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高校 2 (世紀の対決)

昼休み、ひかると学生食堂の裏で休憩していたら、

「番長おはなしが・・・」

一個下の中林が立っていました。

「あぁ中林かぁ、何だよ相談て・・・」

私が返事すると私の前を関取がやる様に手の平を縦にして、ゴメンなすってという感じで前に出てひかるに話しかけました。

「南北の野郎をちょっと〆たいと思い、番長さんに話を通しとこうと思いまして」

「えー南北・・・ひかるあいつ嫌い、やっちゃえー」

「早速に受けて頂きありがとうございます、放課後裏の雑木林で決行しますので、立ち合いお願いします」

そうなんです、ひかるは私を追い掛け回す南北の事が大嫌いです。

そもそも何故に南北が私を追い掛け回すのかは一年の時の沼田の所為です。

沼田が(ひろしが番長・番長)と騒いだから、それを信じた南北はそれ以来私に取り入ろうとして必死に近寄ってきます。

ひかるはその近寄ってくるのが気に入らないのです。

「どうして僕に・・・」ひかるが聞く。

「修学旅行の時にひろし先輩がひかる先輩にタイマン挑んで負けたともっぱらの噂です」

「うんうん成る程―」ッとひかるはまんざらでもない様な感じです。

あれはタイマンでは無いです、200対1の戦いにひかるは完全勝利していました。




廊下を歩いていると南北が近付いてきました。

「ひかる、ちょっとどけよ」
こいつのこう云う所も嫌われる所です。

修学旅行以来ひかるが神の領域に達しているのは学年中に広まっています。

さっきの話だと後輩たちにも伝わっている様ですが、友達のいない南北にはその微妙な空気の変化を感じ取れる分けが有りせん。

友達が一人でもいれば注意もするでしょうがこいつには一人もいません。

私に取り入って№2の立場を確保すれば、学校は自分の思い通りに為ると云う妄想がこいつを突き動かしているのです。

割り込まれたひかるは、反対側に回り又私の隣に来ました。

「ねぇーひろし、さっき中林君が・・・」ッとひかるが話を振りますが、

「一コ下の中林だけど、ちょっと〆ようかと思っているんだぁ」

南北に先を越されて仕舞いました。

話を遮られた、ひかるはもうカンカンに怒っています。

ひかるが何を言おうとしていたのか分かります、

(中林君が〆様としてるの、こいつでしょ)ッと言おうとしていたのは火を見るよりも明らかです。

今もそのチャンスを虎視眈々と狙っています。

「ひろし、その中林にこんな物渡されて・・・」

「プレゼントかぁ、よかったなぁ」

「違うよ、これだよこれ」

「何プレゼントされたか知らないけど、俺には関係ぇーねえよ」

「プレゼントじゃ無いよ、これだよこれ、決闘状」

「知らなぇーッて言ってんだろ」

「冷テェ―な、俺とお前の中じゃねぇーか」

「どんな中なんだぁ」

すかさず、ひかるが(無関係の中)とチャチャを入れる。

「うせぇーなぁーひかる」

もう完全にひかるを敵に回しました。

ここで堪忍袋の切れたひかるが一気に捲し立てます。

「煩いのはお前だよ、ひろしに何をさせ様としているの」

「ちょッと助太刀ぉ頼もうかと・・・」

「助太刀?卑怯者が、中林君は立会人をしてくれと頼みに来たのに、
年上のお前は助太刀。断る、なッ、ひろし」

「そお言う事だ、消えろ」



放課後、学校の裏手の雑木林に4人の姿が有った。

「先輩舐めてんじゃねぇぞぉー、詫び入れんなら今からでも考えてやるぞ」

「入れない」

「よく考えろ、先輩に盾ついて、上手く行く訳無ねぇだろう」

「知らねぇー」

「謝るなら考えてやるぞぉ」

「謝らねぇ」

