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東電福島第1原発事故現場の汚染水問題,トリチウムが人間・生物に危険であるその害悪性(2)

 ※-1「原発『60年超運転』法が成立 自公維国などが賛成 電力業界の主張丸のみ 福島事故の反省と教訓どこへ」『東京新聞』2023年5月31日 18時22分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/253622

 原発の60年超運転を可能にする束ね法「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が〔2023年5月〕31日,参院本会議で与党と日本維新の会,国民民主党などの賛成多数で可決,成立した。老朽原発の長期運転や原発産業への支援強化などが盛りこまれ,東京電力福島第1原発事故後に抑制的だった原子力政策の大転換となる。
 付記)冒頭の画像は,つぎにもみられるが,『毎日新聞』2023年6月1日朝刊1面,原発稼働延長に関する記事から借りた。

『東京新聞』2023年5月31日記事の関連表

 ◆-1 運転延長の可否の審査 規制委から経産省に

 福島事故後に導入された「原則40年,最長60年」とする運転期間の規定は,原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法から削除。経済産業省が所管する電気事業法に改めて規定された。最長60年の枠組みは維持しつつ,再稼働に向けた審査などによる停止期間を運転年数の算定から除外。その分だけ60年を超えた運転が可能になる。

 これまでは規制委が運転延長の可否を審査し認可していたが,今後は経産省が電力の安定供給に貢献するかなどの観点から審査し,認可する。具体的な審査基準は今後策定する。規制委は延長の可否の判断には関与せず,運転開始から30年を起点に10年以内ごとに劣化状況を審査。新規制基準に適合していなければ,運転を認めない。

関西電力のオンボロ原発が稼働している恐怖

 原子力利用の原則を示す原子力基本法には,原発活用による電力安定供給や脱炭素社会の実現に取り組むことを「国の責務」と明記。再生可能エネルギー特別措置法は,再エネの拡大に必要な送電網整備への支援強化が盛りこまれた。

 岸田文雄首相は昨〔2022〕年7月,原発活用に向け検討を指示。今国会に,原発と再エネという論点が異なる5つを束ねた法案が提出された。この手法には,〔5月〕31日の参院本会議の討論で,法案に賛成した国民民主党の礒崎哲史議員からも「政府の強引な進め方は遺憾」との批判があった。

 ◆-2 選挙で問うこともなく 政策大転換を強行した岸田政権

【解説】 国会が可決したエネルギー政策の束ね法案は,脱炭素社会の実現を名目にした原発産業の救済法だ。老朽原発の運転延長認可をめぐり,規制当局の原子力規制委員会が原発推進官庁の経済産業省に権限を譲り渡した事実こそが,電力会社を保護する流れが強まったことを象徴する。東京電力福島第一原発事故でいまも苦しむ被災者の思いをくみ取らず,事故の反省と教訓をないがしろにした。

 補注)ここでは「脱炭素社会の実現」≠「原発産業の救済法」である事実のみ断わっておきたい。原発が「脱炭素」になるという設定=解釈じたい,もともと「ウソに等しい」虚偽の説明であった。つい最近まで原発はCO2 を出さない電力の生産方法だといっていたものが,批判を受けてからは「原発は稼働中はそうである」という変更をしていた。

 原発の建設・完成にまでは10年はかかる。当初,原発の稼働=寿命はせいぜい30年だとされていたものが,いつの間にか40年とされ,こんどは実質的に60年以上も稼働を可能にする変更になった。この種の装置・機械に関する安全意識・観は,工学的な常識から逸脱しているだけでなく,危険な原子力を燃料に使用する原発の技術特性を,完全に無視したエセ技術観に依拠している。

 原発は廃炉工程に入ってから,これが本当に後始末が完全についたといえる期間は,どのくらいの年月がかかるというのか? 1979年3月にレベル5の原発事故を起こしたスリーマイル島原発2号機は,2019年9月の時点であたが,廃炉についてこういう報道があった。

 この記事の内容については「原発が稼働しない,廃炉になってからの期間の長さ」に注目したい。この期間はCO2 を廃炉工事のために排出しつづける。それも半世紀の長さの単位で,である。

 原発がグリーンなどといえるわけがまったくないのに,GX--グリーントランスフォーメーションの頭文字のことで,脱炭素社会の実現に向けた取り組みを通じた,経済社会システム全体の変革--に,この原発が貢献できるなどと,それもまた,よくも図々しくいえたものである。まさに「完全なるウソ」であった。

    ◆ 米スリーマイル島原発が運転終了 60年かけて廃炉へ ◆
 =『朝日新聞』2019年9月21日 9時56分,
     https://www.asahi.com/articles/ASM9P2FPVM9PUHBI00C.html

 米スリーマイル島原発(ペンシルベニア州)が〔2019年9月〕20日,営業運転を終了した。同原発は2号機(加圧水型)が40年前に炉心溶融事故を起こしたあとも,1号機(同)が運転を続けていたが,採算の悪化で閉鎖を余儀なくされた。今後,60年をかけて廃炉にしていく

 (中略)
 
 エクセロン〔運営する会社〕が米原子力規制委員会に提出した計画によると,1号機は使用済み核燃料を炉心から取り出してから廃炉作業に着手するが,当面は放射能レベルが下がるのを待つため,冷却塔や建屋の解体が終わるのは2079年の予定だ。費用は1号機だけで10億ドル(約1千億円)以上かかるとしている。

 1979年に事故を起こした2号機は,溶けた燃料はほとんど取り出されているが,1号機の運転停止を待って廃炉にする予定で,建屋や冷却塔は残っている。2号機を所有するファーストエナジー社は2041年に解体を始め2053年に終えるとしている。

