ひかり

小説を書いていきます。

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記事一覧

「食堂み」の女たち 最終話

調理場の裏口から「ただいま帰りました」きれいな声が聞こえてきた。「やっと帰ってきたわ。ミナとパソコン代わって。早う来て」響子は調理場に向かって叫んだ。「すぐ行き…

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1か月前
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「食堂み」の女たち27

あれから十五年。2020年開催のオリンピックが東京に決まったというニュースを響子が耳にしたのは「民宿 宮下」だった。響子は老夫婦に代わって民宿を切り盛りしている。「…

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1か月前
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「食堂み」の女たち26

全てを響子に話した。響子ならきっと分かってくれる。「ほおか…光恵さんも苦しかったな。黙ってたもんな。けど安心しいや。光恵さんの苦しみをちょっと背負ったるからな」…

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2か月前
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「食堂み」の女たち25

マスクを外したその女は、とても美しかった。口の横のホクロ二つが色っぽい。「夫が襲いかかってきたところを押してしまったら、机の角で後頭部を打って…それで動かなくな…

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2か月前
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「食堂み」の女たち24

光恵は夫からの暴力に耐えられず、小さな俊一を抱きかかえて逃げた。しかし逃げても逃げても見つけられ、引き戻され「もう二度と叩いたり蹴ったりはせえへん」と謝るのだが…

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2か月前
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「食堂み」の女たち23

浅井則子、本名、二宮祥子が帽子とマスクを付けてやって来たのは、まだ誰も二階の部屋を使っていなかった去年の十二月…今日みたいに雪の降る寒い夜だった。 「すみません…

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2か月前
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「食堂み」の女たち22

この日は響子の一人負けで、もうやめた!と千八百円を財布から支払った。安い賭けだ。眠そうに目を擦っている俊一を見た美奈が「今日はうちの部屋で寝かせるわ」響子に目配…

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2か月前
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「食堂み」の女たち21

「あっ!」俊一がテレビの画面を指さした。 みんなが一斉に見入る。二宮祥子という女性の顔写真が画面に大きく映っている。 「あの顔…」言ったのは美奈だった。 映ってい…

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2か月前
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「食堂み」の女たち20

十二月三十一日、めずらしく雪が降り、大晦日の街を白く染めた。 「食堂み」で年越しそばを食べた後、光恵、響子、美奈、俊一はマージャンに興じていた。今のままところ俊…

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2か月前
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「食堂み」の女たち19

光恵は響子の両親に、今娘は何をしているかと聞かれたので「民宿 宮下」の名前を出した。「民宿 宮下」は老夫婦が細々と商っている家族経営の宿で、ごくわずかな客しかと…

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2か月前
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「食堂み」の女たち18

光恵は響子の実家を聞いて、度肝を抜かれた。父親はいくつものホテルを経営する「ホテル 富岡」の社長。「ホテル 富岡」は誰もが知っているホテルで、何度かテレビで見た…

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3か月前
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「食堂み」の女たち17

「まあ立っているのもなんなんで、座ってください」光恵は奥のテーブルを勧め、二人は遠慮がちに座った。 「すみません。ご迷惑をおかけしたと思います」「いえ、迷惑だな…

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3か月前
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「食堂み」の女たち16

「ご挨拶が遅れてすみません。キョウコの…富岡響子の親でございます」女性の方が一歩前に出て一礼した。 「ご両親…」光恵が響子をみた。 響子はすっくと立ち、なんか用かと…

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3か月前
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「食堂み」の女たち15

「やっと見つけた」熟年の男女二人がやって来たのは秋も終わり、冬枯れの木が目立つようになった、少し肌寒い日だった。 そのとき「食堂み」には光恵と響子が居た。響子は…

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3か月前
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「食堂み」の女たち14

四人が響子の部屋に集合した。「はい、これ」と、響子は札と小銭を全て机の上に置き、美奈の前に押した。「ようけあったわ。盗み取られた金には及ばんかったけど」 数える…

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3か月前
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「食堂み」の女たち13

禿げ頭は部屋に入ってすぐ、一緒にシャワーしたいと言ったが「うち恥ずかしいねん、先に入ってて、すぐ行くねっ」背中を押して後から軽く抱きしめてやった。シャワーの音が…

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3か月前
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「食堂み」の女たち 最終話

