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文披31題に参加してみる②(2024.07.11〜07.20)

day11 『錬金術』

 錬金術に精通すると噂高い魔女の家に忍び込む。魔女は台所にいた。こちらに背をむけ真剣に大鍋の中身をかき混ぜている。にしても暑い。それに、甘ったるい匂いがする。
 様子を窺っていると、急に魔女が振り返った。
「そっちの生地で餡を包んで頂戴。言うこと聞かないと箒で引っ叩くよ!」
 誰だ? 魔女が金を作っているなんて大法螺吹いたのは。
 それからずっと手伝わされている。
 饅頭の販売が、魔女の錬金術だった。
 ちなみに、同様の手口で捕獲された魔女のしもべが、俺以外にあと五人はいることが最近判明した。

day12 『チョコミント』

 昼休みは大概屋上過ごすようにしている。仕事がひたすらパソコンと睨めっこだから、休憩時間くらいは外の空気を吸いたくて。春先までは同様に考える社員たちで結構賑わっていたんだが、最近は違う。僕意外一人が二人いたらいいほうだ。何しろ、暑いからね。昼時だと頭の真上から太陽の光が降り注ぐ。社長の気まぐれで作られたビオトープと給水塔の影がなければ僕だって空調の効いたオフィスでぼうっとしてる。そうしないのは、多分僕が田舎育ちだから。アウトドア派な訳じゃない。屋内で縮こまったまま一日過ごせるほど我慢強くないってだけた。
 あと、最近屋上に気になる子が来るから……。

 その子は、屋上に来ると昼ごはんもそこそこに煙草を左手にチョコミントの棒アイスを齧るんだよねぇ。多分新入社員。つい心の中で「その子」って呼んじゃうのは、僕が四十のおじさんだから。二十歳そこそこなんてのは、僕からすれば男の子だから。

 いつも煙草とミントという組み合わせっていうのが面白い。好きな人には申し訳ないけど、僕はパクチーが大の苦手で、ミントも要するに葉っぱでしょという認識しかない。花粉症にはミントオイルがいいって一時期聞いたけど、僕は花粉症はないのでミントのありがたみを感じたこともない。そしてさらに分からないのがミントチョコだ。あのスースーするフレーバーと甘ったるいチョコの組み合わせとなるともう想像の範囲外なんだ。(好きな人がいたら、ごめん)だから僕はそんな未知の食べ物を飽きずに食べられるその子が興味深いと感じたんだ。それでつい声をかけてしまった。何しろ数少ない屋上の愛好家同士だしね。

「よく食べてるね、それ。好きなの?」
「いえ、別に」
 そっぽを向いたまま答えるその子に僕は携帯灰皿をぱかっと開けて差し出す。僕の行動が予想外だったのか、こちらを向いたその子はぎょっと固まってしまった。あー、もったい。アイスがとろけて棒から落ちそうになっているよ。僕は思わずその子の手を掴んで、アイスをパクッと口に入れた。今にも落ちそうだったんだ。そこで自分の失敗に気づく。アイスを全部食べてしまったんだ、僕が。あちゃー、大口開けすぎた……。
「ごめん」とその子の顔を見るが、彼はぴくりともしなかった。驚きすぎて息をすることさえ忘れてしまっているみたいだ。

 そりゃそうだよね。突然声をかけてきたおじさんに自分のアイスを横取りされたら、誰だって唖然とするし、怒りにかられるのが普通だ。僕は早口で弁解を試みる。
「本当に、ごめんね。このアイス、煙草をスパスパやりながら食べるものじゃないと思って灰皿出したんだけど無駄になったね。お金あげるから新しいの買っておいで。あ。この場合、僕が買って来るべきかな」
 立ち上がると、クイッと後に引っ張っられた。振り返ると、その子の形良く長い指が僕のシャツを掴んでいる。

「何?」
「いいんです」
と、目を伏せたまま、その子。
「いや、よくないでしょ。君、いつもここでこのアイス食べてたじゃん。好物なんだよね?」
「煙草も、チョコミントもただの背伸びなんで」
「背伸び?」
「大人っぽく見られたかったから。貴方に相応しいって」
「あ……、そうなの」
 う、ん? 変だな。若い子の言葉だからか、言われている言葉の内容が頭に入ってこないよ。僕がウンウン唸りながら首を傾げていると、またクイッとシャツを引っ張られる。
「あの、返事をください」
 今度はまっすぐ見上げてきた。うわ、よくよく見ると顔面が強い。艶のある黒髪に切れ長の目、なだらかな鼻梁、唇はぽてっとしてるけどそのおかげで顔の印象が柔らかくなっている。イケメンっていうより美人さんだね、こりゃ。
 と、見惚れているとその子は立ち上がって僕にその強い顔面を近づける。

 ウワー、近いよ。どうしようおじさん臭かったら。焦る僕にその子が言う。
「俺告白しましたよね。今、貴方に」
「告白……、あーそうなの? 君、僕なんかでいいの?」
「はい。俺、貴方がいいんです」
 至極真面目に、当然のように答えられ僕の頭はふたか真っ白になる。