アメリカ,スリーマイル島原発「廃炉」

〔※-1で,記事に戻る→〕 法改正の中身は,電力業界の意向に沿った。事故の翌年に導入された「原則40年,最長60年」とする運転制限は,業界団体の要望通りに延長できることに。原子力基本法には,業界側の主張を丸のみして原発への投資環境の整備さえも盛りこまれた。

 岸田文雄首相の検討指示からわずか10カ月。原発政策の大転換は今回の法改正でおおむね完成する。政府が想定していないとしてきた原発の建て替えにも踏み出す構えで,事故前の官民一体で原発を推進してきた構図に逆戻りしかねない。

 原発依存は一時的にはエネルギー価格高騰の抑制策にはなるのかもしれないが,核のごみの最終処分は解決の見通しはなく,膨大なコストと事故リスクを国民がこれからも背負うことになる。岸田政権は原発のデメリットに背を向け,きちんと説明することがなく,選挙で問うこともなかった。一方的に強行する政策決定は将来に禍根を残す。

 福島第1原発事故後の原子力政策。この原発事故から1年半後の2012年9月,当時の民主党政権は「2030年代の原発稼働ゼロ」の方針をかかげた。政権交代した自民党は,この方針を撤回。2021年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では,2030年度の原発比率20~22%をめざすとした一方で,「可能なかぎり原発依存度を低減させる」と明記。原発の新増設,建て替え(リプレース)も盛りこまなかった。(引用終わり)

 以上の記事のさらに【関連記事】として「避難者を無視している」「政府は真正面から答えない」「原発60年超法案に反対の声」との表記(リンク先)。

 さて,この国は原発と抱きこみ心中でもしたいのか。

 「2030年度の原発比率20~22%をめざすとした一方で」,「可能なかぎり原発依存度を低減させる」とされた方針(この2点)は,矛盾としかいいようがない。原発を廃絶せずにしかも,再生可能エネルギーの拡大・充実を図るといった捻転した考え方は,それこそ,バカ正直にその自家撞着した発想を自白していた。

 要するに,原発は再生可能エネルギーの伸長を阻止する役目をもたされているが,しかし,それはいったい,なんのためのものなのか?
 
 つぎの画像資料は,雑誌『SIGHT』2017年4月号増刊号の表紙であるが,ここに書かれている文句,日本は「電力が足りているのに原発を再稼働。その欲望が怖い」であった。しかし,その「欲望とは,いったいなんのためのそれ」なのか?

原発無用を議論した『SIGHT』2017年4月号増刊号

 原子力ムラという「国民たちの日常生活とは縁の薄い」「我利私欲に走るだけの利害共同体」が,すでに半世紀以上も前からできていた。この母体を破壊することは難業である。

 そのひとつだけ挙げると,たとえば立憲民主党の支持基盤である連合という労働組合の上部団体は,なかでもその労働貴族的な階層に属する大企業勤務の労働者・サラリーパーソンを組合員として擁する労組を中心に組織されている。連合は原発推進派の立場にある。その意味では「労働者階級全体」の利益とは縁遠い労組組織である。もとより労働貴族的な思考回路じたいが閉塞していた。

〔記事に戻る→〕 次段(※-2)の内容として引用する「福島処理水問題は第二の狂牛病騒動」という記事は,在日韓国系新聞社である『統一日報』2023年5月31日4面に掲載されていた。関連させていうと,この4面における冒頭記事として別の記事の,見出し「韓国の専門家が原発視察 国内世論に苦慮する尹政権」も掲載されていた。ここではさきに,この記事から最初の段落(前文)のみ紹介しておきたい。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出をめぐり,韓国の専門家で構成した訪日視察団が〔5月〕26日,帰国した。今後,視察の分析結果や国際原子力機関(IAEA)の結論にもとづいて検討し,韓国側が対応を決める。

 処理水の安全性が確認されれば,2013年から禁輸措置を取っている福島県産を含む8県の水産物輸入再開の期待が高まるが,韓国国内での根強い懸念の声もあり,尹錫悦政権はむずかしい舵取りを迫られそうだ。

『統一日報』2023年5月31日4面・記事から

 つぎの※-2に紹介する『統一日報』2023年05月30日記事の内容は,韓国政治の内情が前提になる報道ゆえ,いくらか理解しにくい面がある。しかし,ここでは「本記述(1)」2023年6月2日〔昨日〕における議論を踏まえてとなるゆえ,その道筋に即して追っていく討議をしている。この点を,事前に断わっておきたい。

 ※-2「福島処理水問題は第二の狂牛病騒動」『統一日報』2023年05月30日 12時44分,http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=91357&thread=04

 a) 李 明博政権初期に,米国産輸入牛肉が狂牛病に感染したという嘘の騒動が発生し,多くの国民が反米ろうそくデモで李保守政権の足を引っ張ったことがある。その後,米国産牛肉がもっとも安全で,狂牛病感染説は左派勢力の反米扇動だったことが明らかになった。偽りの扇動に多くの国民が騙された事例だ。

 最近,騒動を起こしている福島原発処理水騒動も,過去の米国産牛肉の狂牛病騒ぎとまったく同じ反日扇動であることが分かる。すなわち,北韓の対南戦略であるカックン戦術(両班帽子の両側紐は米,日だから一つの紐だけ切れば韓国は崩壊する)であり,反米,反日扇動戦術であることが分かる。

 補注)この「反日扇動」だという言及は分かりにくい用語であるが,最近,櫻井よしことも仲のよい面も披露していた『統一日報』紙であったという事実のみ,付加的に指摘しておく。こう追言しておけば,いくらかは前段の記事の口調が理解しやすくなるかもしれない。

 b) 現在,中国には51カ所の原子力発電所が稼働している。中国政府は2030年までに原発を100基以上稼働するという計画を立て,建設に拍車をかけている。

 現在,稼働または建設中の中国原発の大半は,韓半島〔日本でいう朝鮮半島のこと,韓国ではけっして朝鮮半島とはいわない〕に近い中国東部海岸(韓国の西海)に集中している。運営に欠かせない冷却水を安定的に供給するため,東部海岸線に沿って建設したのだ。