調理場の裏口から「ただいま帰りました」きれいな声が聞こえてきた。「やっと帰ってきたわ。ミナとパソコン代わって。早う来て」響子は調理場に向かって叫んだ。「すぐ行きまあす」クスッと笑う光恵は、横目で祥子にウインクをした。祥子は旧姓の秋本祥子に戻っていた。
マージャンをした年明けの一月四日、祥子は気持ちが固まり、響子と光恵と美奈に連れ添われて自首をし、裁判で執行猶予がついた。

この子たちに任せておいた

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「食堂み」の女たち27

あれから十五年。2020年開催のオリンピックが東京に決まったというニュースを響子が耳にしたのは「民宿 宮下」だった。響子は老夫婦に代わって民宿を切り盛りしている。「跡継ぎはあんたに任せたで。残す金はないけどな」「金なんかいらんわ」と響子は笑った。
玄関脇の掃除をしている響子の相棒、美奈は受付にあるパソコンと格闘している。美奈も響子も未だに独身だ。そして奥の調理場には、合間を見て手伝いに来てくれる光

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「食堂み」の女たち26

全てを響子に話した。響子ならきっと分かってくれる。「ほおか…光恵さんも苦しかったな。黙ってたもんな。けど安心しいや。光恵さんの苦しみをちょっと背負ったるからな」「うん、ありがとう、キョウちゃん。ところで、うちの考えてること分かるって言ってたけどなんや?」「分かるで。ノリちゃんが自分で結論出すまで待ついうことやろ」「そや。やっぱ、おばはんやのぉ」「光恵さんまでおばはん言うな」

窓から外を見ると、い

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「食堂み」の女たち25

マスクを外したその女は、とても美しかった。口の横のホクロ二つが色っぽい。「夫が襲いかかってきたところを押してしまったら、机の角で後頭部を打って…それで動かなくなって…」そのとき心は壊れていた。長い間ずっと暴力を受けてきたのだった。どうしていいか自分で判断できず、とにかく夫から離れなければという思いだけが頭の中にあり、部屋を飛び出したのだと言う。いろいろなどころを彷徨い歩き、どこでどう生きていたかの

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「食堂み」の女たち24

光恵は夫からの暴力に耐えられず、小さな俊一を抱きかかえて逃げた。しかし逃げても逃げても見つけられ、引き戻され「もう二度と叩いたり蹴ったりはせえへん」と謝るのだが、変わらないばかりか次第に暴力は過激になっていった。ついに二歳の俊一にも手を出すようになり、わが子を守るために、光恵は夫をバットで殴った。刑を終えた後、店を再開させ、これまで必死で生きてきた。
(この女を助けなければ)「うちでよかったら話聞

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「食堂み」の女たち23

浅井則子、本名、二宮祥子が帽子とマスクを付けてやって来たのは、まだ誰も二階の部屋を使っていなかった去年の十二月…今日みたいに雪の降る寒い夜だった。
「すみません、部屋空いてますか?」浅井則子と名乗る女が立っていた。こいつなんかワケありやな…光恵は即座に見抜いた。「あんた何かから逃げてきてるやろ。借金取りか、ヤクザか、それとも警察か」問うなり、急いで出て行こうとする女の腕を強く掴んで引き寄せた。振り

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「食堂み」の女たち22

この日は響子の一人負けで、もうやめた!と千八百円を財布から支払った。安い賭けだ。眠そうに目を擦っている俊一を見た美奈が「今日はうちの部屋で寝かせるわ」響子に目配せをして二階へ連れて行った。光恵は響子に濃いめのお茶を入れ、自分も一口、ゴクンと飲んだ。
「あんた気づいてんのやろ?」カウンターにいる響子の横に座り、両手で湯飲みをギュッと握りしめた。「なんのこと?」
二人の間に時間が流れる。
ゴーン
除夜

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「食堂み」の女たち21

「あっ!」俊一がテレビの画面を指さした。
みんなが一斉に見入る。二宮祥子という女性の顔写真が画面に大きく映っている。
「あの顔…」言ったのは美奈だった。
映っているのは浅井則子とそっくりの目。シュッとしたきれいな鼻、髪は茶色かかったロングのストレート。年齢三十四歳、身長一六四センチ、体重四十七キロ、それが二宮祥子。
「この女性は、昨年の平成九年八月一日に起こった殺人事件の容疑者です。被害者は二宮祥

