最近のプリキュア、戦える男キャラ多すぎ問題


初めに

プリキュア、それは東映アニメーションが手掛ける未就学の女児向けアニメ作品である。
世界観や設定は作品ごとに異なっているが、大まかな流れは、『どこにでもいる普通の女子中学生の主人公が、ひょんなことから異世界出身の妖精と出会い、その力や異世界の技術を使って伝説の戦士・プリキュアに変身し、仲間達と共に世界征服を目論む悪の組織に立ち向かう』という物で統一されている。
所謂変身ヒロインもの、魔法少女ものに該当するシリーズであり、日本ではそこまで物珍しいジャンルでは無かったが、それまでの作品が、基本的に魔法やビームなど、不思議な力や特殊な攻撃主体で戦うことが多かった中、このプリキュア達はごく一部を除いてパンチやキックといったゴリゴリの格闘戦主体となっている。
アイドルのような可愛らしい姿の少女達が、豪快に体を振るって戦う姿に度肝を抜かれた人は多く、今では女児向けアニメのみならず、ウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊といった国民的ヒーローにすら数えられることもままある等、女児アニメの常識と概念を破壊し、新しいヒロイン像を確立したと言っても過言ではない。
その根底にあるのは、「女の子だって暴れたい」というコンセプトである。
「体を張って戦うの男の役目」「女性はその後ろで人々を支える」……そんな価値観も根強かった中で、男性ヒーローに負けず劣らず勇猛果敢に敵に戦う姿は、そんな固定観念を覆し、女性や女性キャラに新たな一面を付与するのには十分なものであった。
このような功績もあり、2004年放送の第1作「ふたりはプリキュア」以降、毎年新作が作られ、どの作品も1年間を通して放送されており、国民的アニメといっても差し支えないだろう。

しかし、ここ最近そんな女の子の魅力をテーマにしてきたプリキュアに、とある変化が起きている。
それは、「男性キャラの台頭」である。
ここでいう男性キャラとは、敵組織の構成員では無く、主人公達プリキュアを取り巻く、または明確に味方となっている男性キャラを刺すのだが、近年「デリシャスパーティ❤プリキュア」(以下:デパプリ)のブラックペッパー(品田拓海)やローズマリー、「ひろがるスカイ❤プリキュア」(以下:ひろプリ)のキュアウイング(夕凪ツバサ)と、プリキュアと肩を並べて戦える力を持った男の子や、遂には男性であるにも拘わらずプリキュアになれてしまうキャラが珍しくなくなってきている。
これについては激しく賛否両論になっているが、筆者はハッキリ言って「否」側である。
正直、これ以上戦える男キャラを増やすと、今までのプリキュアという作品やそれまでのキャラクターの存在を否定しかねないからだ。
今回は何故そう思ったのか、自分の意見や同じ考えの持ち主たちの意見を交え、分かりやすくまとめていきたいと思う。

理由その1:「プリキュア」というシリーズの否定

冒頭で話した通り、「プリキュア」とは、女性の魅力や強さを描く作品である。
各シリーズにおけるプリキュアという称号や肩書は、その世界における未来の作り手となる「少女達」の代表と言って良いだろう。
ここで肝になるのが、「少女」という部分である。
物凄く乱暴に言ってしまえば、彼女らが目指す将来の夢や目標を達成するにあたって…もっと言ってしまえば、直接戦う存在としても、女性である必要はない。
それにも拘わらず、何故そのような設定になっているのか……答えは至極単純で、「女の子だってそこを目指して良い」「女の子だって戦っていい」というメッセージである。
プリキュアとは、戦うヒロインの一種であると同時に、『常識や固定観念に囚われずに我が道を行く「少女達」』を分かりやすくしたものでもあるのだ。
だからこそ、敵キャラ以外の男性は、基本的にそんなプリキュア達をサポートしたり、日常を取り巻く役回りになっている。
だが、決して彼らに魅力が無いわけではない。
確かに彼らには基本的に戦闘能力は無いが、その分精神的にはプリキュア達よりもある程度成熟している場合も多く、迷える彼女らに助言を送ることもある他、日常に於いて彼女らを伝説の戦士としてではなく一人の人間として迎え、安心できる空気と場所になってくれる……プリキュアとは、魅力の方向性が違うだけで、十分に視聴者を楽しませてくれる存在なのである。

そんな中で、結局戦える男性キャラを味方側で出してしまえばどうなるか。
それ即ち「結局男でいいじゃん」という結論に至ってしまう。
そりゃそうだ。普段から鍛えに鍛えでもしていない限り、体格や筋肉量で男性が女性を上回っている等、今更誰もが知っていることだろう。
そんな常識を覆し、女性の新たな可能性や魅力を切り開いたのがプリキュアというシリーズなのに、それを否定するのは最早自殺に等しい。
一応、正面切って戦うのが今までのプリキュアで、男の子達は後方支援やいざという時の為のサポート役…という風にして過度に彼らがプリキュアの女の子達よりも強くなりすぎないように配慮はしているつもりのようだが、例えワンシーンの1展開だけでも、プリキュアが彼らに助けられた時、強そうに見えるのはどちらだろうか…
また、困ったことに彼らがピンチになってプリキュアの女の子達に助けられる展開は殆どない。
このアンバランスさからでは、「結局男でいいじゃん」と思われても仕方ないのではなかろうか。