【参考画像】-中国の原発事情-

中国の原発は海岸線に立地されたものが多いが
国土が広いせいか内陸部にも立地する

 韓国原子力安全技術院のシミュレーションによると,中国江蘇省の天湾原発事故が発生すれば,2~3日以内に放射性物質が偏西風に沿って韓国に浸透するという結果が出た。

 原発事故や運営ミスなどの問題をIAEAと国際社会にきちんとしらせない共産党政府の特性上,韓国は中国原発の危険に直面しており,警戒を高めなければならない。

 原発専門家らは,中国の原発危険度が日本の福島原発の危険性に比べておよそ 1000倍に達すると懸念している。

 補注)この段落の指摘はかなり雑な推定話になっている。もっとも以前は「原発の安全性」に関する確率論的であっても「安全神話志向の説話」が,当然のように,国民たち側に押しつけられてきた「実録」もあったからには,このような「原発危険度は,日本1に対する中国のそれは1000倍だ」といういいぶん(懸念のこと)は,いわれるからにはその最低限の理由・根拠を,きちんと示しておくべきである。

〔記事に戻る→〕 2021年,香港シチズンニュースとエポックタイムズの報道によると,中国の公式資料を検討した結果,既存原発がすべて汚染水を海に放流していると伝えた。

 このなかでも大亜湾原子力発電所の放射性物質トリチウム(三重水素)排出上限線が福島より10倍高いことが分かった。中国原発の汚染水放流は韓国西海の海洋生態系破壊に深刻な影響を及ぼす。多核種除去施設を通じて浄水した福島処理水とは比較にならない危険に直面している。

 c) 福島沖に排出される処理水が海流に乗って韓国海に流入するには4~5年程度かかる。福島沖に放流される処理水は黒潮海流に沿って北太平洋へ流れた後,太平洋沿岸を一周する循環海流に乗って再び黒潮海流と合流する。フィリピン海で黒潮海流に合流した福島処理水は,再び福島沖に流れるが,韓国海にはほとんど流入していないのが事実である。

 しかし,中国東部海岸にある中国原発の汚染水放流は韓国の西海に直接影響を及ぼす(前掲の図解・地図を参照)。このような状況に関する対策がなく,中国当局に原発事故事前予防のための国家緊急協議機構設立さえ提案できない状態である。ちなみに,北朝鮮とロシアは原発汚染水だけでなく放射性廃棄物まで東海に捨てるという。

 補注)以上の記述で「西海」「東海」とは,韓半島を基軸にした表現である。

 〔記事に戻る→〕 福島は日本の東海岸側にあるので韓国には影響がなく,浄水済みの処理水を放流する予定である。30年間少しずつ放流し,韓国にはほとんど影響がない。福島は毎年22テラベクレル(22 Tbq)の三重水素を太平洋に放出する予定だ。一方,2018年基準で韓国の古里原発は毎年,東海に50 Tbq の三重水素を放出してきたが,「放射能汚染」にはならなかった。

 補注)この段落における記述は「当面はそうだ」という程度の話題であった。少しでも汚染水(処理推だとみされた汚染水)を海洋に放出することじたいが,原発のために発生してきた「地球環境の汚染問題」に対して,その蓄積的な昂進状態を意味する。

〔記事に戻る→〕 専門家らによると,大気圏中には毎年,5万から7万Tbq の三重水素が生成されており,太平洋にはすでに300万Tbq の三重水素が存在している。したがって,福島で放流する浄水済みの処理水(毎年22tbq)の三重水素はまったく影響がないというわけだ。

 補注)ここでの指摘は確実に,かつ信頼に足る判断ではない。「本稿(1)」でトリチウムに関する専門家の分析に聞いてみたが,トリチウムの問題はここで書かれているような認識や展望を構えてする性質ではなかった。トリチウムの危険性をもっと間近に踏まえてする検討を必要としていた。トリチウムに関した「科学的な立場からの議論」と「政治的な立場の利害」とを,不用意に混融させる発想は御法度である。

 d) 野党は反日扇動の素材として福島原発処理水を悪用し,国民を誤魔化しているのが分かる。福島原発処理水騒動で反日感情を扇動する野党側と左派連中の背後には,北朝鮮と中国の韓日離間工作が隠れている。

 まさに,第二の狂牛病騒動を起こし,反日感情を煽りながら,韓日離間工作に専念していることが分かる。左派と野党の反日,反米扇動に二度と騙されないよう格別の注意が求められる。

 補注)以上2段落の主張は,韓国政治の問題が原発技術の問題を足場に利用したかたちで,かなり超越した次元でなされており,科学の議論が政治の利害の面前で排斥・抑圧される姿を,正直に体現している。それゆえ,この種の議論のもっていきかたは,その内容に関して慎重に識別して接する必要要がある。

 以上の原発問題に関する『統一日報』の論旨は,中国から日本,そして韓国の原発事情に移動するなかで,各国の政治体制のありようを,そのままもろに反映した「原発問題の特殊・個別の存在形態」を現象させている。

 ※-3「原発60年超運転可能に GX電源法成立 経産相が延長認可」『毎日新聞』2023年6月1日朝刊という記事の恐ろしさ

 本ブログ筆者は,原発の問題として観る場合,世の中では一番に飛び抜けて危険な技術特性を有した原発を,稼働期間で実質60年までも超えても稼働させる企図は,おおげさでなく,完全に《狂気のさた》である。

 税法上の耐用年数を前提に置いていうまでもなく,世の中にある装置・機械のたぐいで,その「使用年数」を60年にする措置は異様に過ぎる。とくに原発にかぎって格別にそのように稼働しうる年数:期間を定めたのは,暴挙に近い。

