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米国の後追いをすることの危険性

 ニューヨークのメディア理論家が日本は米国の後を追うべきではないと訴えている(「米国の後追いをしてほしくない」メディア理論家のラシュコフへのインタビュー 日本にむけたメッセージも | インタビュー | Book Bang -ブックバン-)。

 氏は、自分たちを「神」だと思っている超富裕層について「超富裕層の大半は私たちを救うことには関心がな」いと述べている。
 優秀な人がその他大勢の人を幸せにしてくれると考えている人も少なくないのではないか。しかし、実際には、自分のことを優秀だと思っている人が自分よりも劣った存在のために働こうとは思わない。それゆえ、民主主義は完全ではないが独裁よりは優れているといえる。

 氏は、「例えば、ビットコインなどのデジタル記号システムで富を築けるのは、ひと握りの人々にすぎない。その他大勢は貧しくなっていくだけだ。」と述べている。
 我が国では、デジタル化やAIの開発において非常に後れを取っていることが問題となっている。後れたまま放っておくわけにもいかないが後れているというのはピンチではなくチャンスかもしれない。デジタル化やAIの開発によって生じる問題を回避することが可能だからである。
 確かに先んずれば莫大な利益を得る可能性はある。しかし、どのみちそれはひと握りの人だけである。

 氏は、「彼らが世界をどうとらえているのかを悟った。自分たちのサバイバルを可能にしてくれる人と、そうでない人――。彼らは、その境界線をどこに置くべきかを知りたがっているのだと。。」と述べている。
 想像するに、彼らは羨望の的であると共に嫉妬の対象でもあり、これまで騙されたり裏切られたりしたこともあるであろう。うまい汁を吸おうと近づいてくる人間も数えきれないほどいるのであろう。

 氏は、「トランプ前大統領と「MAGA(米国を再び偉大な国に)ムーブメント」は、私が新刊で警告した「革命」の一種だと言っていい。」と述べている。
 トランプ氏が米国で大きな支持を得ていることについて信じられないと思う日本人も少なくないであろうが、ほんの一握りの富裕層とその他大勢しか存在しない社会で富裕層が自分たちが生き残ることのみを考えているとすれば、その他大勢の人がトランプ氏を支持したくなるのも理解できなくもない。
 ただし、氏は、「私が望むのは…すべての人々や多文化を歓迎し、素晴らしい世界を築くことだ。」と述べている。
 トランプ氏を支持したくなる気持ちは理解できるとしても、本当にそれでよいかは別に考える必要があるのであろう。

 氏は、「私の関心事はAIが人々の仕事を奪うことではない。AIやロボットが仕事を肩代わりする分、労働時間を短縮し、芸術・哲学の勉強や子供の世話、愛する人との交流にもっと時間を割こうという発想が人々にないことだ。それが問題なのだ。」
 これは非常に重要な指摘である。日本では、AIによってこれからなくなる仕事というテーマの記事をたくさん見かけるが、むしろAIによって働く必要がなくなるのではないかという発想も必要である。AIがすべて生産活動を行い、収益は公平にすべての人に配分するのであれば、仕事がなくなっても困る人はいない。もしそのようなことが可能ならば、現在ではほとんど支持者のいなくなった共産主義も再び支持者を増やすかもしれない。

 氏は、「米国では、労組の立ち上げや法改正、(格差解消のための)税制改革は至難の業だ。」と述べている。
 ここも非常に重要である。日本も非正規雇用等において労働者の権利が十分に守られているとはいえないようになってきており、格差解消のための税制改革も難しくなってきている。その上、高齢者の年金減額や医療費の負担増も取りざたされており、せっかくある社会保障制度も捨てようとしている。その先にあるのは、ごく一握りの超富裕層とその他大勢しか存在しない社会である。日本は既に米国の後を追おうとしている。手遅れになる前に立ち止まって考えたほうがよいのではないか。

 米国は自由な社会といわれるが、その他大勢の人にとっては必ずしも自由な社会とはいえないのではないか。せいぜい一握りの超富裕層になれれば、自由になることが可能な社会といえるに過ぎないのではなかろうか。

 

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