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表現の自由と刑事責任

 名誉棄損については、主に民事責任が問題になることが多い(山口真由氏 星野源の不倫疑惑投稿に「名誉毀損にあたる」「事務所は訴えるべき」 | 東スポWEB (tokyo-sports.co.jp))。

 しかし、名誉毀損は犯罪である(刑法230条)。にもかかわらず、主に民事責任が問題となる理由の一つは、表現の自由(憲法21条)との関係で刑罰権の行使はできる限り控えたほうがよいと考えられているからであろう。確かに、政治家を批判した人が片っ端から名誉棄損で逮捕されるようなことがあれば問題であろう。

 しかし、名誉も人権として保障されている(最大判昭和61・6・11民集40巻4号872頁)から常に表現の自由が優先するわけではない。刑法も表現の自由との調整を図る規定(刑法230条の2)を置いている。したがって、適正手続を保障したうえで刑事責任を追及することは問題ない。

 民事責任の追及には特に次のような問題がある。
 第一に、ネット上の名誉棄損の場合、被告を特定するのに手間がかかる。
 第二に、時間と費用が掛かる。芸能事務所や富裕な有名人であれば負担できなくはないが、勝訴しても原則として被害者が負担しなければならないという問題はある。
 第三に、被害者から見ると賠償額が低い。つまり、経済的には割に合わないともいえる。
 第四に、たとえ多額の賠償額が認められとしても被告が支払えるとは限らない。

 以上のような問題はあるが、それには理由がないわけではないので、直ちに民法や民訴法を改正すべきということにはならない。不法行為には様々な類型があるが、全く知らない者同士が争うことも可能なので、正当な根拠もないのに気に入らない他人を訴える者が出ることを防ぐ必要があるからである。突然、全く見ず知らずの他人から訴えられて被告として訴訟を追行しなければならないというのは不合理であろう。

 そこで、刑事責任を追及することの重要性を改めて認識すべきである。かつて、刑事が捜査をするまでに時間がかかったため甚大な被害を被った芸能人がいる(ネット誹謗中傷と戦い20年以上 「申し訳ない。警察の怠慢です」警視庁刑事はスマイリーキクチさんにわびた |まいどなニュース (maidonanews.jp))。

 表現の自由を侵害しないようにするためには適正な手続を保障することが重要なのであって、被害者が困っているのに捜査をしないということはあってはならない。

 

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