 原子力を燃料に焚いて電力を生産する技術方式は,原理的にはきわめて素朴・単純であるけれども,実際に電力を獲得する方式としてはあまりにも有害で手数がかかりすぎる。とりわけ,その「事後処理」などとは簡単にいえない「〈廃炉工程〉関連」に入ってから生じていた難題は,原発を利用する技術経済的な問題として,とてもなやっかいなモノである。

 やっかいモノだと形容されるほかない「原発の基本特性」は,とくにこの原発が大事故を起こした場合,深刻かつ重大な事態を発生させる。この地球環境のなかで起きたチェルノブイリや東電福島第1原発事故が,今後において起きても仕方ないと考えるような愚か者は,まさかいるわけがない。

 極論すると,500人乗りの大型旅客機が墜落してしまい,その人命がすべて失われるような交通機関の事故と,原発の7レベルの重大で深刻な事故とは,そう簡単には比較できないほどの質的な違いがある。人命の尊さの問題だけでは比較しにくい,また別次元の重大な論点がそこにはあった。

 ところで,この日本にはある種の《大いなる愚か者》が多数いた。それは,いわゆる原子力ムラという一大利害集団のなかに生息している人びとを指示するが,その種の《確かな愚か者》たちのほうから『原発の擁護ならびに推進』を一生懸命に語(騙)らせてたところで,結局は有害無益の論しか出てこない。
 

 ※-4「〈社説〉原発推進法 難題に背向ける無責任」『朝日新聞』2023年6月2日朝刊

 原発事故の惨禍からえた教訓は,かくも軽いものだったのか。「依存を減らす」から「最大限活用」へ。熟議抜きに政策の反転を押し通した政府と国会の多数派の責任は重い。原発が抱える数多くの難題を解決できるのか。後世に禍根を残すことにならないか。今後も問いつづけなければならない。

 原発推進関連法が今週,国会で成立した。積極活用に向けた国の責務や施策を原子力基本法に明記した。福島第1原発の事故後に導入された運転期間の制限も緩め,一定の要件で60年を超える稼働に道を開いた。

 朝日新聞の社説は法案に反対し,再考を求めてきた。原発には,安全性や経済性の問題にくわえて,増えつづける「核のゴミ」や核燃料サイクルのゆきづまりといった課題が山積する。その解決の道筋も示さずに,なし崩しに「復権」に転じるのは許されないと考えるからだ。

 エネルギー政策全般の見地でも,いまは再生可能エネルギーを主軸に据える変革を急ぐべきときだ。「原発頼み」に戻れば,道を誤りかねない。

 進め方も拙速だった。政府は昨〔2022〕年,新方針を数カ月間の限られた議論で決めた。国会は多角的に検討を尽くす責任を負っていたはずだが,議論は深まらなかった。失望を禁じえない。

 補注)こうした政府の施策変更は,現在の岸田文雄政権に特有の行動形式であった。これには「三無精神-知らない・聞かない・考えない」3拍子がそろっていた。

 「世間のモノゴト」が基本からなにも分かっていない「世襲3代目の政治屋の即断・妄断・誤断」が常習になっている。そのために『軽薄一辺倒の意思決定』が連続してきた。岸田文雄政権になってからというもの,安倍晋三の政権時とはまたひと味ちがった「失政だらけの『内政と外交』」しかできていない。

 安倍晋三が「亡国の首相1代目」だとしたら,この岸田文雄はその「亡国の首相2代目」として,みごと合格であった。当人たちにはその意識がないのだが,ボンクラとして世襲で政治屋家業をになってきた「世襲3代目の政治屋」が,この日本の為政をいじくりまわしてきた。その結果,この国はいま,「奈落の底に突入するかのような社会状況」が形成されつつある。

 本日(2023年6月3日)朝刊の各紙は(多分)全紙が1面冒頭記事に挙げていたのが,つぎの話題「出生数・率(合計特殊出生率)の落ちこみぶり」であった。

『毎日新聞』2023年6月3日朝刊1面冒頭記事


 原発の問題は,この「本稿(1)」の段階からすでに言及してきたように,トリチウムが原発施設やとくに事故を発生させた原発から大量に沿岸海域に排出されている現実として,さらにはこれが自然界を回りにまわって,人間の生命力をじわじわと削いでいく働きをしてくる,といった深刻・重大な事態を発生させている。

 少子化の問題は社会経済,そして労働経済を基底とする社会全体にまで総合的にかかわる問題であるから,生命科学・医療問題の次元から観て,原発の世界的な増設・普及によって,なんらか一定の悪影響を受けはじめている事実が観過できない。

〔記事・社説に戻る→〕 政策転換の理由にされたのはエネルギーの安定供給と脱炭素化への対応だ。では,原発が実際にこれらの役割をどれほど果たせるのか。なぜ原発を「特別扱い」する必要があるのか。政府は正面から答えず,「原子力を含め,あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返した。

 内容が多岐にわたる「束ね法案」にされ,具体策の議論も散漫になった。運転期間の上限は,導入時に「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されていたが,今回政府は「安全規制ではなく,利用政策上の判断」と主張した。大きな変更だが,腑(ふ)に落ちる説明はなかった。

 結局,根本の問題を含め,数々の疑問が置き去りにされた。この姿勢が続くなら,原発政策が推進一辺倒に硬直化するのは必至だろう。今回の転換は経済産業省の主導で進み,福島の事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」すら大きく揺らいでいる。

 政府は,再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ。だが少なくとも,安全に関する手続きや経済性の見極めをおろそかにしてはならない。

 そして,いくら目を背けようとも,原発の不都合な現実が消えるわけではない。早晩向き合わざるを得ない日が来ることを,政府と法案に賛成した各党は肝に銘じておくべきだ。(引用終わり)

