今さらながら調剤の外部委託に反対の立場から

経団連のスポークスマンが、作り笑いで「薬剤師の先生方の対人業務のために」とまるで気持ちの入っていない話をしていたが、今の時点で、対人業務ができている薬剤師がどのくらい育っているのだろうか。対物業務に追われているから対人業務ができないのではない。時間がなくても対人業務は可能である。現時点で問題なのは、“対人業務が能力的にできない薬剤師が大多数を占めているから全体的に見て出来ていない”ということである。
対人業務だけでフィーを取れるレベルに達していない(おそらく大多数の)薬剤師が、調剤業務を手放したこの先が心配である。中には、在宅でオンラインで服薬指導だけの仕事になるのかな♪と希望にあふれたツイートも見かけたが、現在、飲み合わせのチェック程度しかできない能力ならば月収10万台になるだろうに、本人はどうやら今と同じ程度の収入が得られると思っているらしいところに、今の若い人たちの能天気ぶりにもびっくりである。世の中はそんなに甘くない。

それと、ここからが大切な話である。薬剤師が関わることで成果を上げている事柄が、後退で済めばいいが消滅してしまうのではないか?という恐れである。医療へのアクセスフリーの日本では、複数のクリニックに受診し各々から処方を受けることが普通である。この事のヤバさに、気付いていない薬剤師、気付いていてもアクションを起こせない薬剤師が現時点では多数派だろう。しかし、気付いている薬剤師の一部は、それらの処方を一元的に管理し、医療機関に情報提供を行い、ポリファーマシーの解消やガイドラインに沿った処方鑑査、患者の自己管理能力ならびに臓器機能を評価した上での処方提案など、AIでは不可能な部分の適正な薬剤管理に進みつつある。そういった取り組みができなくなるのではないか?それは患者にとって大きな損失ではないだろうか。

本来、対人業務と言えばこういった行為なのであるが、薬剤師会や経団連が言っている対人業務は、薬の飲み方を患者に説明する、せいぜいが飲み合わせをチェックするという次元での理解のように思えてならない。経団連の人たちは、ご自身が高齢ではないのと不勉強なのとで、ポリファーマシーその他薬学的に相当な注意が必要な事案が日常的に転がっている事については想像すらしていないし、対する薬剤師会も同等のレベルでの対人業務を想定していたようで、肝心な議論がなされずに、的外れの、説得力のない幼稚な反論に終始したのは非常に歯痒かった。また、この議論により、薬局薬剤師の業務内容が低いレベルで世の人たちに理解されるであろうことも誠に遺憾である。
一言で対人業務と言っても連想する内容が人によって異なるため、議論がかみ合っていないのに結論ありきで決まってしまったのも、急がなければならない理由があるんだな・・・とあきらめモードで眺めていた

そもそも医療に関する事は、自制心を有する医療者が発案し、プランを考えて、業者に委託すべきであった。医療は利益を第一に求めるものではなく、患者の利益・幸せの為にある。利益を上げる事こそ善と考える人たちが参入して、果たしてそれが守られるのか?
彼らにとっては薬剤師など赤子の手をひねるのと同じだろう。同じ理想を持った医療人の中でぬくぬくと育ってきた我々が信じている良心を、この人たちに期待してはいけない。くれぐれもご用心、戸締りをしっかりと。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?