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「食堂み」の女たち20

十二月三十一日、めずらしく雪が降り、大晦日の街を白く染めた。
「食堂み」で年越しそばを食べた後、光恵、響子、美奈、俊一はマージャンに興じていた。今のままところ俊一の一人勝ち。テレビには年末恒例の「実録 警察24時間」が映っていた。
「それ、当たり!ロンや!今度はハネたで」また俊一が上がった。振り込んだのは響子だった。「あんた、うちになんか恨みあんのか。いっつもうちから当たるやんか」「ほんなん知らん

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「食堂み」の女たち19

光恵は響子の両親に、今娘は何をしているかと聞かれたので「民宿 宮下」の名前を出した。「民宿 宮下」は老夫婦が細々と商っている家族経営の宿で、ごくわずかな客しかとっていない。響子はここに来る前、宮下に泊まっていたらしく、老夫婦が腰を気遣いながら動いているのを見るに見かねて、宿泊客なのに掃除をしたり料理を運んだりしたそうだ。そのうち老夫婦がからここで働いてほしいと懇願されたのだった。
給料は十万ちょっ

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「食堂み」の女たち18

光恵は響子の実家を聞いて、度肝を抜かれた。父親はいくつものホテルを経営する「ホテル 富岡」の社長。「ホテル 富岡」は誰もが知っているホテルで、何度かテレビで見たことがある。県内だけでも三つあり、近々県外にも建設予定といった、これから更に伸びていくホテルだ。
見た目は高級ホテルの様相だが、最近安価な値段で宿泊できるプランができたらしい。聞けばそれは響子からの提案だという。「あんなバカ高いホテル誰が泊

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「食堂み」の女たち17

「まあ立っているのもなんなんで、座ってください」光恵は奥のテーブルを勧め、二人は遠慮がちに座った。
「すみません。ご迷惑をおかけしたと思います」「いえ、迷惑だなんて。キョウちゃん…響子さんがいて助かっているんです。私のやんちゃな息子の面倒も見てくれるし、ここに住んでいる住人も響子さんを頼っているんです」「助かってる、頼ってるって…あの子、人様に役に立つことしてるんでしょうか」
これまでは人に迷惑ば

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「食堂み」の女たち16

「ご挨拶が遅れてすみません。キョウコの…富岡響子の親でございます」女性の方が一歩前に出て一礼した。

「ご両親…」光恵が響子をみた。
響子はすっくと立ち、なんか用かという顔をして二人を睨んだ。
「そろそろ帰ってきなさい」父親が言うと「うちは一人で暮らすって言うたやん。いっつもしつこいな。帰って!」「何言うてんの。いつもひとりひとりって。これまでみなさんにどんだけ迷惑かけてきたと思てんのよ。いつ警察

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「食堂み」の女たち15

「やっと見つけた」熟年の男女二人がやって来たのは秋も終わり、冬枯れの木が目立つようになった、少し肌寒い日だった。

そのとき「食堂み」には光恵と響子が居た。響子は仕事が休みで、二人で朝から日本酒を飲んでいた。
「どちら様でしょうか?」光恵が二人を見て丁寧に相対した。男性はスラッと背が高く、スーツ姿で黒の高そうなコートをはおり、トナックのハットをかぶっていて、一歩下がった女性の方は、アクレザーのブー

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「食堂み」の女たち14

四人が響子の部屋に集合した。「はい、これ」と、響子は札と小銭を全て机の上に置き、美奈の前に押した。「ようけあったわ。盗み取られた金には及ばんかったけど」
数えると七万と五百六十三円だった。
「ええよ、これでじゅうぶん。一円玉も持ってきてくれたんやね」「あったりまえや!すっからかんにせな気がすまんわ」
盗られた六十の禿げ頭の顔を見たいもんだと、四人で大笑いした。

マスク越しであるが、浅井則子の笑っ

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「食堂み」の女たち13

禿げ頭は部屋に入ってすぐ、一緒にシャワーしたいと言ったが「うち恥ずかしいねん、先に入ってて、すぐ行くねっ」背中を押して後から軽く抱きしめてやった。シャワーの音が聞こえてきだした。
(しもた!コース聞くん忘れた!まあ…ええか)急いでスーツの内ポケットをまさぐる。財布があった。狙いどおり、金がいっぱい入っている。他でも盗んでいるはずやから、ようけ財布に入っとる、というのが俊一の考えだった。
札も小銭も

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