 原発・原子力問題でいえば,その「原発の不都合な〈真実〉」をめぐる重要な問題のひとつが,トリチウムの存在であった。本日の記述は,このトリチウムという核種(放射性物質)の有害性,いいかえれば「公害次元の深刻な問題」になっているはずのその害悪性を考察する。
 

 ※-5 東電福島第1原発事故現場から排出される汚染水を処理水といいかえる詭弁,残る問題は「風評被害」だけだいいつくろい,問題の本質を基本からすりかえた説明,原発の有害性を軽視する原子力ムラ的な倒錯

 昨年,2022年8月3日の新聞朝刊だから,今日からだと10ヵ月前になるが,つぎのような見出しになる記事が報じられていた。

 以下は,「福島第1原発事故 処理水工事,知事了解 福島・2町長も 放出,漁連焦点に」『毎日新聞』2022年8月3日朝刊1面から引用する。

 a) 東京電力福島第1原発でたまりつづける処理水の海洋放出をめぐり,福島県の内堀雅雄知事と立地自治体の同県大熊・双葉両町長は〔8月〕2日,東京電力ホールディングスの小早川智明社長に対し,放出に必要な工事の開始を事前に了解する意向を伝えた。

 東電が昨〔2021〕年12月,3者に了解を求めていた。東電は今後,第1原発から沖合約1キロ地点に処理水を放出するため,海底トンネルの設置などの本格的な工事に着手する。海洋放出は2023年春の実施をめざしている。

 県と両町による「事前了解」は,東電と福島第1原発の立地自治体による廃炉に伴う安全確保協定にもとづく。施設の新増設や廃止に取り組む場合,東電側は技術的な安全性についてそれぞれの自治体から了解をうる必要がある。

 一方で政府と東電は県漁業協同組合連合会に「関係者の理解なしには,いかなる処分もおこなわない」と約束している。今後は県漁連の理解をえられるかどうかが一つの焦点となる。(引用終わり)

 b) この処理水と称している汚染水(最終段階まで処理したとされるこの汚染水はまだトリチウムという核種を含んだままである)を,沿岸海域に放出するという「処理方法」は,結局は「薄めて排出するか,そうでないか」の違いでしかない。別言すると「融けて流れりゃ,みな同じ」である要領を地でいった方策である。

 その「処理水を騙(きど)った汚染水」についていうと,トリチウムという放射性物質の汚染を最終的に除去できないまま沿岸海域に捨てる,というやり方でもって最終処分ができた,とみなす疑似技術的な観点である。それゆえ,このトリチウムという化学物質の有害性の問題は,ひとまず「完全に棚上げ」した科学的な作法としては詐術にひとしい「処理の方法」であった。

 それでいて,原発(東電福島第1原発事故)から湧出している「汚染水を処理水にまで加工して」から沿岸海域に排出する手順をめぐっては,とくに海外から寄せられる「風評被害」が当面,一番心配だといったごとき,意図的にズラした認識が前面に押し出されていた。

 c) 要するに,原子力発電所を使いこなせない人類・人間は,結局『魔法使いの弟子』に過ぎなかった。いまや完全に原子力エネルギーの奴隷と化している。「放射性物質の悪魔性」に苦しむ日々は,いずれにせよ,半永久的に続くほかない。

 東電福島第1原発事故の後始末として太平洋に排出(放出)するといわれる「処理水の本質」は,結局「汚染水でありつづける」点にあった。地球環境を汚染していく「汚染水=処理水」の放出状態は,原発が完全になくならないかぎり,未来永劫に連続していくほかない。人類・人間は魔法使いにでもなれないかぎり,原子力というエネルギーの奴隷である関係性を止揚できない。

 本稿の議論の要点を,つぎに挙げて起きたい。 

  要点・1 東電福島第1原発事故の後始末はいったい,いつになったら,片付いたとみなせる状況が生まれるのか

  要点・2 40~50年でその後始末(廃炉工程も含めて)ができるかのように説明してきた東電や原子力村所属員たちは,自分たちのウソを先刻承知で騙っていた。

 だが,最近では百年(前後あるいあh以上)かかるのが「廃炉問題の実際」だと説明されてもいる。この理解は,原発の後始末に関した「自然・必然・当然の認識だ」と受容するほかない「不可避のなりゆき」になっている。

 ※-6「交響的スケルツォ『魔法使いの弟子』(フランス語  L'apprenti sorcier, scherzo symphonique)

 これは,フランスの作曲家ポール・デュカスが1897年に作曲した管弦楽曲であるが,日本においては通例「交響詩『魔法使いの弟子』」と表記される。

 同曲は,ゲーテが,サモサタのルキアノスの詩『嘘を好む人たち』(Philopseudes)にもとづき書き上げたバラード『魔法使いの弟子』(Der Zauberlehrling)の仏語訳を原典としているという。

     《詩の大意》
    「老いた魔法使い」が「若い見習い」に雑用をいい残し,自分の工房を旅立つところから物語が始まる。見習いは命じられた水汲みの仕事に飽き飽きして,箒に魔法をかけて自分の仕事の身代わりをさせるが,見習いはまだ完全には魔法の訓練を受けていなかった。 

    そのためやがて床一面は水浸しとなってしまい,見習いは魔法を止める呪文が分からないので,自分に箒を止める力がないことを思いしらされる。絶望のあまりに,見習いは鉈で箒を2つに割るが,さらにそれぞれの部分が水汲みを続けていき,かえって速く水で溢れ返ってしまう。

    もはや洪水のような勢いに手のつけようがなくなったかにみえた瞬間,師匠の魔法使いが戻ってきて,たちまちまじないをかけて急場を救い,弟子を叱りつける。

バラード『魔法使いの弟子』

 本ブログ筆者は原発問題を論じるとき,しばしばこの『魔法使いの弟子』をたとえ話に出して説明してきた。本日の記述も,この音楽分野における作品の内容が示唆する「多分,世の中にはたくさんあるはずの出来事としての問題」のひとつとして,原発をとりあげている。