本来ならそのキャラをもっと別の女の子に割り当てられた筈…今時やや男性的な言動のキャラが可愛らしいヒロインになるなんて、物珍しい展開でも無い筈なのに…少なくとも筆者はそう思わざるを得ない。

理由その2:他のキャラを踏み台にしかねない危うさ

言うまでもないが、男性キャラの明確な台頭はここ数年の話である。
この際ブラックペッパーは一度置いておくとして、キュアウイングが初の男子プリキュアである。
言うまでもないが、彼は物凄く目立っている。「黒一点」という今のところ唯一無二の個性によって。
一部界隈からの人気は最早筆舌に尽くしがたく、自分の経験だけの話になるが、プリキュア界隈が1人のキャラによってここまで沸いたのを見たのは初めてであり、同じチーム内のキュアバタフライや、映画で共演した他のプリキュア達との所謂カップリング絵が色々なSNSで氾濫している。

だが、その絵の大半が所謂「下ネタ」のような、性的な要素を嗅ぐわせるものとなっている。
結局のところ、多くの絵師ファンがキュアウイングというキャラクターの性別という唯一性を自分達に都合のいいように解釈し、己の欲求を満たすために使っている。
そしてその為に、本来なら本主本流であるはずのプリキュアの女の子達を巻き込んでいるのである。
筆者個人としては、これにはいい顔はできないし、実際そういった感想を持つ同志達は多い。

少々話がそれてしまったが、ここで公式の話に戻るとしよう。
ブラックペッパー…もといその変身者である拓海だが、彼は物語終盤以降、本格的に縦軸に絡み、最早主人公と言っても差し支えのない活躍を見せていく。
それは同じく登場したローズマリーもまた同じ…というか、製作側はこのローズマリーを明確に「裏の主人公」としていたらしく、プリキュア以上にこの人物主導で話が回されることも少なくなく、どころか縦軸パートに関しては完全に主人公となっていた。
これらが、もっとプリキュアの女の子達も積極的に関わってくるのであれば、もっと万人受けしていたであろう。
だが残念なことに、デパプリの物語は彼女達を置き去りにし、男性である彼らだけで縦軸を進めていった。
勿論彼女らも事件の大筋については興味を持っていたが、積極的に首を突っ込んだり、真相解明に動くことは無かった…いや、動けなかったというべきか。
勿論、「縦軸に関わるから出番が多かった」というだけでそれ以上の意味合いは無いだろう。
だが、なら何故その重要な立ち位置に居るキャラを全て男性にしたのか…何故プリキュアがそこに介入できるようにしなかったのか…謎は深まるばかりである。
キュアウイングについても同様である。
一般人の小さい男の子がプリキュアへの憧れを語るシーンがあるが、そこでは何故か他のプリキュアを差し置いてウイングばかりを推していた。
「男の子が同じ男の子に憧れるのは当然だ」という意見も確かにあるが、じゃあそもそも何故女児向けの作品でそんな大切なことを言うキャラを男の子にしたのか…普通に女の子が本来しかるべき姿である女の子のプリキュアに憧れる…そんなシーンで良かったのではなかろうか。
やはり何かの「意図」を感じずにはいられない。

このように、今のプリキュア界隈は公式、非公式問わず「男性贔屓」と思われても仕方がないような空気が漏れ出ている。
これではまるで、同じチームのプリキュアは勿論、今までの作品に出てきたプリキュア達すらも意外性やインパクトの為の踏み台にされているように見えてしまう。

特別とは、そこまでしないと演出できないのか、そもそもそこまで特別視する必要があるのだろうか。

理由その3:そもそも男である必要性を感じられない

ここまで話してふと思った方も少なくないだろう…「それ、女の子でも別に良くない?」と。
とどのつまり、彼らは役割的にも存在意義的にも、男性ある必要性が殆どないのである。
無理もない…先述の通り、「女の子だって暴れたい」「女の子だって○○をしてもいい」という物がシリーズを通してのテーマであり、真にクローズアップすべきは、常識的に考えれば女性や女の子達であり、その為にも彼女らが多種多様な場所や立ち位置に居るべきである。
そんな中で、急に男性ばかりに焦点を当てても場違いでしかない……それが我々否定派の思いである。

何故このタイミング…すでにシリーズが始まって20年近くが経ち、既にフォーマットも方向性もしっかり固まった今、急に時代や歴代作品に逆らうようになったのか…既に多くの製作陣によって積み重ねられ、実績を作ってきた魅力を何故自分達で壊すようなことをするのか…理解に苦しむことばかりである。

最後に

以上が我々否定派の意見である。
共通項として、我々の考えや感じていることは、「本来の視聴者である女の子達よりも、その後ろでこっそりと見ている大きな視聴者にネットで騒いでもらい、盛り上げて欲しい」という魂胆を感じずにはいられないということである。
確かに、最近の子供向け作品は大人でも楽しめるような世界観や人物関係を設けている物も多い。
だが、ここ数年の作品はそういった「深み」ではなく、所謂「エモバズ」というものを狙ったようにしか見えない。

プリキュアは良い子の為のアニメだった筈。
それを何故こうも歪めてしまったのか。
ハッキリと言って、今まで作られ、生み出された歴代のタイトルとキャラクター、それまで携わってきたスタッフ達への冒涜とすら言えてしまうものである。

この記事を書いた日、新作「わんだふるぷりきゅあ」が発表された。
この時点ではまだまだ未知数な作品だが、くれぐれも伝統やその誇りを捨て去るようなことだけはしないで欲しいものである。





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