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地理Bな人々(8)中島ノート⑤ イタイプダム 

 午後の便で,イグアス→ブエノスアイレス→サンティアゴ※1,と一気に移動。
 
 午前中たっぷり時間があったので,1日限定のブラジルの入国ビザを取り,イグアスの滝をブラジル側からも眺める(このパターンの観光客が多いらしい)。昨日見たはずなのになぜか迫力が増してグッときた。
 先住民グアラニー族※2が「巨大な水」と呼んだ滝の神髄を垣間見た気がする。
 週末とあって観光客もさらに増えた。
 イグアスの滝はブラジル・アルゼンチンそれぞれ別々に世界遺産に登録している両国のドル箱だ。
 
 1日だけブラジルに入国した本当の理由は,バスで30分ほどの所に位置するイタイプダム※3に行くためだ。
 ここまできて,世界最大の水力発電所※4を訪れないわけにはいかんだろう。
 
 俺と同じことを考えている観光客とともにほぼ満員のバスでイタイプダムに到着。
 次々と循環バスに誘導されていく。無料だが皆チップを箱に入れている。2ドル寄付。
 堤頂の長さは7km以上あります,と音声ガイドが聞こえたあと,とんでもなく大きなダム湖が視界に入る。海に出たのかと錯覚するほどだ。
 運良くダムの放流シーンにも遭遇。サイレンが鳴りダムの水門が開きコンクリートの巨大斜面に膨大な量の水が放流されるのを目にした時,正直「イグアスよりすげえ」と思った笑。
 人口大国ブラジルの総電力※5の多くがここで賄われているというのも納得だ。
 隣国パラグアイは水力発電比率が100%※6(正確にはイタイプ100%と言うべきか)である。
 
 ブエノスでの乗り継ぎもスムーズで夕刻サンティアゴ国際空港着。
畿内ではずっとMDでアントニオ・カルロス・ジョビン※7を聴く。
 タクシーでホテルへ。 
 近くに日本食のレストランがあった。外から覗くとチリ人がはちまきをして半被を着てカウンターに佇んでぼんやりしている。値段も高いのでその先のローカルレストランへ。
 エリソス※8を食べる。おそらく今後日本でも人気が出るだろうオーガニックのチリワインと一緒に。
 サンティアゴ周辺は南米大陸でここだけ地中海性気候※9が分布しているのだ。
 グラス1杯60円だったが,十分美味。パントゥルカ※10でシメて帰る。
 明日はいよいよアタカマ※11へ向かおう。 
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※1 サンティアゴ
チリの首都。アンデス山脈の西側に位置する。標高520mの盆地に位置する。人口599万人(2021年)。チリの総人口1967万人に対する割合は約30%のプライメートシティ。近くに南米大陸最高峰アコンカグア山(6959m)がある。

※2 グアラニー族 
南米大陸の先住民の一つ。パラグアイはこのグアラニーとヨーロッパ系白人との混血が多く,総人口730万人の85%以上がメスチソである。グアラニー語はスペイン語とともにパラグアイの公用語であり,また同国の通貨単位もグアラニーである。

※3 イタイプダム
1984年に送電を開始した,ブラジルとパラグアイの国境を流れるパラナ川に両国の共同出資で建設された巨大ダム。

※4 世界最大の水力発電所
この時点では世界最大であったが,2009年に中国の長江中流域に三峡(サンシャ)ダム(湖北省)が完成し,設備容量ではイタイプダムを上回ったので,現在は世界第2位となる。

※5 人口大国のブラジルの総電力
人口世界第7位(2.1億人/2023年)のブラジルは,人口1億人以上の国の中では唯一水力発電の比率が50%を超える国である(1億人未満の国では,ノルウェー・カナダ・ニュージーランド・アイスランドなどが水力の比率が高い)。デP83⑥。

※6 パラグアイは水力100%
イタイプダムで発電された電力はブラジルとパラグアイで分けることになっているが,パラグアイの人口が少ない(730万人)ので,余剰電力は輸出されている。パラグアイは内陸の農業国で,農畜産物が輸出の中心であるが,大豆と並ぶ重要な輸出品が電力である。電気を輸出するという感覚は日本では馴染みがないが,国境を接する地域においては普通に行われている。東南アジアのラオス(内陸国)などでも電力が重要な輸出品になっている。 

※7 アントニオ・カルロス・ジョビン(1927-1994)
20世紀ブラジルを代表する音楽家。ボサノバの巨匠。リオデジャネイロ出身。様々なミュージシャンに影響を与える。晩年は環境保護活動にも取り組む。1994年ニューヨークで死去。ちなみにMDとはミニディスクのこと。1992年にSONYが製品化し,CDよりも小さいことから一時期携帯型音楽プレーヤーとして流行した。

※8 エリソス
スペイン語でウニのこと。チリは世界的にも魚介類の生産量が多い国で(世界10位/2020年),サンティアゴにはシーフード料理の店が多い。タマネギのみじん切りやパクチーを載せレモンを搾ったりサルサソースを掛けて食べることが多い。

※9 地中海性気候
ケッペンの気候区分Cs。緯度30~45度の大陸西岸に分布している。夏季に乾燥する特徴を持ち,高温乾燥に適したオリーブ・コルクなどの硬葉樹林やオレンジなどの柑橘類,ぶどうの生産がさかん。ヨーロッパ地中海の沿岸,北米大陸西岸(サンフランシスコ・シアトル・バンクーバー),南アフリカ南西部(ケープタウン),オーストラリア南西部(パース)などに分布。いずれもワインの生産がさかんな地域である。日本とチリは2007年にEPA(経済連携協定)を結び,それ以降チリ産のワインやサーモンなどが日本に安く流入するようになった。 

※10 パントゥルカ
日本のすいとんのような料理。鶏や牛でだしをとり,小麦粉をオリーブオイルと塩で練って湯がいて入れ,野菜などと一緒に煮込んだスープ料理。冬によく食べられる。
 
※11 アタカマ
チリ北部の砂漠地帯。沖合を北流する寒流(ペルー海流)の影響で上昇気流が発生しないために,チリ北部から隣国ペルーの海岸沿いには数千㌔にわたって砂漠地帯が続いている。

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