 東電福島第1原発事故現場においては,2011年「3・11」発生以後,絶えることなく湧出しつづけている放射性物質の「汚染水」が,大問題でありつづけてきた。

 ところでその名称のことに関しては,その「汚染水」を浄化する加工作業を施しているゆえか,「処理水」に「変化させえていると,解釈されている」ものの,その実体が実は「最終的にはまだ汚染水」である本質まで変えられているのでは,けっしてない。

 そして,その〈処理水〉の問題についてなのだが,東電側の説明によれば,これからも増えつづけるほかない汚染水を「保存しておくための貯蔵槽(タンク)」の設置場所が,あと2年でいっぱいとなるので〔これは2021年4月時点の話〕,事後は太平洋に排出しておくほかないと主張されていた。

 関連して指摘されている問題としては,その貯水槽の設置場所が足りないという東電側の説明は虚偽であるという批判や,そのタンクに貯めこんでいる汚染水の処理・始末は別途に方法がないわけではなく,こちらの方法が実施できれば太平洋への排出は不要になるはずだという指摘もある。

 補注)すでにこういう情報があった。「汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発  東日本大震災の復興支援プロジェクトから生まれた汚染水対策」近畿大学『大学プレスセンター』2018.06.29  10:00,https://www.u-presscenter.jp/article/post-39661.html

 近畿大学工学部(広島県東広島市)教授井原辰彦,近畿大学原子力研究所,東洋アルミニウム株式会社(大阪府大阪市)および近大発のベンチャー企業である株式会社ア・アトムテクノル近大らの研究チームは,放射性物質を含んだ汚染水から放射性物質の一つであるトリチウムを含む水「トリチウム水」を分離・回収する方法および装置を開発しました。

「汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発」

 いずれにせよ,東電が現在置かれている状況は『魔法使いの弟子』の立場そのものなのであり,しかも師匠がもともと不在であった。そうした弟子の立場であるゆえ,「原子力発電所本来の悪魔性が発揮された場合」に立ち向かう「実力(魔術用の)」は,たかがしれていた。

 そうでなければ,「3・11」が発生してから10年以上が経過している現時点において,「事故原発の後始末」からさらに「本格的な廃炉工程」に進む「日程管理」のメドすら,ろくに立たないでいるわけがない。

 問題の核心にはもともと,汚染水を絶え間なく湧き出させるほかない事故原発現場のその惨状的な困難性にあった。「汚染水の汚染水たるゆえん」は,その理化学的な本質である放射性の極度な有害性に求められる。

 なにやかや弁解したところで,結局,トリチウムを最終的に残して含んでいれば,これもやはり「汚染水」とみなされるのが「科学的にまっとうな理解」である。『魔法使いの弟子』であってもさらにその師匠であっても,実際の世界においては,そう容易にあつかいうる相手などではけっしてない。

 

 ※-7「処理水放出 日本を支持 米大統領特使,韓国で記者団に」『日本経済新聞』2021年4月19日朝刊

【ソウル = 細川幸太郎】 訪韓中のケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は〔4月〕18日にソウル市内で記者懇談会を開き,福島の原発処理水の海洋放出について「日本政府が国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力していると確信している」と日本の立場を支持する考えを示した。

 韓国メディアによる米政府の立場を問う質問に回答した。ケリー氏は中国訪問後に韓国を訪れ,17日に鄭 義溶(チョン・ウィヨン)韓国外相と気候変動に関する国際協力の枠組について協議していた。

 韓国政府は東京電力福島第1原発の処理水問題について「絶対に容認できない行動」として強く批判。同国の各メディアも大きく報じており,ケリー氏との記者懇談会でも複数の質問が出た。(引用終わり)

 補注)なお『読売新聞』の報道となると,日本政府に対して露骨なくらいに好意的な見出しをかかげていた。つぎのものであった。

    「韓国外相『処理水放出で憂慮』『協力して』… 米ケリー特使『プロセスに透明性』『介入は不適切』」『読売新聞 オンライン』2021/04/19 06:42,https://www.yomiuri.co.jp/world/20210418-OYT1T50141/

 この見出しの文言だけでも奇妙な,アメリカ側の発言は感じとれる。「プロセス」とか「不適切」という文句は,問題の本質である「汚染水」の中身に触れておらず,それなりに心配しつつ容喙もしていながら『高みの見物』的な発言に聞こえる。

 この種の,海外から日本に向けられてきた汚染水「批判の問題」は,トリチウムだけでなくそのほか多くの核種も排出させる『事故を起こした原発』に対する批判を意味している。アメリカが日本の立場を擁護するような発言を,それも中途半端なのだが,「日本政府が国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力していると確信している」といっていた。

 対米従属国家体制の日本に対してアメリカ側が助け船を差し向けたかっこうになっているが,問題の重大な本質を周知のうえで,アメリカはそのように韓国をなだめる発言をしていた。

 アメリカは昔,原子力の平和利用--具体的に指摘すれば,もとは原子力潜水艦用の原子炉を大型にして転用--を世界に向けて宣言していたゆえ,その弊害=公害面について強くはいえない〈お家の事情〉があった。

 補注)有名な話である,再度ふれておく。1953年12月8日,ニューヨークの国連本部で開催された “原子力の平和利用” に関する国連総会で,ドワイト・D・アイゼンハワーは「原子力の平和利用」(Atoms for Peace)を唱えた。

 とはいっても,原爆のほうはあくまで破壊のための戦争用の兵器である。その兵器の応用である原発が平和用であったとしても,事故ったさいにはその破壊力が「重大・深刻=戦場的な過酷」を地球環境にもたらす点は,暗黙に了解(覚悟?)はされていたかもしれない。だがここでは,当時においてその点はあえて,まだまともに考慮していなかったと解釈しておく。

