控訴趣意書③(法令適用の誤り)

控訴趣意書③(法令適用(法令解釈)の誤り)

令和6年6月19日

大阪高等裁判所第〇刑事部 御中

弁護人 中道一政

第1 原判決が示した法令解釈

 原判決は「好意を抱いた相手が実は金銭目的で近付いてきた者であったことが判明したことにより生じる恨みも、それは、そのような者ではないという認識を前提として相手に抱いていた好意の感情が裏切られたと感じたことにより生ずる恨みであるから」ストーカー規制法第2条第1項にいう「恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情」と言うべきものであるとした。

第2 原判決が示した法令解釈が誤っていること

 好意を抱いた相手が実は金銭目的で近付いてきた者であったことが判明した場合、好意を抱いた者において相手が金銭目的で近付いてきたという事実を受け入れたにもかかわらず、後日になって、相手が金銭目的で近付いてきた事実以外の要因によって恋愛感情その他の好意の感情が満たされないと感じるようになり、その結果、怨恨の感情を持つようになったような場合には、その怨恨の感情が恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対するものであったと認定される余地はあると言える。

 しかし、好意を抱いた相手が実は金銭目的で近付いてきた者であったことが判明したものの、好意を抱いた者がその事実を受け入れていなかったのであれば、金銭目的で近付いてきた相手には、刑法上の詐欺罪や、民法上の不法行為が適用される可能性も生じる。このような事案における怨恨の感情を恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対するものと認定してしまうと、恋愛感情その他の好意の感情を金銭目的で利用することが法的に保護されるという、誤ったメッセージを社会に示すことになってしまう。

 ストーカー規制法の立法過程である第147回国会、参議院地方行政・警察委員会においては、つきまとい等の実態について、交際を求めたり、離婚後に復縁を迫るために行われている例が多く、これらの場合には、その相手方に対する暴行、脅迫、ひいては殺人等の犯罪に発展するおそれが強い、と指摘されていた。しかし、同委員会において、相手が金銭目的で近付いてきた者であって、相手に対して刑法上の詐欺罪や、民法上の不法行為が適用される可能性があるような場合のことは全く議論されていなかった。このように、立法過程においても、恋愛感情その他の好意の感情を金銭目的で利用することを法的に保護するかのようなメッセージを社会に示すことにつながるようなストーカー規制法の適用は想定されていなかったものである。

 以上のことから、「好意を抱いた相手が実は金銭目的で近付いてきた者であったことが判明したことにより生じる恨みも、それは、そのような者ではないという認識を前提として相手に抱いていた好意の感情が裏切られたと感じたことにより生ずる恨みであるから」ストーカー規制法第2条第1項にいう「恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情」と言うべきものであるとした原判決における法令解釈は誤っている。

第3 法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであること

 原判決は法令解釈を誤り、その結果、本件にストーカー規制法を誤って適用したものであるところ、法令解釈の誤りがなければ本件にストーカー規制法を適用できなかったことは明らかであるから、原判決による法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである(刑事訴訟法第380条)。

以上

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