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心が震えたときの言葉が出ない

時間が止まっているのだと思う
素敵な映画を見たとき
心が躍るような音楽を聴いたとき
雨上がりの空がきれいだったとき
心が震えたときの繊細なすがたを表現する言葉が出てこない
言葉に出そうとすると、動きたがる言葉が細動するだけで
何も口を吐いてこないのです
縛られているのか
凍りついているのか
確かに震える心があって
出てこようと震える言葉があって
声帯がパクパクと息だけを通す震えだけがあって
どうして何も言葉は出てこないのです
美しいものを美しいと讃えたい
楽しいものを楽しいと囃したい
雨が降り始めたときの匂いに歓喜の声をあげたい
だのに、ついに掠れる息だけが喉を通って
透明の意思が誰にも伝わらずに霧と消えてゆきます
消えゆく霧を捕まえようと
どたばた喜劇を繰り広げては
空白の下書きの枚数だけが
そこにあった何かしらの意思の存在を写し取っている
空白の数だけぼくの心の震えを感じているのです

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