 「原爆」が兵器として核エネルギーを直接的に利用するのとは対照的に,「原発」は発電のために間接的にそれを電力生産用に利用する。そうはいっても,双方に共通する原子力エネルギーの〈利用面それじたい〉を軽視してはならない。

 その技術的な特性から発生する結果でいえば,原爆が文字どおり兵器として直接に利用される時と原発が事故を起こした時は,ほぼ同質の現象を発生させる。前者は事故ではなく,原爆が「兵器として利用される破壊」をもたらし,後者は原発が「装置・機械である原発の起こす事故」が破壊をもたらす。

 それゆえ,双方がその「結果」として現象させる「原子力エネルギーの危険性」,いいかえればその『悪魔性』(「悪魔の火」である本性)に,なんら違いはみだせない。

 チェルノブイリ原発事故(1986年4月)にしても,東電福島第1原発事故(2011年3月)にしても,仮に原発施設が本格的なテロ攻撃を受けて爆発を起こした事態を想定してみれば分かるように,「原発事故」じたいの本質的な理解としては,双方にあいだに違いなどありえない。 

 原発が事故を起こした時,とくに深刻で重大な事故を発生させた時は,これを制御しうる師匠=魔法使いは,本当に人間の世界のなかにはいない。お手上げになる事実は,なんども体験してきた。

 原油採掘所で発生した事故は大規模な事故であっても,この現場に人間が近づいて爆破するという方法を用いて収められる場合もある。しかし,原発の事故はそうではなく,放射性物質が原因してその手の手段による解決策は,いっさい受けつけない。

 それでも人類・人間たちは原発を増やしているのだから,あるいは最近の世界情勢でいえば,「プーチンのロシア」によるウクライナ侵略戦争のせいで化石燃料の入手難・高騰が襲ってきた事実を理由に挙げて,またぞろ原発再稼働を叫ぶ原子力ムラ側の面々がいた。彼らもまた「いまだけ,金だけ,自分だけ」の価値観の持主であった。
 

 ※-8「処理水放出しても,タンクの増設必要  汚染水発生が上回る  朝日新聞社試算」『朝日新聞』2021年4月19日朝刊27面「社会」

 東京電力福島第1原発から海に流す方針が決まった処理水について,政府が基本方針で定めた放射能の放出上限まで処分しても,タンクに保管する水が減らない可能性が高いことが分かった。雨や地下水の流入で増える汚染水が,処分量を上回るためだ。政府や東電は2年後の海洋放出をみこむが,満杯が迫るタンクの増設は避けられそうにない。

 補注)ここで「2年後の海洋放出をみこむ」と説明されているが,本日は2023年6月3日であり,その期日がもう来ている。この問題については,東電福島第1原発の所在県の地方紙『福島民友新聞』が2023年3月6日に報道した記事「夏から秋ごろにタンク満杯...海洋放出へ準備進む」を紹介しておき,とくにこの記事に添えられていた図解を,つぎにかかげておく。

処理水(汚染水)の「融けて流れりゃ皆同じ」理屈の実践
同上の『東京新聞』関連記事

〔記事に戻る→〕 政府と東電の公表資料から朝日新聞が試算した。政府が〔4月〕13日に決めた基本方針では,海に流す放射性物質トリチウムの総量を年間22兆ベクレル以下とした。これは,事故前に福島第1から排出されていたトリチウムを含む水の放出上限だ。    

 東電によると,敷地内のタンクの水に含まれるトリチウムの平均濃度は,昨〔2020〕年3月時点で1リットルあたり73万ベクレル。単純計算すると,22兆ベクレル分は,約3万トンの水に相当する。

 一方,建屋に入りこむ雨や地下水で,昨年は1日平均140トン(年間約5万1千トン)の汚染水が発生。降水量にもよるが,昨年と条件が同じなら,タンクに貯蔵する水の量は年間約2万トン増える計算になる。

 政府と東電は2025年に汚染水の発生量を1日平均100トン(年間約3万6千トン)まで減らす目標をかかげる。しかし,それを達成しても,汚染水の発生量は,処理水の放出量を年間数千トン上まわることになる。

 試算について,政府関係者は「きびしい結果。タンクを造らざるをえないだろう」と受けとめる。

 東電によると敷地内にあるタンクの容量は計約136万8千トン。先〔3〕月18日時点で約125万トンの水がたまっている。昨年と同じペース(1日130~150トン)で汚染水が増え続けると,2023年の春から夏ごろに満杯に達する。(引用終わり)

 この記事の内容どおりに理解すれば,東電福島第1原発事故から湧出している汚染水を,いうところの「処理水」に「浄化させて,太平洋に排出する」といっても,このために要求される処理能力が間に合わないと指摘されている。

 また,そもそもの問題は,通常の原発が排出する「トリチウムという “ひとつの核種” だけに限定されない」という困難に関係していた事実も無視できない。

 補注)参考にまで参照しておくと,『東京新聞』は東電の姿勢に対してはきびしい姿勢で,つぎのように報道していた。

      ◆ 事故を起こしたのは東電なのに…「顔」も主体性も見えぬまま
        原発処理水の海洋放出方針決定へ ◆
   =『東京新聞』2021年04月08日,
        https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1775 = 
   
    世界最悪レベルの事故から10年,東京電力福島第1原発のタンクで保管が続く処理水の海洋放出処分に向け,政府が最終調整に入った。菅 義偉首相は〔4月〕7日,放出に反対する漁業団体の代表者らを官邸に呼び,みずからは出向かなかった。

 一方,東電の小早川智明社長は柏崎刈羽原発(新潟県)の不祥事で謝罪の日々。当事者不在のまま,処分方針が決まろうとしている。(冒頭段落のみ引用)

