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「囀る鳥は羽ばたかない」二次創作②

保下風香さんの素敵なイラストから妄想して書きました(保下さんにはご了承を頂いております)

南国のバカンス②
              (リゾートホテルプール脇にて)

俺達がこのリゾートホテルに来て、
今日で3日目

最初の1日目は、
長旅の疲れで
寝落ちした矢代さんの寝顔を見ながら
一晩、夜を過ごした

2日目の昨日は、何処へも行かず、
プールで浮いている矢代さんを
眺めて過ごすつもりが…
結局、我慢出来ずに部屋に攫(さら)い
無理をさせてしまった

会えない4年間で培った
俺の忍耐力はどこへ行ったのか…
俺は
矢代さんにはブレーキが効かない…

そして今日は3日目の午後

ここはプールサイドのマットレスの上
今日も暑くはあるが、
程よく吹く風が肌に心地よく
俺の隣にいる矢代さんは今、
俺の膝を枕に
すやすやと穏やかな寝息を立てている

白い頬
前髪を下ろした明るく細い髪に、
木漏れ日がせわしなく動いている

淡く揺れ動くそれは
次第に、横たわる貴方の身体へ
這うように届いていく

目で追っていると
昨日の午後の
貴方の姿態を思い出す…

_薄暗い寝室

甘い花の香の満ちる中で

俺の指に反応して喘ぐ声
白く細い腰を嫋(しな)らせて
何度も達する顔に煽(あお)られ
際限なく貴方を求めてしまった…

幾度となく攻める俺の背に
両手を回し、しがみつき、
俺の名を呼ぶ

両手は、最初から
縛る必要など無かったのだ…

「セックス」では無く
「俺を」好きだと知った
あの日
互いの想いを知ってから
愛を交わす日々は、まだ浅い

だが俺は
身も心も貴方に溺れていく…


「ミスターどめきー」
突然、中庭のドアが開き
ボーイのピエールが無邪気な声を掛ける

「しっ」俺は急いで口に指を立て
寝ている矢代さんに視線を落とし、
「静かに」と身振りで、
ピエールの大声をたしなめた

しかし、そんな細かなサインに
気が付ける筈もなく、
ピエールはニコニコと笑いながら
こちらにやって来る

「ミスターやしろ、taking a siesta?」

と言いながら
銀色のトレイの上のスイカを
俺に手渡した

二切れの、三角に切られたスイカ

今朝、ピエールが部屋に来た際に
今日のサービスはスイカだと聞かされ、
スイカは
(スプーンでは食べた気がしない)と思い
三角に切るように注文しておいたものだ

余分に用意していたチップを
ピエールに手渡すと、
子供の様に喜び
ポケットに仕舞っている

矢代さんが起きてから食べようと
皿を脇に置いていると

「ミスターどめきー」
少し声を落とし
「Can you help me?」
としゃがみこんで聞く

まだ幼さが残っている
ルームボーイのピエールは
16,7才位だろうか

「何を助けて欲しいんだ」
そう尋ねると

そっと上を指差す

見上げた先には、
通路に設置してある
アーケード用のテントが
中庭の木に引っかかっている

「あれを取るのか?」
そう聞くと、

しゃがんで膝を抱えたまま
情けなさそうにコクリと頷く

それと同時に、
急に早口で
現地語らしき言葉でまくし立てた

言葉は全く分からないのだが、
何となく、
(アレを元通りにしないと上司に叱られる…)
という事らしい

痩せて、子供の様な容貌のピエールは
最初に会った時から
放っておけない雰囲気だった

「手伝ってやれよ、百目鬼」

不意にマットレスの方から声がした

やはり矢代さんを
起こしてしまっていたらしい

「すみません…」
「起こしてしまって」

「構わねーよ」

「もう起きなきゃ、夜、眠れなくなンだろ」
そう言って

ムクリと起き上がった

前髪をかき上げ、
ゆっくりと
煙草に火を付ける矢代さん…

その仕草に
ピエールが目を奪われているのが分かる

それを横目に見ながら

「そうですね…」
と答えた俺に

言葉が分からず
不安になったのか、
