイバーシティ対応への鍵ともなる、
「”優秀な個人プレイヤー”から”チームを率いるマネジャー”への転換」をテーマに連載しています。
月刊人事マネジメント(株式会社ビジネスパブリッシング)

vol.2 ◆◆「〇〇する人」から「〇〇してもらう人」へのステップ◆◆

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前号で、“優秀なプレイヤー”から“チームを率いるマネジャー”へと上手く転換していくには準備期間が必要だと書きました。今号からは、転換の準備期間にお勧めすることを一つずつ紹介します。
まずは、マネジャーとしての新たな仕事を足す前に、これまでのプレイヤーの仕事を引くという準備です。満杯のコップに、さらに水を注いでも溢れてしまう・・。それは溢れた水が勿体ないだけでなく、受け止められなかったコップ側も注いだポット側も実際には“人”なので、互いに心理的なダメージが残ります。「自分には出来ない」「あの人もダメだ」を上書きし続けるのはやめましょう。

まずはマネジメントの視界に立ってみる

クーンツとオドンネルらによる「マネジメントの定義」の引用を再掲します。
「Getting things done through others(他者を通じて物事を成し遂げなければならない)」

プレイヤーからマネジャーになると“ゲームのルール”が変わります。明らかなことは、インプット(活かせる資源)とアウトプット(期待される成果目標)が変わるということです。
活かせる資源は、“自分の時間と能力”から“他者(メンバー)の時間と能力”へと変わります。つまり、“メンバーという資源を活かすために、限られた自分の時間をどう使うか”を考えることになります。
また、その分の期待される成果目標は大きくなります。当然、一人一人の現在のポテンシャルの足し算ではなく、メンバーの成長とメンバー間の相乗効果をプラスに織り込んだ未来値がマネジャーの目標です。よって“いかにメンバーの成長を実現するか”と“メンバー間のシナジーをどうデザインするか、どのように交わらせるか”を考えることになります。
ここまでは、少しの時間を取れば想定思考が可能です。想定したうえで、現在の直属や隣の上司の行動・言動「何のために、何をしているか・何を言ってるか」を観察して、マネジャーとしての行動のヒントを集めましょう。

自分に期待されているマネジャー像を理解する

上述はどの組織・会社でも該当します。しかし、事業特性や企業規模、競争環境、メンバーの習熟度などによって、望まれるマネジャー像は違ってきます。これが各社の人事制度で定められている役職の要件に記載されているはずです。
ただ、残念ながら、役職や職級などの要件定義や評価項目を理解していない人がたくさんいるようです。入社時に一気に説明を受けたままで、以降、人事制度が書かれた資料を見ていないという人も多い。確かに「読んでも、抽象的な言葉が並んでいて具体的なことがイメージできない」「細かすぎて覚えられない・・」という声も聞きますが、これからメンバーを評価する立場になることも踏まえて、この機会に、資料を読み会社からの期待を理解しておきましょう。
同時に、さらに上の役職者の要件を把握すると、マネジャーとして“上位職には何をリクエスト出来るのか“”上位職からどんな支援を受けられるのか“が考えられます。
プレイヤーとマネジャーに期待されている内容は大きく違うはずです。ゲームのルールが変わる時、その違いを言語化しようとしている人事制度はマネジャーとしての判断・行動の拠り所になるはずです。

成長に必要な経験を意図的に選ぶ

松尾睦氏「成長する管理職」から引用します。
マネジャーは、「連携、変革、育成の経験が成長を促進する」と書かれています。部署をまたいだ連携の経験、新たな挑戦を仕掛ける変革の経験、難しい部下を育成する経験、が成長に寄与します。
面白いのは、これらをマネジャーになる前に経験しておくことが勧められていることです。たとえ上手くいかなかったとしても、若いうちに近しいことをやったことがある人は、恐れないで次に挑戦しやすく、周囲も任せてみたくなるということです。
プレイヤーとしての今の仕事に、3つの経験を交えてみる。たとえば、同じテーマを一人で完遂するのではなく、他部署や後輩を巻き込んでみることは出来るかもしれません。足すというよりは、置き換えてみるということです。選べるのなら、成長に寄与しやすい経験を選択してみましょう。
余談ですが、私は新卒で入った会社は“マネジャーになるまで辞めない”ことを強く勧めています。私が起業までに7つの会社を経験しているからか、出会う若手の方々から「転職に適切なタイミングは?」と訊かれることがあります。その時は、プレイヤー時代の経験知を活かしやすく、その経験を周囲にも認められて次の挑戦に声がかかりやすくなるので、ゲームのルールが変わるとことまでは同じ会社で活躍した方がいいとお話ししています。

引くために、仕分ける

最後に仕事の引き算の仕方を紹介します。
自分の仕事を棚卸しして、出来るだけ分解し、仕分けるというプロセスです。

【1】 今の仕事を棚卸して分解する。まずは粗くてもよいので、スケジューラーの入力項目を書き出します。書き出すだけで、何にどれほどの時間を使っているか、それは本当にやるべきことか、自分がしなければいけないか、を考えるきっかけになります。

【2】 次に、 「自分がする(し続けなければならない)仕事 / 後輩にしてもらう仕事」 に仕分ける。時間感も含めて考えます。現在、マネジャー就任直後、3ヶ月、・・と、成長期待に照らして後輩にしてもらう仕事を増やす方向で進めましょう。

【3】 後輩にしてもらう仕事を、 「指示して、してもらう(従ってもらう)仕事 / 支援して、してもらう(考えてしてもらう)仕事」 に仕分ける。これは後輩の習熟度にもよりますので、相手を想定する必要があります。

【4】 そして、3.をどのような基準で仕分けたのかを明らかにする。これがあなたのマネジメント方針の基盤です。たとえば私の場合は「期限が迫っているのか / 猶予があるのか」「判断に必要な情報の量・質を自分が十分に持っているのか / そうでない(他者の方が持っているのか)」「相手の習熟度が高いのか / そうでないのか」を基準に置いています。

【5】 4.を基に仕分け、移行計画を考える。今すぐには後輩に仕事を渡す権限がないかもしれませんが、想定しておくことで、いざというときに“何を引くか”に迷わず進めます。また、メンバーに仕分けの判断軸を共有することで、行き違いや混乱、ムダをなくすことが出来ます。「任せてくれる」と「丸投げされる」は表裏です。この仕分けの基準があいまいだと、不信を生みます。

少し時間が取れれば、今すぐに自分一人でも出来ることを紹介しました。
今から出来ることは試しましょう。マネジャーになる前の準備運動です。

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