原発処理水の海洋放出方針決定

 だから,東電福島第1原発事故「現場」は,現状のままでは『魔法使いの弟子』的な行為の水準に留まっている,と指摘されていい。

 もっとも,処理水を “薄めるとか薄めないとか” いう前に,そんなもの面倒だからひとすくいにして太平洋に向けてぶちまけてしまえばよい” ,それで万事解決するという〈素人考え〉もありうる。

 とはいえ,東電も国も実際にやろうとする汚染水の太平洋へのぶちまけ方は,実際的な方途としては,その素人考えと五十歩百歩である。

 ところが,東電福島第1原発事故現場にあっては,「1号機原子炉への注水を増量 2月の地震後に水位低下で」『東京新聞』2021年03月24日,https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1771  という報道もなされていたように,つぎのごとき事象まで発生させていた。

    東京電力福島第1原発では〔2021年3月〕22日,1号機原子炉への注水量を毎時3トンから4トンに増やした。2月13日の地震後に原子炉格納容器内の水位が低下したための措置。東電によると,事故で炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却に影響は出ていない。水位が下がりすぎると監視がむずかしくなるための対応だという。

 補注)たとえていうことにしたらこの記事は,『魔法使い弟子』の1人である東電にとって現状においてとりうる技術的対応は,この程度でしかありえないと「説明(いいわけ)する」記事であった。

 まず「原因の分析」⇒その「結果に対する対応」の前後関係をみきわめようにも,初めの分析からしてたいしてなにもできていないに等しいのが,東電福島第1原発事故現場。ただ「漏れたらしい分の水量をさらに追加して注入しておく」という話であった。そもそもが「問題を解決するとか,事故の後始末とか」いった段階ではありえなかった。

  〔記事に戻る→〕 2月の地震後,1号機の水位は約1メートル低下。事故時の損傷部から水が原子炉建屋内に漏れているとみられる。〔2021年3月〕22日午後8時25分ごろ,水位が格納容器底部から高さ92センチの水位計を下回ったため,注水量を増やした。23日午前4時前には,水位が水位計の位置を上回った。

 3号機原子炉格納容器では地震後,水位が30~40センチ低下し横ばいになっている。注水はデブリ冷却のため1~3号機で続いている。(引用終わり)

    なお,その2021年2月13日に発生した地震に関して記録された情報は,こうであった。2011年「3・11」のあとだいぶ時間が経っているけれども,余震のひとつとみなされている。なお,これじたいとしてもけっこう大きな地震であった。     

      発生時刻 2021年02月13日 23時08分ころ
      震源地  福島県沖  最大震度 震度6強
      震源   マグニチュード  M 7.3
      深さ   約60km

 つまり,いまだに手探り状態に終始していて,原発事故の後始末にさえ苦しんでおり,廃炉工程にまではなかなか進めえないでいる,東電福島第1「事故現場」の「10年後の段階」は,人間側の非力さを教えるばかりであった。

 どうみても,このゆきづまり状態を打開してくれそうな〈助っ人〉がみつからない。ましてや,お師匠さんとなって呪術を使い解決してくれそうな魔術師:親方がいるわけではない。
 

 ※-9「IAEA 福島第1原発の処理水 安全性検証で国際調査団の派遣検討」『NHK NEWS WEB』2021年4月15日,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210415/k10012975261000.html?utm_int=all_side_ranking-social_005

 IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長がNHKの単独インタビューに応じました。     

 東京電力福島第1原子力発電所で増えつづける処理水を,国の基準を下まわる濃度に薄めて海に放出する日本政府の決定に対し,周辺国などから懸念が出ていることを受け,さまざまな国からの専門家をくわえた国際的な調査団の派遣を検討していることを明らかにしました。(引用終わり)

 この記事についてはあえて,文章の字面だけで判読する。通常において原発から排出されている「トリチウムという核種」にかぎった問題ではなく,「東電福島第1原発事故の後始末」全般にまでわたる問題となるわけだが,その「ほかの何種類もの別の核種」が「処理水(汚染水)」のなかに含まれている,という問題があった。

 上の記事は,それをそのまま太平洋へ排出されている点を許しているという具合にも解釈できるニュースであった。この問題はさらに,つぎの記事を借りて説明してみたい。

 「原発汚染水にトリチウム以外の核種…自民原発推進派が指摘」『日刊ゲンダイ』2021/04/14 14:10,https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/287910

 専門家が危惧しているのは,トリチウムだけがクローズアップされていることだ。大新聞テレビは,汚染水を多核種除去設備「ALPS」で浄化しても,トリチウムだけは除去できないと報じ,原子力ムラは「トリチウムが放出する放射線は弱い」「自然界にも存在する」「通常の原発でも発生し,基準を満たせば海に流している」と,海洋放出は問題ないと訴えている。

 しかし,大手メディアはほとんど問題にしていないが,「ALPS」で取り除けないのは,トリチウムだけではないという。トリチウム以外にもヨウ素129,セシウム135,セシウム137など,12の核種は除去できないという。(引用終わり)

 通常の原発から最終的にトリチウムが排出されて地球環境が汚染されている事実,その公害として性格が実際に疑われて当然である科学的な根拠が明示されているなかで,東電福島第1原発事故から日夜吐き出されつづけている,それも最終的に除去できない「ほかの何種類もの核種」も重要な問題となって付随していた。

 「本稿(2)」の記述として最後につぎの画像資料を充てて終わりにしたい。トリチウムの「無害性」などとトンデモない理解・主張は,極楽トンボ的な科学無理解のなせる無知の発揚であった。

トリチウムの危険性は自明
ICRPとは国際放射線防護委員会

下の図解でいうと水素結合,塩基の部分に影響が出てしまい
遺伝情報が破壊される
DNAの構造

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【参考記事】

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