「南北、諦めろ、今更口喧嘩しても仕方無いんだよ、南北が謝るんだったら立会人の付き添いの俺が口を訊いて遣るけど・・」

まだ南北は先輩にとか、愚だ愚だ抜かしている。

それは決闘状を貰う前の話だし、嫌なら先生の所へ逃げ込みゃぁ済む事です。

「お前は受けたんだから、今更ごちゃごちゃ言うな、早く殴り合え」

南北は口喧嘩で済まそうとしている様です。

「今から南北と中林の決闘をする、始め。」

何か柔道の試合みたいだけど、私も決闘の立会人の付き添いは始めての経験なのでどうして良いか解らない。

ひかるだけが顔を赤くして怒っている。

俺と中林は冷静で、南北が顔面蒼白で一人でまくし立てている。

2人が対峙して近付いた、バシッ中林のパンチが南の顔面にヒット。

ひかるが(よしッ)と声を上げるから腰で少し押して注意すると

「あッごめん、立会人だね」と素直に反省する。

私も心の中では中林を応援しているが態度には出さない。

南北は明らかにその一発でビビって、
(この野郎とか舐めてんじゃねぇぞ)とか
《掛かって来い》とか言ってますが、明らかに逃げ腰です、

中林の攻撃は的確に決まっていますが、相手が逃げるので倒すまではいきません。

否、逃げ回っています、なんか鬼ごっこをしているみたいに段々遠くに行きます。

私も堪らず(中林殴るのは後だ、とにかく捕まえろっ)と言いました。

時々(この野郎・てめぇー)ッと声が聞こえてきますが、もう今は姿も見えません。

「ねぇー、ひろし、僕つまんない」

「俺だって退屈だよ」

「帰ろうかぁ」

「ひかる、それは不味いと思うよ、立会人だろ」

「決闘ッてこんなに姿が見えなく為るもんなの?」

「知らない、喧嘩とはちがうのかなぁー」

「探しに行こ」

「うん」

ようやく林の向こうのゴルフの練習所近くまで行っている二人を捕まえてきました。

二人を連れて帰ってきたら、ひかるが体育倉庫からライン引きを取ってきました。

ライン引きで起用に土俵より少し大きな円を描きました。

南北は鼻血を流しながら(おおぅ)とか(うおぉ)とか半泣きで唸っていますが、

中林はゼィゼィと呼吸をしているだけです。

ひかるがこの円から出たらダメです

出た方は負けと為ります、勝手にルールを作っています。

見えなく為ったのが、余程面白く無かったのでしょう。

再開ですが又も同じでくるくると南北が逃げ回るだけです。

中林が止まりました。私たちの方を見て

「先輩・・・もう止めます」

「うん、俺もその方がいいと思う」

中林が歩いてこちらに近付いて来たその時に南北が背後から殴り掛りました。

私が(中林、後ッ)と言うと、中林は振り向きざまに回し蹴りをすると、
バシッと側頭部に決まり南北がドサッと倒れました。

「やったぁー」

ひかるが叫び、私が(それまでぇ)ッと終わりを告げると、

「引き分けだなッ」

倒された南北が言いました。

私達は目を見張りましたが、その眼が蔑みの眼に変わるのに時間はいりませんでした。
(もうどうでもいいッす)

中林は無傷で1度も攻撃はされて無いみたいです。

南北の方はぼろぼろで鼻血と顔の腫れと脚も引き摺っている、結構やられています。
ひかるが南北の前に立って、

「南北、負けたんだからライン引き片付けといてね」 

鬼ごっこで負けた方に罰を与える感じで伝えると、コクリと南が頷きました。

ひかるが人を呼び捨てにするのは初めてですし、勝敗を決めて仕舞いました

座り込んで泣いている南北をその場に残して、

何か疲れ切って負けた様な中林と、一体今日の決闘は何だったか訳の解らない私と、一人元気なひかると、3人で並んで帰りました・・・。

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