 気づけば、驚くほどあっさり「いいよ」と言っていた。

day13『定規』

 昔から不器用だった。
 特に苦手だったのが定規の使い方。
 左手で定規を押さえつつ右手の鉛筆を動かすというのがどうしても無理だった。
 何とかひいた線はガタガタで、見れたもんじゃなかった。
 この私の不器用さは今でも健在で、結婚相手の君に対しても、好きの線を真っ直ぐひけずに困っている。

day14 『さやかな』

「あのひとは違う」
と、幼馴染はその泥棒を庇う言い方をする。警官の僕はこの家の警備を任されていた。一体誰のために何日も徹夜で警戒していたと思うんだ。僕は彼女の言い草にカチンとなる。
「アホ言うな。泥棒や。犯罪者やぞ」
「だってあのひと、私が階段から落ちかけたの助けてくれたもーん。いいひとだもーん」
「あのな、お前んとこの先祖代々の巻き物を盗ってったんやぞ。それないと君、次の当主になれへんのやろ。小さい頃から、当主なりたがってたやん。つまりあいつは君の夢を壊した悪者やん」
 つい、ガーっと反論すると、彼女は風船みたいに頬を膨らまし上目遣いに僕を睨む。う、ちょっと可愛いな。
「それはな、きっと理由があんねん」
と、彼女が言う。
「どんな理由や」
「「目にはさやに見えねども」分かることもあんの」
 結局理由はないんかい。僕は呆れかえる。
「君な〜」
「あ、そうだ。私、あのひとと結婚する。そんで、あのひとに当主になってもらお」
「はあ? 顔も名前も知らん奴を婿に取る気か。君、面食いちゃうの。あいつ、仮面とったらメッチャ不細工やったらどーすんの」
「そりゃ、顔はほとんど分からなかったけど、あのひとは絶対に二枚目ですぅ」
 つーんと顔を背ける幼馴染にもはやため息しか出てこない。
「は、女心はわからん。全きさやかに見えん事ばかりや」
 もう見放したという態度を見せつつ、僕は今頭を悩ませている。物置に突っ込んだ怪盗の衣装を、いつ回収するべきか。

day15 『岬』

 新しい暮らしは予想以上に心地よかった。誘われた土地の海に向かって張り出す角度もいい具合だった。
 でも、今は少し後悔している。
「神様は尖っているモノが好きって言うけど、本当?」と君に聞かれ迂闊に「うん」と答えたことを。
 定住し土地神になった僕は、君亡き後もこの岬を離れられない。

day16 『窓越しの』

 葉桜の頃、隣の校舎の君に気づいた。夏の盛り、プールで泳ぐ君の背中をコソッと見下ろしていた。秋雨、一つの傘を別の女子と分け合い歩く君を横目に下校した。君と私の間にはいつも見えないガラスが挟まっていた。冬。君を思いながら毛糸を選ぶ。

 私は窓を開く。君に渡したいものがある。

day17 『半年」

 昼夜逆転生活には慣れた。
 コンビニとか弁当工場のバイトとか。給料いいし、単純作業、苦にならないし。
 働いていてふと思う。世間では今夏だよな。プール行きたい。流れるやつ。富士山もいいな。ご来光とか一生に一度くらい。でもなぁ、プールに入れば十中八九溺死する。清々しい朝日とか寒気しか感じない。
 悲しくなって大好きな君の唇を思い浮かべる。それから君の首のライン。お腹がグゥと鳴り、近くのパートさん達にクスクス笑われてしまった。はぁ、ダメだ。
 僕は吸血鬼になった。恋の対象の君が食物に見える。半年経ったのに、慣れることができない。

day18 『蚊取り線香』

 金曜の夜は蚊取り線香に火をつけてから彼に電話する。燃え尽きるまでの六時間無料アプリを使って切れ切れの通話。

 県外に出た私には彼との通話が心の支えだ。でも最近会話が弾まない。共通の話題が尽き始めたから。

 そして今日、別れを告げられた。燃え尽きた私の恋。蚊取り線香はまだ赤く点っている。

day1 『夕涼み』 2

 花火大会の開始を河川敷に敷いたブルーシートの上で待つ。
 ふふっ。暑いから浴衣にチューリップ帽をかぶってきてしまった。彼に見られたら趣味悪って言われるやつ。
 ドタキャンされたから今日は一人。だからちょっとダサくてもいい。
 こんな程度で心が軽くなるなら彼と恋人である必要ないかなと気づいた夕暮れ。

day19 『トマト』

 会社の昼休み。銀行に用事で行く途中、学校帰りの小学生を見た。
 真昼の陽光がそそぐ中、ランドセルを背にプチトマトの鉢植えを抱えている。

 そっか、夏休みかぁ。

 私の休みはあと三十分、君たちは残り三十日。比較して思う。時間なんて儚いよ。気づけばおばさんになってる。
 沢山楽しんでという心の中でエールを送ってから、親と子にとっては宿題との長い戦いの期間になるかもしれないと気づく。アラフォー未婚おばさんの戯言かよ。
 ほろ苦い昼休みになった。


7/11〜7/20までの十日分でしたが、day20『摩天楼』に取り組めておりません。七月後半で書きます。
Twitter上にあげられる程度のお話だと、皆さんの作品を読ませていただく側としても取り組みやすいのと、読み返しやすいので、嬉しいです。そして自分の未熟っぷりにも改めて気付かされるのが良いです^_^

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