ピエールは俺と矢代さんを交互に見ながら

「ミスターどめきー?」
俺を覗きこむ

小柄で目の大きく、
どことなく妹の葵に似ているピエール

「いいんですか?」
矢代さんに尋ねると

「ちびっ子ボーイじゃ
あんなとこ届かねーだろ」
と、くっくっと笑う

『…そうだ』
『この人はこんな風に笑う…』

『何の屈託も無く…』

そう思っていると

矢代さんにつられて
ピエールも笑っている

俺はピエールの頭に手を置き、
右手で親指を立てOKのサインをして、
目で行くぞ、と促した

果たして、
ピエールは嬉々としてついて来る

脚立のある倉庫まで二人で取りに行き、
一番デカい奴を抱えて戻ると、
安定するように安全装置のロックをし
布の掛かっている木の下に設置した

ピエールは
石畳で脚立が揺れない様に
両手で抑えている

俺は静かに脚立に上り、
跨いで立ち上がる
テントの紐に手を伸ばし
布の本体を両手で掴むと扇ぐ様に波立たせ、
木の枝から布を徐々に離していく

絡むように張り付いている布は、
一回では剥がれず、脚立を移動しては数回、
木の枝と葉を盛大に散らして
漸(ようや)く回収が出来た

ウロウロと俺の周りを貼り付いては
脚立を抑えながら
心配そうに見上げるピエールは、
作業が終わると

「ミスターどめきー!」
「Thank you so match !」
と叫びながら抱きついてきた

あとは何か叫んでいたが
意味が分からなかった

ふと、視線を感じる…

にっこり笑っている矢代さん

頬杖をつき、あぐらをかいて…

屈託のある…笑顔

『…俺は…』

『何か』

『あの人の…』
『気に障ることを…』

『したのだろうか…?』

興奮して
(お礼を言っているらしい)ピエールを
俺から剥ぎ取って
脚立ごと
中庭から追い出し、
矢代さんの傍へ戻ると

「へー」
「お前、子供からもモテんのな…」
と言う

『…!!』

『これは』

『モテる…?』

『喜んでるだけだと…』

『貴方の…誤解です…』

そう言いたかったけれど
更に拗(こじ)れる気がして

「スイカ、温(ぬる)くなってしまいましたね…」
と小さく呟いた

「俺は別にいいわ〜」
「お前、食えば?」

ころんと横になり、俺の膝に頭を置く

「食べないんですか?」

「……」

「腹減ってねえ」

そのまま無言で横を向く

その様子が、
何となく子猫が拗(す)ねているようで
可笑しい様な
可愛い様な気持ちになった

『拗ねても俺の傍を離れずにいてくれる…』

なだめる様な気持ちで
矢代さんの白い頬に手を伸ばし
髪を撫でる

「貴方だけです…」
そう呟く

『俺には…』

貴方は
顔を隠すように下を向くと
肩を丸めたまま

「スイカ」
「ひとくち、な」
と短く答えた

俺はスイカを一口齧(かじ)ると
矢代さんの顔を正面に向け、
上から交わるように
そっと口に移した

柔らかい唇が触れる

「…ん」
小さな声を上げて、
貴方はそれを口に入れると、

ついとまた横を向き
俺の右手を掴んだ

『貴方の傍にいます…』
『ずっと』
心の中で、そう呟く

この愛しい人を
また抱き上げて
部屋へ連れて行きたい衝動を
必死に堪(こら)えていると

中庭の向こう側
長く白い塀の奥の通路では
ピエールが重い脚立を
ガチャガチャと運ぶ音が
次第に遠くなっていく

天頂をわずかに西に傾いた
陽の光が差すプールの上を
風が渡り
小さな波の集団が
水面を舐めるように
移動していく

間もなく
俺の手を握ったまま
静かな寝息を立て始める貴方を、
俺は愛しいとも恨めしいとも
思いながら眺めている

午後の風は優しく
俺達の上に咲く
ブーゲンビリアの紅い花を
貴方の白い胸に落とす

それすらも官能的に見えて
つい、目を逸らすが

もう片方の手は正直に
貴方へと伸びてゆく

今日こそは手加減をしないと
明日は貴方が立てなくなる…
そう思いながら…


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